第76話 いってきます
第三章
第76話 いってきます
◇
早朝。
ルノア村。
まだ日も昇りきっていない。
少し冷たい朝の空気。
なのに。
村の広場には人が集まっていた。
理由は一つ。
ヒトデ。
でかい。
とにかくでかい。
村の中央へ陣取る巨大な赤黒のドラゴン。
折り畳まれた翼だけでも家数軒分。
その姿は何度見ても圧巻だった。
そして。
その前には。
新装備に身を包んだルノア組。
たくろーは黒赤の大盾と剣。
のんちゃんは新しい弓を肩へ掛け、腰にはナイフ。
れんかは黒いローブの上から、いつものように本を抱えている。
ひーちゃは白木の杖を片手に、どこか嬉しそうだった。
あっくんは巨槌よりも、新しい包丁を眺めている。
たにしの腰には二本の双剣。
見慣れないはずなのに。
不思議と最初から使っていたように馴染んで見えた。
「どう!?」
あいりが胸を張る。
赤黒マント。
ゴーグル。
小さな剣。
本人は完全に冒険者だった。
「似合ってるよぉ」
ひーちゃが笑う。
「でしょ!」
あいりは満足そうだった。
その隣。
「がおー」
こはるが両手を上げる。
ヒトデを模した着ぐるみ。
赤黒の翼。
小さなしっぽ。
丸っこいお腹。
どう見てもドラゴンの子供だった。
「かわいい」
のんちゃん即答。
「かわいいな」
たくろーも認めた。
「がおー」
こはる満足。
◇
広場では見送り組も集まっていた。
スズ。
ルーク。
ベルク。
ソニア。
ジージ。
工房職人達。
村人達。
山賊達。
かなりの人数になっている。
「ひーちゃさん」
ルークがひーちゃに声を掛ける。
「ルークさん。おはようございます」
ひーちゃが微笑む。
ルークは少し大きめの木箱を持っていた。
「これを皆さんに」
ぶっきらぼうに差し出す。
中には。
木彫りのアミュレット。
一つ一つ形が違う。
「おぉ」
たくろーが手に取る。
釣り竿と冠。
金槌と盾。
弓と太陽。
氷と火。
包丁と大槌。
筆とひまわり。
ヒトデとハナ。
それぞれの特徴を模した意匠になっていた。
「すごーい!!」
あいりが目を輝かせる。
「ひとで!!」
こはるが一つを持ち上げる。
そこには。
小さなドラゴンが彫られていた。
「がおー」
こはる満足。
「ぐるる」
ヒトデもなんか満足そうだった。
「ひーちゃさんにはこれを」
ルークが手渡す。
「わぁ…」
月に薬草の意匠。
「素敵…」
ひーちゃはあの日の夜を思い出して柔らかい気持ちになる。
「おーかわいい」
のんちゃんが、ひーちゃの手元を覗き込む。
「なんか、ひーちゃのだけ凝ってない?」
「そんな事ないと思いますけど」
ルークは真顔で答える。
「ひーちゃって月のイメージ?」
れんかもちょっと不思議そうに見る。
「ルークさんにはそうなんだろうねぇ」
ひーちゃはルークに微笑む。
「え?なになに?その二人通じ合ってる感!?なに!?」
のんちゃんヒートアップ。
「ふふふ…内緒」
ひーちゃが悪戯っぽく笑う。
「ロマンスの予感」
「では、皆様の旅の無事を願ってます。いってらっしゃい」
ルークは動揺などする様子もなく、柔らかく微笑んだ。
「はい、いってきます」
ひーちゃも柔らかく微笑み返す。
何か言いたげなのんちゃんが、れんかに引っ張られて行く。
空気が読める娘である。
◇
「たにしさーん!!」
今度はスズが叫ぶ。
目の下にクマ。
酷い。
職人の限界だった。
「装備無くさないでくださいねー!!」
「寝ろ。つか無くすか」
たにしが言う。
「寝たら出発に間に合わないじゃないですか!!」
「もう終わっただろ」
「魂がまだ工房にあります!!」
完全に徹夜明けだった。
「スズちゃん寝なよ。疲労回復薬あげようか?」
ひーちゃが心配そうに言う。
「白虎からみんなが帰ってくるまで寝ます!!」
それは寝すぎ。とひーちゃが笑う。
「疲労回復薬はやめとけ…」
たくろーは遠い目をしていた。
◇
「朝から大騒ぎじゃのぉ」
ジージが、ソニアとベルクと共にたにしに声をかける。
「ほんとにな」
たにしが笑う。
「まぁ留守はまかせとけ」
「おじーちゃん何もしないでしょ!」
「ふぉっふぉっふぉ」
「村長!ちゃんとベルクさんとやるので、ご安心ください!」
「ソニア、よろしく頼む」
「村長、向こうの支店に話通してあります。アテンダントも手配してありますので、お立ち寄りください」
「ホント、シゴデキだな。助かるわ。留守まで頼んですまんな」
たにしは頭をかきながら言う。
「いえ、いってらっしゃいませ」
ベルクは笑って答えた。
「よし、じゃぁ乗り込むかぁ!」
たにしが声をかける。
こはるはすでに、ヒトデの鼻先をよじ登っている。
「慣れすぎだろ」
「ぐるるー」
完全にいつもの光景だった。
◇
荷物も積み込み終わる。
「ハンカチ、ティッシュ持ったかぁ!」
「おやつは500Gまでな!バナナはおやつに入らないぞ!」
「遠足じゃないから」
れんかが呆れる。
「よーし!」
のんちゃんが両手を上げる。
「それじゃ出発ー!!」
「おー!!」
あいり。
こはる。
ひーちゃ。
たくろー。
れんか。
あっくん。
のんちゃん。
そしてたにし。
順番にヒトデの背へ乗り込む。
「うおぉ……」
思ったより広い。
「だから何人乗りなんだよお前」
たくろーが呟く。
「ぐるる」
「余裕らしい」
「え?たくろーもわかるの?」
「ノリだ」
たくろーもちょっとテンション上がってるらしい。
◇
全員が乗り込んだのを確認し。
ヒトデがゆっくり翼を広げた。
ゴォォォォ……
巨大な影が村を覆う。
風が吹く。
村人達が手を振る。
山賊達も手を振る。
「いってらっしゃーい!!」
「優勝してこーい!!」
「机壊すなよー!!」
「それはお前らだろ!!」
大爆笑。
ヒトデが前足を踏み出す。
一歩。
二歩。
そして。
ドォン!!
大地を蹴った。
「うわぁぁぁぁ!!」
あいり歓喜。
「ひゃぁ!?」
のんちゃん悲鳴。
「ママ楽しそう!」
「楽しくない!!」
風圧。
浮遊感。
一気に地面が遠ざかる。
村人達の姿が小さくなる。
広場。
工房。
市場。
畑。
東の橋。
ルノア温泉。
全部が少しずつ小さくなっていった。
◇
「おぉ……」
たにしが思わず声を漏らした。
綺麗だった。
ルノア村。
自分達が作った村。
仲間達がいる場所。
帰る場所。
空から見ると。
それは思っていたよりずっと大きく見えた。
「すごーい!!」
あいりが身を乗り出す。
「おー!!」
こはるも両手を広げる。
「落ちるなよー」
たくろーが首根っこを掴んだ。
「むー!」
「むー!」
全く反省していない。
その様子に。
ひーちゃがくすくす笑う。
れんかは本を開き。
あっくんは既に弁当を広げ始めていた。
「早くない?」
「朝ごはん」
昼もあるのね。
「ぐるるるる」
ヒトデが気持ち良さそうに鳴く。
巨大な翼が空を切る。
その先には。
白虎。
武闘大会。
そして。
まだ見ぬ景色。
ルノア村一行を乗せたドラゴンは。
青空の向こうへと飛んでいった。
三章
終
読んで頂きありがとうございます!
次章より、白虎武闘会編となります!
稚拙な文で読みにくい所も多いと思いますが、ノリで読んで楽しんでいただければ嬉しく思います!




