第27話 笹は食べない
二章
第27話 笹は食べない
カン――ッ!!
火花が散る。
熱風。
鉄の匂い。
山の岩陰に作られた使い込まれた鍛冶場は、
思った以上に“本物”だった。
「……すげぇ」
あっくんが小さく呟く。
無骨な男――カンカンは、
無言で鉄を叩いている。
太い腕。
重い槌。
無駄のない動き。
見ているだけで、
職人だと分かった。
カンッ!!
最後の一撃。
赤かった鉄が、
静かに形を整える。
「ほれ」
「え?」
パンダみたいな名前だな…とぼんやり考えてたたくろーへ剣が投げ渡された。
たくろーの剣だった。
「……あ」
刃こぼれ。
歪み。
全部直っている。
なんなら攻撃力も上がっていた。
「うわ」
たくろーが目を丸くする。
「これ数分で……?」
「雑に使いすぎだ坊主」
カンカンは鼻を鳴らした。
「鉄が泣いとる」
「すんません……」
思わず謝るたくろー。
その横で。
「本物だ」
あっくんが真顔だった。
「なんだと思っとった」
「テンプレドワーフ鍛冶NPC」
「誰がドワーフじゃ!!」
怒鳴られた。
「違うんだ」
「なんも違わんわ!」
「なんで怒鳴られたんだろう」
◇
「……で?」
カンカンが腕を組む。
「なんの用じゃ」
たくろーとあっくんは顔を見合わせた。
そして。
「村に来ませんか?」
直球だった。
沈黙。
「断る」
「早っ」
即答だった。
カンカンは椅子へ座る。
「ワシは山を降りん」
「なんで?」
あっくんが聞く。
「静かだからじゃ」
「なるほど」
「あと歳じゃ」
カンカンは肩を鳴らした。
「今さら環境変えとうない」
「職人って頑固だなぁ……」
「お前らルノア村のもんじゃろ?」
「はい」
たくろーが答える。
「ジジイがおるじゃろ」
「ジージ?」
「アイツ昔っから働かん」
吐き捨てるように言う。
「知識だけはあるクセに、
全部人任せにしおる」
「否定できねぇ……」
たくろーが苦笑した。
「じゃがまぁ」
カンカンは立ち上がる。
「お前らが来る分には構わん」
「ん?」
「鉱石持ってくるなら、
武器くらい見てやる」
空気が少し変わる。
「ほんとに?」
「その代わり素材は自前じゃ」
「それはまぁ当然か」
たくろーが頷く。
カンカンは、
ちらりとあっくんを見る。
「包丁欲しい言っとったな」
「……うん」
「料理人なら、
道具はケチるな」
その瞬間。
あっくんの目が少し変わった。
「……良い人」
「うるさい」
ぶっきらぼうだった。
◇
夕方。
ルノア村。
「なるほどねぇ」
のんちゃんが頷く。
「つかさぁ」
たにしは腕を組んでいた。
「ここのNPC、個性と自己主張強すぎらん?無駄設定多すぎて人間臭すぎて困る」
「それはまぁたしかに」
たくろーが苦笑する。
「俺、ああいう職人系と相性悪い気がする」
「自覚あったんだ。どっちかって言うとジージ側だもんね。たにし」
れんかが真顔で言う。
「絶対“釣り竿借金男”ってバレたら怒られる」
「もう遅い気もするけどねぇ」
のんちゃんが笑う。
「そんなわけで、しばらくあっくんと通ってはみるわ。好感度みたいなのもあるかもだしな」
「三顧の礼みたいなことあるんかねぇ。まぁ二人がいいんなら頼むわ」
たにしが肩を竦める。
その時。
ふと、
たくろーが思い出したように言った。
「そういや」
「ん?」
「カンカンさん、“釣り竿借金”の話した瞬間めちゃくちゃ嫌そうな顔してた」
沈黙。
「……なんで言うの?」
「いや雑談で?」
「雑談で村長の恥を共有すんな?」
恥な自覚あるんだ?とたくろーは少し笑う。
「『鉄は鍛えられるが。そいつの性根は無理そうだ』って」
「頑固職人もお手上げ!?」
「あと」
「まだあるの?」
「『借金して道具買うやつは、道具も金も使えん』って」
「深いな!そのじーさんNPCだよな!?中の人田中角栄だったりせんよな!?」
その横で。
れんかが真顔で言った。
「職人NPCの好感度マイナススタートじゃん」
「否めない…」
たにしの目にルノア村の夕日がいつもより赤く染まった。




