第5話「起死回生」
対局は、ミミックが圧倒していた。
彼女はセレスの姿を借りながらも、その正体は生存特化型の捕食者。
(あと一つ。あと一つで私の勝ち。そうすれば、英雄の肉体を、私の新しい殻として頂ける……!)
ミミックの顔が、わずかに歪んだ。
完璧だったセレスの美貌が、崩れ始める。
「リーチ……ッ!」
ミミックが牌を叩きつけた瞬間、彼女の背中から肉塊が突き出した。
「さあ、振りなさいアルマイト!」
だが、アルマイトは静かに目を閉じた。
「……確かに、この結界には生命以外の出入りはできない。暴力も届かない。だが、魔力の放出は、ルールで禁じられていなかったな」
アルマイトが右拳を卓に置いた。
彼の内側で暴れ狂っていた魔力が、溢れ出す。
「な、何を……!? 魔力を捨てるつもり!? 自殺行為よ!」
「自殺ではない。これは、お前への供物だ」
アルマイトの全身から、光が噴出した。
すべてを飽和させ、壊死させる死のエネルギー。
ミミックの作った結界は「公平」である。ゆえに、放出された魔力は、対戦相手へと強制的に流れ込む。
「ギ、ギギ……アアアアァァ!!」
ミミックの悲鳴が轟いた。
彼女は魔力を糧にする生物だが、それには許容量がある。
アルマイトが放ったのは、五年前、魔王を滅ぼした一撃に匹敵する純度100%の魔力だ。
処理しきれない膨大な光が、ミミックの細胞を内側から焼き、膨張させる。
「魔力過剰症……。喰らいすぎだ、欲張りめ」
ミミックの肉体が震える。
彼女が勝利したその瞬間、彼女の腕は結晶化して砕け散った。
擬態は完全に剥がれ落ち、粘液まみれの肉塊となったミミックが卓上でのたうち回る。
「……チョンボ」
アルマイトは、魔力を放出しきった反動で血を吐きながらも、大剣を引き抜いた。
結界が崩壊を始める。空間が霧散し、ミミックの生命維持装置であった「魔雀」が消滅する。
「あ……あ…………」
アルマイトは表情を変えず、黒鉛鉄の剣を振り下ろした。
「……次だ。まだ、この世界には、俺の毒を啜る亡霊が残っている」
夜明け前。
破壊された霊廟から這い出したアルマイトは、再び灰色の雨の中に身を投じる。
紫色の炎は消えていたが、彼の右腕を蝕む呪印は、さらにその深さを増していた。




