閑話 たくろー先生
閑話 たくろー先生
昼下がり。
ルノア村。
温泉旅館裏。
「こはるー! あぶないよー!」
あいりの声が響く。
池。
その縁を。
こはるが、ぴょこぴょこ歩いていた。
「おさかなぁ……」
「落ちるってぇ!」
あいりが慌てて追いかける。
その瞬間。
つるっ。
「あっ」
こはるの足が滑る。
ばしゃんっ!!
「あーーー!!」
池へ落下。
「こはるぅぅぅ!!」
あいりが慌てて手を伸ばす。
そして。
つるっ。
「うわぁぁぁ!?」
どぼん。
二人目。
少し離れた場所。
縁側に座っているれんかが、じーっと見ていた。
「なにしてんの」
真顔だった。
ばしゃばしゃ。
「つめたぁい!!」
「おさかなにげたぁ……」
「そりゃ逃げるでしょ」
れんか、ため息。
その時。
たまたま通りかかった、たくろー。
「……何やってんだお前ら」
「たくろー!!」
あいりが手を伸ばす。
「たすけてぇ!!」
「いや足つくだろそこ」
池。
普通に浅い。
「…………」
あいり、ぴたりと止まる。
すっ。
立つ。
「あ、ほんとだ」
「ほんとだ!」
こはるも立つ。
水深、こはるの腰くらい。
「冷静さの欠如」
れんか呆れ顔。
「いやなんか溺れてる気分だった!」
「だった!」
「気分で溺れるな」
たくろー、深いため息。
「ほら上がれ」
「はーい」
「ぬれたぁ」
「当たり前だ」
その時。
こはるが、池を指差した。
「おさかな」
「……」
たくろー、
少しだけ黙る。
「ほら来い」
ざぶっ。
「え、また入るの?」
あいりが驚く。
「捕まえたいんだろ?」
「やさしー」
「うるせぇ」
数分後。
「ほら、こはる」
たくろーが、
魚を掴み上げる。
「おぉー!!」
あいりとこはる、
拍手。
ぴちぴち跳ねる魚。
こはるが、
目をきらきらさせる。
「たべるー?」
たくろー、
少し魚を見る。
「……いや、コレ鯉って言ってな」
「こい?」
「食えなくはないけど、あんま食う魚じゃねぇ」
こはる、きょとん。
「たべないの?」
「そこはまだこはるには難しいかもな」
鯉は、
ぴちぴち跳ねていた。
たくろーは、
少しだけ笑う。
「魚もな自由に泳いでたいんだよ」
「お前らと一緒だ」
「じゆう?」
「あぁ」
「こはるも走り回るの好きだろ?」
「うん!すき!」
「あいりと走ると楽しいだろ!」
「うん!楽しい!」
「魚もな、泳ぐの好きなんだよ。みんなと泳ぐの楽しいんだよ」
こはるが、鯉を見る。
「こうやって捕まえると楽しくないよな」
「うん…さびしい…」
「こはるは優しい子だな」
たくろーが、微笑んでこはるの頭を撫でる。
「たくろー!おさかなに、じゆう!」
そんなのどうでもよさげにこはるが池を指さす。
ぽちゃん。
池へ戻した。
「ばいばーい!」
鯉は、ゆらゆら泳いでいく。
「自由だね!」
あいりが笑う。
こはるも、なんだか嬉しそうだった。
その横で。
れんかがぽつり。
「たくろー、たまに先生みたい」
「うっさい」
「でもちょっと分かる。なんだかんだ優しいし」
あいりも頷く。
「うっさい」
たくろーは、ずぶ濡れのまま、同じくずぶ濡れの、あいりとこはるを小脇に抱える。
キャーキャーはしゃぐ幼女二人。
「れんか、この二人、風呂放り込め!風邪引く!」
「はいはい」
パパでもあるかも。と、れんかは、少しだけ笑った。




