第55話 届かなかった場所
第三章
第55話 届かなかった場所
少しだけ。
部屋の空気が重くなる。
「……でもやらん」
たにしだけが、
いつも通りだった。
お豆ちゃんが、
むぅっと頬を膨らませる。
「なんでさぁ……」
「疲れたって言っただろ」
「でも届くかもなんだよ!?」
「届いた後がめんどくせぇ」
「そこまで考える!?」
「考えるだろ普通」
たくろーが頷く。
「王になった後の政治とか、絶対地獄だぞ」
「うっ……」
お豆ちゃんが少し詰まる。
「姉様はそこまで考えてません」
カエデが即答した。
「おい妹」
「まず落としてから考える派なので」
「脳筋だぁ……」
れんかが呆れる。
「でも実際、そこまで行ったんでしょ?」
ひーちゃが聞く。
その言葉で。
空気が少し変わった。
ドラちゃんが、
小さく笑う。
「行ったっすねぇ……」
「1st最後の中央戦」
「俺、今でも覚えてるっす」
懐かしそうだった。
「中央大都市外壁」
「突破した時、マジで全員叫んでたんで」
「うるさかったよねぇ」
のんちゃんも笑う。
「白虎が西門壊して」
「朱雀が南から突っ込んで」
「玄武が正面抑えて」
「プレイヤー軍、数千人いたっけ?」
「友軍NPC含めるといただろうな」
たくろーが頷く。
「たしか、あの時点で同接記録更新してた」
「お祭りだったもんねー!」
お豆ちゃんが笑う。
でも。
その笑顔は、
少しだけ寂しかった。
「あと少しだったんだよ」
静かな声。
「中央の最奥」
「王の間まで、ほんとあと少し」
誰も茶化さない。
「でも」
ドラちゃんが、
少し視線を落とす。
「四天王が出てきたんすよね」
空気が止まる。
ひーちゃとれんかが、
少し首を傾げる。
「そんな強かったんですかぁ?」
「強いなんてもんじゃねぇな」
たくろーが言う。
「理不尽だった」
「少なくとも、ウチらの主力三人がかりでようやく一人止められるかどうかってレベルだ」
「しかも、それが四人居る」
「うわぁ……」
ひーちゃが素で引く。
「しかも連携してくる」
ドラちゃんが苦笑する。
「正直、あそこから空気変わったっす」
「プレイヤー側の最前線、一気に崩されたんで」
「しかも、王は最後まで玉座から動かなかったんすよ」
「ほえぇ」
ひーちゃが驚く。
「つまり」
カエデが静かに続ける。
「私達は、王へ届く前に敗北した」
「……」
少し沈黙。
お豆ちゃんが、
静かに笑う。
「だからさぁ」
「悔しいんだよね」
その言葉だけは。
やけに子供っぽかった。
「届きそうだったんだもん」
「あと少しだった」
「だから、終われない」
たにしは、
黙って聞いていた。
「……まぁ」
のんちゃんが頭を掻く。
「お豆ちゃんが諦め悪いの、今さらだしねぇ」
「だって負けっぱなし嫌じゃん!」
「7回負けっぱなしたやつの言葉は重いな」
「ぐっ……!」
お豆ちゃんが詰まる。
「しかも最後嫁いで来たし」
「のんちゃんまで!?」
「面白かったからセーフ」
「アウトだわ!!」
少し笑いが起きる。
その空気の中。
カエデだけは、
静かに地図を見ていた。
「ですが」
「現状、中央側の動きはない」
「現在、白虎中都市は姉様が管理しています」
カエデが、
白虎を指差す。
「そして、その管轄小都市の一つを管理しているのがドフラさんです」
「まぁ、一応市長みたいなもんっすね」
ドラちゃんが苦笑する。
「だから実際、白虎側の戦力と情報は、ある程度こちらで動かせるんすよ」
「青龍も、恐らく単独では動けない」
「そして白虎内部では、既にたにしさん支持派が増えています」
「だからいらねぇって言ってんだろ……」
たにしが頭を押さえる。
「いやでも実際」
ドラちゃんが苦笑する。
「今、白虎で“たにしさん復帰説”めちゃくちゃ広まってるんすよ」
「誰だ流したの」
全員。
お豆ちゃんを見る。
「えへ」
「お前かぁ……」
たにしが天井を仰いだ。




