閑話 静かな夜
閑話
静かな夜
夜。
南区。
薬草小屋。
カン。
カン。
静かな音が響いていた。
◇
「ほんと、増えましたね」
ルークが棚を見る。
乾燥薬草。
瓶。
束ねられた葉。
最近は温泉旅館でも薬草を使うようになり、小屋の中はかなり手狭になっていた。
「回復薬いっぱい作るからぁ」
ひーちゃが、少し困ったように笑う。
「置く場所なくなっちゃってぇ」
「お忙しそうですもんね」
「自分じゃ出来ないし、お願いしちゃったぁ」
ぺこりと頭を下げる。
「お願いされました」
と、ルークが微笑む。
◇
カン。
木を削る音。
夜風。
ランタンの灯り。
ルークは黙々と作業していた。
一枚。
一枚。
丁寧に木を削る。
何度も指先で表面を撫で、少しでも引っ掛かりがあるとまた削り直す。
「……そこまで削るんですねぇ?」
ひーちゃが不思議そうに聞く。
「角、残ると危ないんで」
ルークが答える。
「子どもさんもいらっしゃるんで特にです」
また木を撫でる。
妥協がなかった。
◇
「この木、いい匂いしますねぇ」
ひーちゃが木材へ顔を寄せる。
「薬草と相性いい木なんです」
「相性?」
「湿気吸うから長持ちするんです」
「へぇ〜」
さらに別の板を見る。
「こっちは?」
「虫がつきにくいです」
「ほぇ〜」
ひーちゃは、少し感心したように棚を見る。
ただ置くだけじゃない。
薬草が長持ちするように。
使いやすいように。
怪我しないように。
全部考えて作っている。
◇
カン。
また静かな音が響く。
真剣だった。
無口で。
静かで。
でも。
木へ触れる手は、とても丁寧だった。
「……」
ひーちゃは、その横顔をぼんやり見つめる。
なんだか、心の小さなささくれも優しく削られるような気がした。
◇
「これ、こっち置きますねぇ」
ひーちゃが木箱を抱える。
その瞬間。
ぐらっ。
「……っ」
足が滑る。
倒れかける。
すぐ。
ルークが腕を掴んだ。
「危ない」
「……ぁ」
一瞬。
ひーちゃが固まる。
近かった。
木の匂い。
少し低い体温。
静かな呼吸。
◇
「……すみません〜」
「いえ、大丈夫ですか?」
ルークは、すっと手を離した。
「こういう事は私がやりますから」
と、ひーちゃから木箱を受け取る。
「すいません~。何かお手伝いしないとと…」
「ありがとうございます。では一つ甘えてもいいですか?」
ルークが悪戯っぽく微笑む。
「はい、なんでしょう?」
「お茶を煎れて頂けませんか?もうそろそろ終わるので」
「良ければ一緒にお付き合い頂けると」
と微笑む。
「はいっ」
と、ひーちゃも微笑んだ。
◇
夜風が吹く。
薬草の香り。
木の匂い。
静かな時間。
窓の外の夜空を見る二人。
ひーちゃがお茶を飲みながら穏やかな声で言う。
「月が綺麗ですねぇ」
ルークは少しだけ黙って。
「そうですね」
と、穏やかな声で返した。
月明かりだけが流れる、とても静かな夜だった。




