第23話 先行投資
二章
第23話 先行投資
「……」
夕方。
ベルクの荷車前。
たにしは黙っていた。
「……」
「……」
「どしたん?真剣な顔して」
のんちゃんが覗き込む。
たにしの視線。
その先。
【高級釣り竿 “水竜殺し”】
【価格:12000G】
「名前が物騒」
れんかが真顔で言った。
ベルクは営業スマイルだった。
「良い品ですよ」
「いや高ぇよ」
たくろーが即答する。
「村長宅の椅子何個買えると思ってるんだよ」
「比較対象が生活」
たにしはまだ竿を見ていた。
細い。
黒い。
無駄にカッコいい。
「……ロマンだ」
「ダメな顔してる」
れんかが即答する。
◇
「いや待て」
たにしは頭を振る。
「冷静になれ俺」
「なって」
「今の所持金は?」
【所持金:2410G】
「足りてない」
「当たり前」
のんちゃんが呆れる。
だが。
ベルクが静かに口を開いた。
「分割払いも可能ですが」
空気が止まる。
「ベルクぅ!!」
ソニアが悲鳴を上げた。
「悪魔の囁きやめてくださいぃ!」
「健全な商売ですよ?」
「目が健全じゃない!」
ベルクはにこやかだった。
「頭金2000Gで」
「ほぉ」
「残り月500G」
「ほぉ……」
「食いつくな」
たくろーが真顔になる。
「たにしくん、それ村長がやるやつじゃない」
「でも夢が」
「ギャンブラーってすぐ夢見る」
れんかが呟く。
その時。
ベルクが、
さらりと言った。
「ちなみに東の川なら大物も狙えますよ」
「東の川」
たにしの目が変わった。
「川あんの!?」
「今そこ!?」
のんちゃんが引く。
ベルクは頷く。
「中央街道に続く途中にある川です」
「中ボスいるとこじゃん」
たくろーが顔をしかめる。
現在、
東ルートは半封鎖状態だった。
森の奥。
川手前。
中型ボス魔獣が縄張り化している。
結果。
危険区域。
のんちゃん以外、実質立入禁止。
のんちゃんが勝手に行ってるだけでもある。
「川魚うまいっすよー」
「……」
「しかも、雨季前は主も出ます」
「主」
たにしが復唱する。
「巨大魚ですね」
「巨大魚」
「数千Gで売れることも」
沈黙。
「ダメだこの顔」
れんかが即答した。
◇
「買う」
「早ぇよ!!」
全員が叫んだ。
ソニアが半泣きになる。
「む、村長が借金をぉぉ……!」
「投資だ」
「絶対違う!」
たにしは真顔だった。
「釣りには夢がある」
「ギャンブルにも同じこと言ってそう」
「言う」
「終わってる」
その時。
【高級釣り竿 “水竜殺し” を購入しました】
【借金:10000G】
「うわぁ……」
たくろーがドンびく。
「村長が借金持ち……」
「主さえ釣れば問題ない」
「その思考が既に危険」
だが。
たにしはもう竿を抱えていた。
完全に目がキラキラしている。
「軽っ……」
「うわ嬉しそう」
「少年みたい」
のんちゃんが苦笑した。
その時。
「で?」
れんかが聞く。
「川どうすんの」
沈黙。
「……」
「……」
「……中ボス倒すかぁ」
たにしが呟く。
「釣りのために?」
「釣りのために」
即答だった。
◇
翌朝。
村長宅リビング。
「というわけで東行くぞ」
「理由が終わってる」
たくろーが呆れる。
だが。
「まぁでも」
のんちゃんが笑った。
「川解放は普通にありがたいしね」
「魚料理増える」
あっくんも頷く。
「水辺素材も取れるかも」
ひーちゃが言う。
「結果オーライなのでは?」
「村発展の動機が趣味すぎるんよ」
たくろーが苦笑い。
その時。
ハナが、
たにしの竿へ頭を擦りつけた。
「おぉ」
「応援してる?」
「いや止めてるのかも」
のんちゃんが笑う。
外では、
朝日が昇り始めていた。
東の森。
川。
中ボス。
そして。
たにしの借金。
色んな意味で、
後戻りは出来なかった。




