第25話 川の主釣り
二章
第25話 川の主釣り
「うわ……」
森を抜けた瞬間。
全員、少しだけ足を止めた。
東の川。
幅はかなり広い。
水は澄んでいて、
陽の光を反射していた。
川沿いには白い花。
風。
水音。
今までのルノア周辺とは、
少し空気が違う。
「綺麗だねぇ……」
ひーちゃが小さく呟く。
「川だぁぁぁ!!」
たにしだけテンションがおかしかった。
「切り替え早ぇな」
たくろーが呆れる。
だが、
たにしは既に竿を構えていた。
「ここ絶対釣れる」
「何を根拠に」
「ロマン」
「ダメだこいつ」
◇
「じゃ、一旦周囲見るか」
たくろーが地図を開く。
「橋とか街道とか確認したいしな」
「私も行く。水質とか薬草見ておきたい」
たくろーとひーちゃが川上へと歩き出す。
「私は周辺警戒してくる」
のんちゃんは既に弓を持っていた。
「私も行く?」
れんかが言う。
「れんかはここに居てくれ」
「なんで?」
「一人は怖いだろ!」
「だっさ」
のんちゃんは、そうしてあげてと笑いながら森へ入って行った。
そんな中。
たにしだけ、
既に川へ集中していた。
「主……来い」
「主…聞いてる?」
「……主……」
「もしもーし!」
◇
「ぴくりともせんな……」
数十分後。
たにしは真顔だった。
椅子代わりの岩。
川。
釣り糸。
完全に休日のおっさんだった。
その時。
ググッ!!
「っ!!」
竿が曲がる。
「来たぁぁぁ!!」
たにしが立ち上がる。
「うお重っ!!」
水しぶき。
暴れる何か。
「主か!?主なのか!?」
必死に引く。
そして。
バシャァ!!
「うおっ!?」
飛び出した。
魚。
……ではなく。
長靴だった。
「……」
「……」
「…………」
「こんなマンガみたいなことあるんだ」
れんかが真顔で聞く。
「違うそうじゃない」
たにしは静かに呟いた。
◇
一方その頃。
「おー」
たくろーとひーちゃが川沿いを歩いていた。
「橋跡あるな」
崩れた石橋。
かなり古い。
「昔はもっと東との行き来あったのかもねぇ」
ひーちゃが周囲を見る。
その近く。
【水晶草】
【清流水】
「おぉ」
「薬系素材だ」
ひーちゃが少し嬉しそうに採取する。
「この水かなり綺麗だねぇ」
「飲めそう?」
たくろーが聞く。
「煮沸は必要だけど、かなり良いと思う」
「生活圏広がるな」
その時
ひーちゃの動きが森の奥を見て止まった。
「……」
「ん?」
「川向こう、魔力反応ある」
空気が少し変わる。
「強い?」
「まだ遠い。でも嫌な感じ」
その方向。
さらに東。
森の向こう。
まだ見えない場所。
そして。
苔むした看板。
【中央街道 東ルート】
「ほんとに中央へ続いてんだなぁ……」
たくろーがぽつりと呟く。
ルノア村の外。
中央。
他の街。
他のプレイヤー。
この世界は、
ちゃんと広かった。
◇
「もどりー!」
のんちゃんが戻ってくる。
「周辺魔獣は今んとこ大丈夫そう」
「珍しくちゃんと近場だったな」
「失礼だなぁ」
「実績がねぇんだよ」
たにしはまだ釣りしていた。
「そっちはどうだった?」
のんちゃんがたくろーが聞く。
「橋跡あった」
「薬素材も色々あったけど、川向こうに嫌な魔力反応もあったねぇ」
「中央方面への看板もあったな」
「おぉ」
たにしが頷く。
「で、たにしさんは?」
のんちゃんが聞く。
沈黙。
「……」
「……」
「……釣れなかった」
その横。
長靴。
水草。
変な石。
謎の木の枝。
「魚以外コンプリート」
れんかが真顔で言った。
「うっさいわ!これはまだ“流れ”が来てないだけ!」
「ギャンブラーの思考」
「次は釣れる」
「借金持ちが言うと怖い」
たにしは川を見た。
夕日が水面へ反射している。
その奥。
東へ続く世界。
そして。
魚影。
「……あ」
「ん?」
ピシャァ!!
何か巨大な影が、
水面を跳ねた。
全員、止まる。
「……今の」
「デカくね?」
たにしだけ、
静かに笑った。
「居るじゃねぇか……主」




