第61話 ドラゴンとカンカン
第三章
第61話 ドラゴンとカンカン
静かだった。
さっきまで、
あれだけ暴れていたドラゴンが。
今は、
こはるを見下ろしている。
「……グルル」
低い唸り声。
でも。
敵意は、
かなり薄れていた。
こはるは、
ハナを抱っこしたまま首を傾げる。
「んー?」
そして。
「あっち?」
山奥を指差した。
ドラゴンが、
ゆっくり頷くように喉を鳴らす。
「おい」
たにしが警戒は緩めず顔をしかめる。
「まさかとは思うが」
「呼ばれてる?」
のんちゃんが言う。
こはる、
こくんと頷いた。
「やままできてって」
「いやいやいや」
たにしが即答する。
「危険すぎるだろ!」
「ドラゴンの巣とか普通に死亡イベントだろ」
「それはそう」
れんかも真顔。
たくろーが、
盾を構えたままドラゴンを見る。
「……だが」
「少なくとも、
今は殺る気じゃなさそうだな」
「信用できそう?」
スズが聞く。
「出来たら苦労してねぇよ」
たにしが即答した。
その時。
のんちゃんが、
ふと思い出したように言う。
「……思ってたんだけどさぁ」
「ん?」
「こはるって前から、
魔獣とか動物と通じてる感あるよね」
空気が少し止まる。
「あー……」
たにしが遠い目をした。
「森でもよく、
変な動物寄って来てたしな……」
「最近は、こはるに寄ってくるのは危険なさそうって思ってるぅ」
ひーちゃが苦笑する。
「ハナもサカナも普通に居着いてるしな」
たくろーも頷く。
「前に鳥とも喋ってた」
れんかがぽつり。
「“あめふるからかえろ!”って言ってた」
「実際降ったんだよな……」
たにしが頭を掻く。
「なんかもう、
こはるならそういうのありそうなんだよな……」
こはるは、
きょとんとしていた。
「おはなししてるだけだよ?」
「いやまぁそうだな」
たくろーが苦笑する。
その時。
こはるが、
たくろーの服を引っ張った。
「ん?」
「たくろー!」
こはるが、
真っ直ぐ見上げる。
「どらごんにじゆう!」
空気が止まる。
「どゆこと?」
たにしが聞き返す。
こはるは、
一生懸命続けた。
「おさかなといっしょ!」
「じゆう!」
「じゆう!そらたのしい!」
「……」
たくろーが、
少しだけ目を閉じる。
池。
鯉。
こはるに、
“自由”を教えた日。
思い出していた。
「……たくろー?」
あいりが見る。
数秒。
沈黙。
そして。
たくろーが、
大きくため息を吐いた。
「……行ってみよう」
「マジで?」
たにしが振り返る。
「こはるがこんなに我が儘みたいなこと言うことないだろ」
「それはそうだけどよ…」
「たにしよりこはるの方が信頼できる」
「れんかそれはさすがに言い過ぎ」
のんちゃんが爆笑しながら言う。
その時だった。
「ガッハッハッハ!!」
岩場の上。
聞き覚えのある笑い声。
「うわ居た」
カンカンだった。
大槌を担いでいる。
「師匠ぉ!?」
スズが叫ぶ。
「来てたんですか!?」
「そりゃ来るわい!!」
カンカンが笑う。
「ワシの山じゃぞ!!」
「いや知らんが」
たにしがツッコむ。
カンカンは、ドラゴンを見る。
すると。
ドラゴンも、じっとカンカンを見返した。
「……久しぶりじゃのぉ」
カンカンが言う。
空気が止まる。
「知り合い!?」
たにしが即ツッコむ。
「ああ、この山の主じゃ」
「ワシがこの山に来た時はもうおった。300年くらい前かの?」
ドラゴンが、低く喉を鳴らした。
「グルル……」
「わかったわかった。おちつけ」
「いや会話してる?」
「長く生きた竜は賢いからの」
カンカンが鼻を鳴らす。
「人間より話通じる奴もおる」
「耳痛ぇな……」
たにしがぼそっと呟いた。
カンカンは、ニヤリと笑う。
「まぁ立ち話もなんじゃ」
「歩きながら話すかの」
こっちじゃ。とカンカンは山道を登り始めた。




