閑話 普段大人しい人ほど怖い
閑話
普段大人しい人ほど怖い
「……なんか今日、あっくん静かじゃない?」
夕方。
村長宅リビング。
のんちゃんが首を傾げた。
「いや、いつも静かだろ」
たにしが言う。
「今日は“無”に近い」
れんかが真顔で補足した。
確かに。
あっくんは、キッチンの隅で座っていた。
虚無。
「大丈夫ぅ?」
ひーちゃが心配そうに聞く。
「……平気」
声が遅い。
反応も遅い。
「絶対平気じゃない」
◇
「昼、なんか食べてたよねぇ?」
のんちゃんが思い出したように言う。
「キノコ」
れんかが即答した。
「東の森で採ってた」
空気が止まる。
「……どんな?」
「紫」
「アウト」
たにしが即答した。
その瞬間。
ガタッ!!
あっくんが立ち上がる。
「いやしかしですね皆さん!!」
「うわ喋った!?」
全員驚いた。
しかも。
テンションが高い。
「キノコというのは実に奥深い食材でしてね!!」
「誰!?」
◇
「まず香りですよ香り!!」
あっくんが机を叩く。
「森の湿度!!土の匂い!!胞子の広がり!!」
「な、なんか始まった」
たにしが引く。
「あと食感!!」
「止まらないねぇ……」
のんちゃんが苦笑する。
「キノコはですね!!
焼く!!
煮る!!
干す!!
全てに可能性があるんですよ!!」
「普段の三百倍喋る」
れんかが真顔で言った。
◇
「特に僕はですね!!」
あっくんが熱弁する。
「食というのは生活を豊かにするものだと常々思っておりまして!!」
「お、おう」
たにしがちょっと押される。
「市場における食文化というのはですね!!
ただ腹を満たすだけではなく!!」
バンッ!!
「人を繋ぐんですよ!!」
沈黙。
「……なんか良いこと言ってる」
ひーちゃが小声で言う。
「でも怖い」
のんちゃんも小声だった。
◇
「あと僕はですね!!」
あっくんが続ける。
「実は前から思ってたんですが!!」
「まだあるの!?」
「たにぃの部屋が殺風景すぎます!!」
「急に刺すな!?」
「生活の彩りが足りません!!
観葉植物!!
絵画!!
あと収納!!」
「ほんとに毒キノコのせい!?」
「あとフラワーロックはどうかと思います!!」
「やめろ!!」
あいりとこはるが笑っていた。
「おはなおどる!」
「おどるー」
「子ども人気は高い」
れんかが頷く。
◇
「もっと言いますとですね!!」
あっくんは止まらなかった。
「たくろーさんの作業部屋は効率重視すぎます!!
もっと温かみを!!」
「いやいらんが?」
「あと、のんちゃんは塩を使いすぎです!!」
「あ、はい。気をつけます」
「ママが圧された…」
れんかが珍しいものを見る目で驚く。
「れんかちゃんは!よくわからないものを料理にいれない!!」
「隠し味」
「隠れすぎて怖いです!!」
「素直」
◇
「ソニアさん!!」
「は、はいっ!?」
きたっ!とソニアは身構える。
「いつも帳簿ありがとうございます!!働きすぎです!!もっと休んでください!!」
「え?あ、えへへ……」
ソニアがちょっと照れる。
「ひーちゃさん!!」
「はいぃ?」
「いつも優しいです!!
でももっと怒っていいと思います!!特にたにぃに!」
「えぇ〜?」
「あと、たにぃは借金返してください!!」
「なんで俺だけ2周目だよ」
◇
「……面白いから、
もうちょっと食べる?」
れんかが真顔で紫キノコを差し出す。
「やめろ」
たくろーが即止めた。
「村が壊れる」
◇
数時間後。
ぱたり。
「寝た」
たにしが呟く。
あっくんは、机へ突っ伏して眠っていた。
「すごかったねぇ……」
「料理番組三日分くらい喋ってた」
のんちゃんが苦笑する。
「逆にレア」
れんかが頷く。
◇
翌朝。
「……」
あっくんが固まっていた。
「全部覚えてる?」
たにしが聞く。
数秒沈黙。
「……うん」
「おぉ」
「……死にたい」
その瞬間。
のんちゃんが吹き出した。
ルノア村の朝は
今日も緩やかに始まった。




