第64話 ただいまっ!
第三章
第64話 ただいまっ!
「いや待て待て待て」
山道。
たにしが、
後ろを振り返る。
「なんで来る?」
グルル。
ドラゴンだった。
上空。
赤黒い巨体が、
ゆったりと旋回しながらついて来ている。
「ねぇ…これ」
のんちゃんが笑う。
「完全に保護者ポジじゃん」
「卵託した相手についてくるのは普通じゃろ」
カンカンが言う。
「普通とは」
たにしが真顔で返した。
その前。
たくろーが、
ドラゴンの卵を抱えて歩いている。
「お前本当に持てるんだな……」
「重いは重い」
たくろーが淡々と言う。
「だがまぁ、
ギリ運べる」
「基準がおかしい」
れんか真顔。
こはるは、
その横をてとてと歩いていた。
「どらごんー!」
上空へ向かって手を振る。
「グルル!!」
普通に返事が飛んできた。
「もうペット感覚なんだよなぁ……」
たにしが遠い目をする。
その時。
カンカンが、
ふと村の方を見る。
「しかしまぁ」
「久々に行くかの」
「ルノア村?」
スズが聞く。
「おう」
カンカンが笑う。
「弟子の仕事ぶりも見たいしの」
「えっ」
スズの顔が固まる。
「急に緊張してきたんですけど!?」
「今更か?」
「師匠相手は別です!!」
「ガッハッハ!!」
そんな話をしている内に。
山道を抜け。
ルノア村が見えてきた。
そして。
門番の山賊が。
「あ、おかえり――」
止まった。
「……は?」
数秒。
沈黙。
その後。
「ドラゴンだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
絶叫。
鐘。
鳴る。
村が騒然となった。
「敵襲ぅぅぅぅ!!」
「いや違――」
「ブレス来るぞ逃げろぉ!!」
「だから違うって!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
「温泉客避難させろ!!」
「子供どこだ!!」
「酒場閉めろ酒場ぁ!!」
たにしが、
騒ぎ出した村を見てため息を吐く。
「……まぁ、こうなるか」
上空。
ドラゴンも、
ちょっと困ったように旋回していた。
「……グル」
「お前も困るんかい」
のんちゃんが吹き出した。
数十分後。
なんとか誤解を解き。
現在。
村長宅前。
こはるが、
ドラゴンの卵を撫でていた。
「ここおうち!」
「おぉー……」
あいりが卵を見上げる。
「ほんとに持って帰ってきた……」
「どうすんだこれ……」
たにしが頭を抱える。
その時。
ばさぁっ!!
「うおっ!?」
風圧。
ドラゴンが、
村長宅の上へ降りようとしていた。
「待て待て待て!!」
たにし絶叫。
「そこはダメだ!!」
「潰れる潰れる!!」
みしぃっ……
屋根が嫌な音を立てた。
「あーそれはちょっと」
ひーちゃがゆったりと言う。
「みんなのおうちこわれる!!」
こはるも慌てた。
ドラゴン、
ぴたりと止まる。
「グル?」
「“グル?”じゃねぇ!!」
たにしが全力ツッコミ。
「お前デカさ理解しろ!!」
その時。
れんかが、
ふと空を見上げた。
「……ルノア組の屋上ならいけるんじゃない?」
全員止まる。
「あ」
たにしが呟く。
その瞬間。
スズが、
ぱっと顔を上げた。
「耐震強度はバッチリです!!」
「耐震ではないが?」
「似たようなもんです!!」
スズが胸を張る。
「のんちゃんさんが屋根の上走り回っても壊れない前提で設計してます!!」
「私どういう扱い?」
のんちゃんがが苦笑い。
「震災扱い」
ひーちゃも苦笑した。
数分後。
ルノア組本部。
巨大木造建築。
その屋上。
ドラゴン。
「収まってるなぁ……」
たにしが見上げる。
完全に寝そべっていた。
しかも。
ちょっと落ち着いている。
「グルル……」
ドラゴンが、
ゆっくり鼻を鳴らす。
「ん?」
のんちゃんが首を傾げる。
すると。
カンカンが、
少し笑った。
「気に入ったんじゃろ」
「何が?」
「匂いじゃ」
「匂い?」
「山の匂いに近い」
カンカンが、
屋上を見上げる。
「石。鉄。火。木」
「あと弟子の匂いじゃな」
スズが、
きょとんとした。
「私です?」
「お前、
鍛冶場と炭と鉄の匂い染み付いとるからの」
「女の子に言う事です!?」
「事実じゃろ」
「ガッハッハ!!」
ドラゴンは、
満足そうに目を細めていた。
「……まぁ確かに」
たにしが周囲を見る。
「ルノア組、
半分工房みたいになってるしな」
のんちゃんも頷く。
だが。
「……グル」
ドラゴンが、
少しだけ落ち着かなさそうに鼻を鳴らす。
すると。
村長宅。
窓が開く。
「どらごーん!」
こはるの声が、
夜風に乗って響いた。
「グルル……」
ドラゴンが、
ようやく安心したように身体を伏せる。
「……分かるんだな」
たくろーが呟いた。
「そうだねぇ」
ひーちゃが微笑む。
◇
夜。
村長宅。
リビング。
テーブル横。
巨大なドラゴンの卵が、
どーんと置かれていた。
「いや圧迫感すげぇな……」
たにしが呟く。
「存在感あるねぇ」
のんちゃんも苦笑した。
こはるは、
卵にぺったりくっついている。
「ぽかぽかー」
ハナも横で丸くなっていた。
その時。
ひーちゃが、
卵を見ながら首を傾げる。
「でもぉ」
「ドラゴンって、
卵温めたりしなくて大丈夫なんです?」
「あー確かに」
たにしも見る。
「鶏みたいに抱えるとか?」
「無理でしょサイズ的に」
れんかが真顔で返した。
すると。
カンカンが、
鼻を鳴らす。
「竜の卵はちと特殊での」
「ある程度近くにおればええ」
「近く?」
「魔力とかオーラとか呼ばれるもんなんかの?そんなもんを蓄えるらしい」
カンカンが卵を見る。
「親竜でも、
他の生き物でもええ」
「生きた気配の近くにおると、
少しずつ孵化が進む」
「へぇ……」
「じゃあみんなで居れば、
育つんだねぇ」
ひーちゃが感心する。
こはるが、
卵をぎゅっと抱きしめた。
「みんなでそだてる!」
その横で。
あっくんが、
少しだけ残念そうに呟く。
「ドラゴンの肉……残念……」
空気が止まる。
「まだ言ってんの!?」
たにしが即ツッコむ。
すると。
こはるが、
卵を庇うように立ち上がった。
「こい!」
「たべない!」
「どらごんもたべない!!」
「えっ」
「え…あ…いや食べないよ?」
あっくんが、
さすがに少し慌てた。
こはる、
じーっ。
「たべるかおしてる」
「してないしてない」
「ちょっと気になっただけ」
「それがダメなんだよ」
たにしが即ツッコむ。
「こはる大丈夫だよ。みんなでお手伝いだよね」
ひーちゃが苦笑する。
「完全に家族増えたねぇ」
のんちゃんも笑った。
「……まぁ今更だな」
たにしも少し笑った。
夕暮れのルノア村。
今日もまた。
妙な日常が増えていた。




