第37話 商人は根を張らない
二章
第37話 商人は根を張らない
「……増えてんなぁ」
朝。
村中央。
たにしは、
積み上がった木箱を見ながら呟いた。
市場予定地。
現在。
既に荷物だらけだった。
「これ誰の?」
「ベルクさんのですぅ」
ソニアが帳簿を見ながら答える。
「また?」
「またですぅ」
最近。
ベルクの滞在時間が、
妙に長い。
荷物も増えた。
木箱。
樽。
布。
工具。
食材。
しかも。
「なんか倉庫まで作り始めてない?」
「仮設ですよ」
後ろから声。
「うわ出た」
「人をオバケみたいに言わないでください」
ベルクだった。
今日も営業スマイル。
◇
「いやお前さ」
たにしが木箱を指差す。
「もう住んでない?」
「中央に妻と娘がおりますが?」
「聞いてないし、設定細けぇよ」
ベルクは、
いつものように微笑む。
「物流には、拠点が必要なんですよ」
「おぉ」
「特に最近、ルノア村の流れが良い」
流れ。
その言葉に、
たにしは少し首を傾げた。
「流れ?」
「人です」
ベルクは市場予定地を見る。
「物だけでは、市場は出来ません」
「……」
「人が集まる場所に、物が集まるんです」
珍しく。
少し真面目な顔だった。
◇
「実際、最近増えてるよねぇ」
のんちゃんが頷く。
「釣り人とか採集者とか」
「あと変な旅人」
れんかが言う。
「この前“姐さんに挨拶したい”って山賊来てた」
「広がってるなぁ……」
たにしが遠い目をする。
その横。
「この村、居心地良いんですよ」
ベルクがぽつりと言った。
空気が少し止まる。
「え」
「ベルクさんがそんなこと言うの珍しいねぇ」
ひーちゃが笑う。
「商人って、もっとこう……ドライな感じかと」
「ドライですよ?」
ベルクは肩を竦めた。
「利益も大事です」
「ほらな」
「ですが」
ベルクは、
市場予定地を見る。
「私たちにも心のようなものがあるんだと思います」
静かな声だった。
「……」
たにしが腕を組む。
「悪い気はしないけどなぁ」
ベルクは、
少しだけ笑った。
「商館、建てませんか?」
沈黙。
「……商館?」
「簡単に言えば、交易所兼倉庫です」
「ほう」
たくろーが少し反応する。
「物流管理できるな」
「荷物整理もしやすくなります」
「あと宿泊も可能ですね」
「便利そう」
スズの目が輝く。
「市場の横に作れば、景観は問題ないです!!」
「お前ほんと景観好きな」
「大事です!!」
◇
「でもさぁ」
たにしが聞く。
「商館って、結構デカい話じゃね?」
「ええ」
ベルクは頷く。
「なので」
にこり。
「定住許可を頂こうかと」
空気が止まった。
「……」
「……」
「……定住?」
ソニアが復唱する。
「はい」
ベルクは、いつもの営業スマイルのままだった。
「私、しばらくルノア村を拠点にします」
「おぉー!!」
あいりが拍手する。
「ベルクさん住むの!?」
「ええ」
「わーい!」
「歓迎されてるねぇ」
ひーちゃが笑った。
「いや待て」
たにしが言う。
「お前、“商人は根無し草”とか言ってなかった?」
「言いましたね」
「根張るじゃん」
「例外です」
「例外なんだ」
ベルクは、市場予定地を見る。
「投資ですよ」
「うわ商人だ」
「この村、まだ未完成でしょう?」
「まぁな」
「だから面白い」
その言葉に。
たにしは、少しだけ笑った。
ルークも。
スズも。
似たことを言っていた。
未完成だから面白い。
発展途中だから楽しい。
そういう場所に、ルノア村はなり始めていた。
◇
「歓迎会します!?」
スズが元気よく言う。
「またバーベキュー!?」
のんちゃんが笑う。
「お酒はこちらで」
ベルクが笑う。
その時。
「ベルクさん!!」
若頭が走ってきた。
「木箱どこ置くっすか!?」
「あぁ、あちらへ」
「うっす!!」
軽快に運ばれていく荷物。
増えていく物資。
広がっていく村。
そして。
市場予定地の端。
いつの間にか立てられていた木札。
【ベルク商館(仮)】
「もう建てる気満々じゃねぇか」
たにしが真顔で呟いた。




