第11話「昨日の敵は今日の
「……この『索冥閣』からは、英雄だろうが神だろうが、二度と出られんよ」
看守たちの嘲笑と共に、アルマイトは最下層の独房へと突き飛ばされた。
手首には黒鉛鉄の枷、そして部屋全体が魔力を遮断する特殊な石材で塗り固められている。
アルマイトが深呼吸をするたび、行き場を失った自身の公害魔力が肺腑を焼き、激痛が走る。
だが、暗闇の中で待っていたのは、孤独ではなかった。
「……随分と湿気た面になったな、ノーラント。あの時、我を地に這わせた傲慢な輝きはどこへ行った?」
独房の奥、錆びついた鉄格子の向こう側。石卓の前に座り、古びた牌を弄んでいる男がいた。
その男の額には、折れた角の痕がある。かつて魔王軍において不動の盾と恐れられ、アルマイト自身がその右腕を斬り落として捕縛した魔王軍四天王の一人――「静寂のゾルマ」だった。
「……ゾルマか。貴様、まだ生きていたのか」
「貴様が世界をザマにしたおかげでな。教団は殺すことすら忘れた。外は公害、中は腐敗。……笑えぬ喜劇だ」
ゾルマは片手で手際よく牌を並べる。
彼もまた、魔力を封印され、この監獄で長い年を過ごしていた。しかし、その眼光は衰えていない。
「ゼノスが言っていたぞ。処刑台に送るとな。」
「ああ、分かっている。あれはここに置くべきものではない。……この監獄ごと世界が消える」
アルマイトが身を乗り出すと、ゾルマは静かに牌を伏せた。
「……手を貸してやってもいい。我も、あの歪な聖杯の奔流に飲み込まれて死ぬのは御免だ。だが、条件がある」
ゾルマは卓の上の一枚の牌を指先で弾いた。
「この監獄の看守長室には、我らの封印を解くための『楔の鍵』がある。それを取りに行くには、まずこの階層を管理する獄卒長から『通行権』を奪わねばならん。奴は異常なまでの博徒だ。……ノーラント、貴様と我でコンビを組み、奴をハメる。二対二の『魔雀』。……乗るか?」
アルマイトは一瞬、迷った。かつて命を奪い合った敵。だが、ゾルマの瞳にあるのは、かつての憎悪ではなく、自らの居場所を汚染されたことへの静かな怒りだった。
「……いいだろう。ただし、俺に貸しを作るなよ」
「フン、貴様の不運を肩代わりしてやるだけだ」
かつての英雄と、かつての魔王幹部。
最悪の敵同士が、共通の「公害」を止めるために、暗い監獄の底で共闘の杯を交わした。
その時、独房の扉が重々しく開き、獄卒長がニヤけ面で現れる。
「さあ、始めようか! 英雄殿。あんたの名声、全部賭けてもらおうか!」
アルマイトとゾルマ、二人の「敗北者」たちの反撃が、ここから始まる




