第22話 中央勢はだいたい頭がおかしい
二章
第22話 中央勢はだいたい頭がおかしい
翌朝。
「……うっわ」
たにしはリビングで顔をしかめた。
ドラちゃんがいた。
大の字で。
ラグの上に。
ハナ抱いて。
「人ん家で寝相終わってんな」
「んぁ……」
ドラちゃんが薄目を開ける。
「おはようございまっす……」
「ハナ取られてる」
こはるが真顔だった。
ハナは、
完全にドラちゃんの腹の上で寝ていた。
「懐いてんなぁ」
のんちゃんが笑う。
「モコ系好きなんすよ俺」
「聞いてない」
れんかが即答した。
◇
朝飯中。
「で?」
たにしがパンを齧る。
「中央って今どうなってんの?」
空気が少し変わる。
ドラちゃんはスープを飲み。
「地獄っすね」
「軽っ」
「いやマジで」
真顔だった。
「プレイヤー同士で街取り合ってるし」
「うわぁ……」
「クラン戦みたいな?」
のんちゃんが聞く。
「そんな可愛いもんじゃないっす」
ドラちゃんは指を折り始めた。
「税金バカ高い街」
「PK集団」
「NPC奴隷化ギルド」
「資源独占」
「初心者狩り」
「MMOの悪いとこ煮詰めた?」
たにしが遠い目をする。
その横で、
ひーちゃがちょっと引いていた。
「人って怖いねぇ……」
「あと宗教国家作ってるやつもいます」
「なんで?」
「わかんないっす」
「怖ぇよ」
たくろーが苦笑する。
ドラちゃんは肩を竦めた。
「まぁ、中央行くほど“ゲーム時代の強者”が集まるんで」
「あー……」
たにしは少し納得した。
この世界。
ゲーム知識が強い。
つまり。
元上位勢ほど有利。
「ドラちゃんもその側では?」
たにしが聞く。
「俺はエンジョイ勢っす!」
「嘘つけ」
「戦争ばっかしてたろお前」
「祭りっす祭り」
「物騒な祭りだな」
◇
「逆にさ」
のんちゃんが聞く。
「ドラちゃんは中央目指さないの?」
「んー?」
ドラちゃんは少し考え。
「どっちでもいいっす」
「意外」
「いや俺、人増やしてワチャワチャするの好きなんすよ」
「まぁ分かる」
たにしは頷いた。
「あと」
ドラちゃんは笑う。
「NPC、普通に人なんで」
空気が少し静まる。
「……」
「……」
「最初、ゲーム感覚でやってたやつら結構やらかしたっす」
「例えば?」
たくろーが聞く。
「村焼いたり」
「ああな」
「女NPC攫ったり」
「うわぁ」
「で、普通に恨まれて殺されてる」
沈黙。
「……ゲームじゃないんだなぁ」
たにしがぽつりと呟いた。
ドラちゃんは頷く。
「半分ゲームで、半分現実っすね」
「そいや、PKされるとどうなるん?」
「HPがゼロになると、所属の村の石碑に飛ばされるっす」
「ペナルティは?」
「色々っすね。意識が戻るまでの時間が長かったり。装備ロストだったり。レベルダウンだったり。部位欠損だったりもあるっすね」
安堵と不安が混じった空気が流れる。
「消えるとか、そのまま…なんつーか現世に戻れる…みたいな事はないのかね?」
たにしが珍しく真剣な顔で聞く。
「今のとこなさそうっすね」
「ある意味残酷なペナルティかもな」
たくろーも真剣な顔で言う。
「俺も、お豆ちゃんに殺られて、部位欠損っす!」
ほら、とドラちゃんが後頭部の10円ハゲを見せて笑う。
「それ欠損って言うのか?」
と、たにしも釣られて笑う。
「ほんとお豆ちゃんと仲良いな」
「良くないっすよ!ピクニック気分で殺りにくるんすよ!?」
「見たかのように想像できるわ」
と、たくろーが苦笑する。
「でもまぁ」
ドラちゃんが空気を変えるように笑った。
「たにしさん達の村、かなり珍しいっすよ」
「ん?」
「空気ゆるい」
「悪口?」
「褒め言葉っす」
ドラちゃんはリビングを見回す。
ラグ。
ハナ。
朝飯。
騒がしい声。
子ども達。
「中央、もっと殺伐としてるんで」
「へぇ」
「ここ、生活してる感じする」
その時。
「ハナこっち!」
「だめー!」
あいりとこはるが、
ハナを追いかけ始めた。
ぽてぽて逃げるハナ。
「走るなー!」
のんちゃんの声。
「朝から元気だなぁ」
ドラちゃんが笑う。
その横で。
たにしは少しだけ、
外を見た。
この村の外には、
もっと大きな世界がある。
危ないやつも居る。
他のプレイヤーも居る。
争いもある。
でも。
「まぁ」
たにしはスープを飲む。
「今んとこ、俺はこれくらいで精一杯だな」
すると。
ドラちゃんがニヤッと笑った。
「たにしさん」
「ん?」
「そう言ってる人ほど、あとでデカくなるんすよ」
「やめろ」
「たにしさん、そういうのめんどい人ですもんねぇ」
「でもまぁ」
と、ドラちゃんが笑顔を消して。
「戦う準備だけはしといたがいいと思うっす」
「うちとやんの?」
「やらないっす。多分。たにしさん達のめんどくささ知ってるし」
「多分。な」
たにしが笑う。
「俺も守るもんあるんでですね」
「まぁそうだよな」
「後さ、お豆ちゃんにはここ内緒にしといてくれん?揉め事の匂いしかせん」
「言うと思ったっす。了解っす」
俺は遊びに来ますけど!とドラちゃんが笑った。
「いや定期的に来る気かよ……」
たにしはため息を吐く。
外の世界は、
思ったより物騒らしい。
でも。
ハナを追い回して転ぶあいりとこはるを見ていると。
まぁ、
このくらいの騒がしさは守りたいかもな。




