第4話「乾坤一擲」
その賭場は、かつて大聖堂の地下霊廟であった場所に作られていた。
湿り気を帯びた冷気が、アルマイトの肌を撫でる。
中央には四角い石卓が鎮座し、その上には骨で作られたような白い牌が整然と並べられていた。
「よく来たな。……いや、待っていたよ。ノーラント」
上座に座っていたのは、漆黒のドレスを纏った女だった。
透き通るような銀髪に、血を啜ったかのような紅い双眸。アルマイトの心臓が、微かに跳ねる。
「あいつじゃなくて……セレスか。生きていたのか」
セレス・ヴァレンタイン。かつて英雄パーティの副官を務めた、宮廷最高位の「血魔法使い」。だが、彼女は五年前の決戦で魔王の爆炎に消えたはずだった。
「ふふ、驚いた? でも今は、魔法よりもこの遊戯の方が性に合っているの。さあ、座って。あなたの残りの半券、そして命を賭けましょう」
アルマイトは剣の柄に手をかけた。再会の喜びなどない。
死んだはずの仲間が、敵であることへの憂いはすべきことの後でいい。
瞬時、彼は黒鉛鉄の大剣を抜き放ち、一閃した。
「答えろ。なぜそんなことをした!」
だが、漆黒の刃がセレスの喉元に届く直前、見えない壁に弾かれた。
物理的な衝撃ではない。まるで世界そのものが「その行動を許可していない」かのような、絶対的な拒絶。
「無駄よ、アルマイト。ここでは魔雀盤が支配している。この空間は現実と同期しているけれど、同時に架空の法が適用される閉鎖空間。生命以外の何物も出入りできず、暴力による解決は、理が禁じているの」
セレスの指が牌を撫でる。その仕草は優雅だが、アルマイトは見逃さなかった。
彼女の指先から滴る血が、ヘドロのような粘性を帯びていることを。
「……セレスの能力は血魔法だったはずだ。」
アルマイトは確信した。目の前の女は、記憶にある戦友ではない。
魔法を偽装し、姿を写し取り、他者の人生を捕食する絶滅危惧の変異種――「擬態種」。
「始めましょう。死の卓囲いを」
アルマイトは忌々しげに席に着いた。
この結界はミミックによって維持されており、ルールを破ればこの空間ごと消滅させられる。
対局が始まった。牌が混ざり合う乾いた音が、教会に反響する。




