第20話 帰りたい?
一章
第20話 帰りたい?
夜。
村長宅リビング。
長机には、
湯気の立つ料理が並んでいた。
シチュー。
焼き野菜。
パン。
干し肉ばっかだった頃に比べると、
かなり豪華だった。
「うまー」
あいりがパンを浸している。
「それ最近お気に入りだな」
「おいしい」
こはるは、
ハナへ少しだけ野菜を見せていた。
「たべる?」
ハナは匂いだけ嗅いで、
ぷいっとした。
「好き嫌いあるんだ」
「かわいい」
完全に親バカ目線だった。
その時。
「……そういや」
たにしがぽつりと呟く。
「なんだかんだ、結構経ったな」
「ん?」
「ここ来てから」
空気が少し静かになる。
たくろーが指を折った。
「井戸直して」
「畑やって」
「風呂作って」
「山賊雇用して」
「家具屋誘致して」
「様子おかしいのも混じってるな」
「事実だし」
「そういや、あいつら村の外れに小屋建ててたな」
「村の自警やるからって、ママに許可貰ってた」
れんかが淡々と言った。
村長の許可いらないんだな。
最初は俺等8人と、ジージ、ソニアの10人だった。
今は、人数こそ倍になった程度だが、形はだいぶ村らしく機能していた。
たにしはスープを飲みながら呟いた。
「……もう一ヶ月近いんだよな」
少しだけ。
空気が止まった。
外では虫の声。
暖炉の火が揺れている。
誰も、
すぐには喋らなかった。
その時。
「あのさ」
のんちゃんが、
軽い調子で言った。
「みんな、帰りたい?」
静かだった空気が、
少しだけ動く。
「直球だなぁ」
たくろーが苦笑する。
「いやまぁ、一回くらい確認しとこうかなって」
「今後の方針的にも?」
「そんな感じ」
重くはなかった。
でも、
軽くもない話だった。
最初に口を開いたのは、
こはるだった。
「こはる、ここすきー」
「即答」
たにしが笑う。
「ハナいるし」
ハナは、
ラグの上で丸くなっている。
「あとおふろおっきい」
「れんかと同レベルの理由だな」
「大事だけど?」
れんかは真顔だった。
あいりはパンをもぐもぐしながら言う。
「わたしもすきー」
「現代帰りたくない?」
「んー……」
あいりは少し考え。
「おかしたべたい」
「かわいい理由だな」
「でもここ、いっぱい描けるから好き」
その言葉に、
ルークが静かに頷いていた。
「良い感性です」
「お前は毎回反応するな。そしてなぜ普通に飯食ってる」
笑いが起きる。
その流れで、
たくろーが肩を竦めた。
「俺はまぁ……」
「ん?」
「戻らなきゃいけない気はする」
「仕事?」
「仕事」
即答だった。
「絶対修羅場だわ」
「部下泣いてそう」
「ありえる」
だが、
たくろーは少し笑う。
「でもまぁ、こっち楽なのも分かる」
「だろぉ?」
たにしが乗っかる。
「納期ない」
「社畜感ぱねぇ」
「うるせぇ」
ひーちゃは、
こはるの頭を撫でながら言った。
「私は……半々かなぁ」
「お、珍しい答え」
「こっち平和なんだよねぇ」
少し困ったように笑う。
「でも、向こうにも大事な人いるし」
その言葉で、
少しだけ空気が落ち着く。
のんちゃんは、
スープを混ぜながら呟いた。
「私は……子ども次第かな」
れんかとあいりを見る。
「二人が帰りたいなら帰る」
「ママは?」
れんかが聞く。
「んー……」
少し考えて。
「正直、今はラク」
ぽつり。
でも、
重い感じではなかった。
「毎日バタバタしてないし。そんなに大差ないけど」
と笑う。
「まぁそれは分かる」
たにしが頷く。
「ちゃんと寝れてるぽいもんな」
「それ」
のんちゃんが笑った。
その時。
「たにしは?」
れんかが聞く。
全員の視線が集まる。
「俺?」
「村長」
「責任者」
「ギャンブラー」
「悪口混ざったな?」
たにしは少し考えた。
そして。
「……帰りたい理由は普通にある」
母親の顔が、
少しだけ頭をよぎる。
でも。
「帰りたくない理由も、まぁ、ある」
「どっちやねん」
「人間そんな簡単じゃねぇの」
たにしは苦笑した。
「まぁ競艇はしてぇな」
「ゴミ」
「クズ」
「うん…おっと食事中か」
その時だった。
「ほっほっほ」
「うわ出た」
ジージだった。
いつの間にか、
普通に食卓へ座っている。
「お前また勝手に飯混ざってんな?」
「村長じゃし」
「元な?」
ジージは笑いながら言った。
「まぁ、焦らんでもよかろ」
「ん?」
「帰る方法探すにしても、
ここで生きるにしてもじゃ」
湯気の向こうで、
ジージは穏やかに笑う。
「お前なんか知ってんの?帰る方法とかクリア?みたいなの」
「知るわけなかろう。初期村のやる気なし村長じゃぞ?無責任に若者を勇者と称えて送り出すくらいしか出来んタイプじゃぞ?」
「…お前、ずっとメタだよな…逆にNPCに思えんのだが」
「ただまぁ…飯は美味い方がええ」
「話の締め雑だな!」
笑いが起きる。
なんとなく。
その場の全員が、
少しだけ肩の力を抜いていた。
まだ分からない。
帰れるのか。
帰りたいのか。
でも。
今、
ここで笑えているのは、
たしかだった。
そんな事を考えながら口にしたシチューは確かに暖かかった。
一章
終




