第3話「魔雀(マージャン)」
司祭バルザスが倒れた後の石橋には、砕け散った貝殻の欠片と、不気味なほど静かな雨音だけが残された。
アルマイトは、血の混じった雨水を拭いもせず、ただ暗闇の先を見つめる。
少し歩いた先、街道沿いに宿場町が見えてきた。
かつては交易の中継地として栄えたであろうその場所は、今や末期症状を呈していた。
軒先に吊るされたランタンは、魔力オイルのせいで、禍々しい紫色の炎を上げている。
アルマイトが暖簾をくぐると、中の喧騒が一瞬で止まった。
隅の席で、一人の男が牌を弄んでいる。男の指先は石のように固く変色し、瞳には濁った光が宿っていた。
「……見慣れねえ得物だな、旅人。その黒い鉄の塊、魔法を吸うんだろう?」
男は卓上の牌をパシャリと倒した。
それはこの汚染地帯で流行している、自らの余命と魔力を賭ける命懸けの遊戯――「魔雀」。
「賭けて一局打たねえか?」
「興味ない。俺が探しているのは、この先の『死の谷』を管理する聖教会の支部だ」
アルマイトの言葉に、宿の客たちが一斉に冷笑を浮かべる。
男は笑い、自らの胸元にある手形を見せびらかした。
「あそこに行きてえなら、教会の『通行手形』が必要だ。そして、手形はこの町で行われる魔雀の勝者にしか与えられねえ……どうする?」
その時、宿の外で轟音が響いた。
村の地下を走る魔力の脈が飽和し、地表に突き出したのだ。
「ギギギ……ア、アアア!」
叫び声を上げたのは、さっきまでメイドをしていた少女だった。
彼女の背中から、翼のような腫瘍が突き出し、周囲の建物を焼き払い始める。
「助けて……熱い、熱いの……!」
「ひっ、魔力暴走だ! 逃げろ!」
アルマイトだけが少女へと歩み寄る。
右手に宿る魔法。これを使えば、彼女の暴走は止まる。
だが、それは彼女を生き殺すことと同義だった。
「……くっ、これしか、ないのか」
彼は黒鉛鉄の大剣を抜き放ち、その平を少女の胸元に当てた。吸引。
大剣が魔力を、吸い上げていく。アルマイトの腕に、呪印が浮き上がった。
「……ぐ、あああぁぁ!!」
喉を焼くような苦痛。
剣を通じて自身の肉体を侵食する。
少女の腫瘍が消えた時、アルマイトの膝もまた、震えていた。
「……フン。自分の身を削ってまで人助けか。甘いな」
先ほどの男が、呆れたように、しかしどこか感心したように鼻を鳴らした。
彼は懐から、血に汚れた一枚の「白」の牌をアルマイトに投げつける。
「それは手形の『半券』だ。残りが欲しけりゃ、明日の晩、教会の賭場に来な。」




