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第4話

 時は少し遡り、司が邪神を討伐してすぐのこと。

 ウッドフォレストの領主、ゴルドーは屋敷に設置してある魔力変換機が不調を訴え動作を止めたことに疑問を抱いていた。


 ゴルドーは、妻のエリーゼが開発した魔力変換機を前に首を傾げる。


「……どういうことだ。なぜ、魔力変換機が動かない。まさか、故障したのか?」


 時間をかけ魔力変換機を探るも、故障の原因は一向に分からない。

 それどころか、この辺り一帯の魔力が無くなってしまっただけで、魔力変換機は正常に動いている様にも見える。


「ふむ。困ったな……このままでは、冒険者ギルドに金を支払う事ができなくなってしまう。魔王様と約定を交わしたというのに、なんたることか……」


 魔王様との約定を違え、エリーゼを甦らせることができなければ、なんのために魔王に魂を売ったのか分からなくなる。

 少し早いが、冒険者に狩らせぬことで増えた魔物を使いウッドフォレストを滅ぼすか?

 そもそも、エリーゼを置いて逃げ帰ったあの冒険者も領民の一人……つまり領民がエリーゼを見殺しにしたと言っても過言ではない。

 領民のことなど知ったことか。


 ゴルドーにとって、領民より妻であるエリーゼの方が優先度が高い。


「魔力変換機の魔石を金に変えることで冒険者に支払いをおこなっていたからな。その魔力変換機が止まった今、冒険者が魔物を狩り出す可能性がある。ならば、早速……」


 魔物でウッドフォレストを滅ぼすため、ゴルドーは森に転移する。


 ――ズガァアアアアン!!

 ――ビチャビチャビチャ!


 突如として目の前を駆け巡る稲妻と魔物の肉片。

 そこで見たのは、まるでこの世の終わりの様な、光景だった。


 ◆


 ――なんだ。なにが起こっている!?


「あ、あ痛ぁ!?」


 目の前の惨状が理解できず、唖然とした表情を浮かべていると、雷撃が顔の横を掠め、ゴルドーは情けない声を上げる。


 魔物化したからこそ分かる一歩間違えば、魂ごと消滅されかねない圧倒的なオーラと激痛を前にゴルドーは顔を歪め慌てふためく。


 待て待て……待って、聞いてない。

 私はこんな話聞いてないぞ。

 折角、冒険者をニート化させ、魔物を増やしてきたのに、こんなの聞いてない。


 冒険者ギルドに金を渡すことにより、増えたはずの魔物……その魔物が魔王の如き風貌の者に屠られていく。

 雷撃が走るたび、魔物が倒れ、地面が抉られていく。森も燃え、その光景を永遠に留めるかの如く、魔王の如き風貌の者の手に冷気の様なものが集まり始めた。


「ま、まず――」


 ビシビシビシッ!


 音を立て見ている景色が凍結していく。


 ゴルドーは涙が出そうになった。

 あれは、かつて魔王様が世界の両極を氷獄へと変えた伝説の氷結魔法、ブリザガ。

 体が凍結していく中、ゴルドーは必死になって魔力を練り上げ「『転移』……」と呟く。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


 無事、屋敷に転移したことを確認すると、ゴルドーは涙を浮かべた。


「な、なんだあれは……なんなんだ。あの化け物はぁぁぁぁ!?」


 凍結し砕け散った足を見て、ゴルドーは戦慄する。


「……町の外にいたアレはなんだ。魔王より魔王らしい化け物が存在するではないか!」


 もしアレがこの町に来たらこの町はどうなる。

 エリーゼを蘇らせるどころか、最愛の娘、エリザベートまで死んでしまう!?


 町を襲うのが魔物であれば問題ない。

 この辺り一帯の魔物は私の管轄下にある。

 だが……だが、あの存在は……魔王にも似たあの風貌の化け物は……!


「――嫌だ。それだけは絶対に嫌だぁぁぁぁ!?」


 町を滅ぼしにやってきたとしか思えない存在を前にゴルドーは膝から崩れ落ち、頭を抱えて蹲った。


 その光景をドアの隙間から見ていたエリザベートはハッとした表情を浮かべる。


 魔王より魔王らしい存在!?


「――誰かに助けを求めなきゃ……でも誰に言ったらいいの……!」


 愛しの父が困っている。

 ゴルドーを助けたいその一心でエリザベートは屋敷を飛び出した。


 ◆◆◆


「これが領主、ゴルドーの屋敷か……」


 屋敷の上だけ黒い雲が漂い、暗く澱んだ空気が漂っている。少し時間軸も歪んでいるようだ。

 モンクエにありがちな、いかにもな雰囲気が漂っている。


「さて、どうやって屋敷の中に入ろうか……」


 モンクエのストーリーであれば、父の心配をした娘が屋敷の前に座り込んでいるはずなのだが……


 残念ながらそれらしい姿は見えない。一度、出直すか……


 そう思った瞬間、屋敷の扉が開き、一人の女の子が飛び出てくる。

 そして、司の顔を見ると、女の子は意を決した様子で話しかけてきた。


「突然、ごめんなさい。私はエリザベート。この町の領主、ゴルドーの娘です。お母様が亡くなってからというものの、お父様の様子がおかしくて……今日なんて町の外に魔王より魔王らしい化け物が存在すると言い出したの。でも、私には、どうすることもできなくて……」


 モンクエ4のストーリーに出てくる魔王より魔王らしい化け物は邪神以外存在しないはず。魔王より魔王らしい化け物とは一体……


 少し考えれば分かりそうなことにも係わらず、司は気付かない。

 エリザベートの言う魔王より魔王らしい化け物=司である事に……


「そうですか。それは大変ですね」


 適当にそう相槌を打つと、エリザベートは縋り付きながら言う。


「――お願いします。父を助けて下さい! 私ではダメなんです。私では父を助けられない。だから……!」


 急にモンクエ4本編のセリフを言い出したエリザベートの肩を叩くと、司は屋敷に体をむける。


「勿論です。その為に、ここに来たのですから」


 イベント発生条件クリア。

 これで、合法的に領主の屋敷に入ることができる。

 そう告げると、司はゴルドーの住む屋敷へ足を踏み入れた。


 ◆


「――っ!?」


 司が屋敷に足を踏み入れた瞬間、ゴルドーは異変に気付く。


「――な、なんだ……」


 まるで屋敷の中がダンジョン化したかのような魔力を感じる。

 魔物化したからこそわかる異変。

 元凶を確かめるため、部屋を出ると、屋敷の入り口に膨大な魔力量を誇る化け物がいた。


挿絵(By みてみん)


「……は、はぅ……!?」


 ま、魔力濃度が高すぎてまともに視認できない。なんなんだあの化け物は……!


 魔物化したゴルドーを本能的な恐怖が襲う。

 体の穴という穴から汗が噴き出てくる。


 恐ろしい……

 恐ろしいほどの魔力量だ。

 それこそ、化け物の体内に入り込んでしまったと錯覚するほどの魔力量。

 いや、錯覚ではない。


 ――ポンポンポンポンポーン!


 部屋を見れば、魔力変換機がとち狂ったように魔石を排出している。

 そして気付く。

 音に反応し、化け物の視線がこちらに向いていることに……


「…………ぁ」


 目が合った瞬間、絶望した。

 生物としての格を思い知らされた。


 階下からゴルドーを見る化け物の視線。


 怖い。怖すぎる。

 まるで死神の鎌を突き付けられているようだ。


 しかし、ここで諦めれば、これまでの全てが無駄になる。エリーゼを蘇らせることも、エリーゼを殺す原因となった冒険者ギルドに復讐することもできなくなる。


 ここで諦めてなるものか……!

 私はすべてを取り戻すため、魔王に魂を売ったのだ。今さら後戻りはできない!

 このウッドフォレストで暮らすすべての領民を地獄の底に叩き落とすことになろうとも最愛の妻と娘だけは取り戻してみせる……!


 決死の覚悟で立ち上がり、化け物に視線を向ける。

 その背後に我が最愛の一人娘、エリザベートの姿を見た。


「プベラァ!?」


 一瞬にして鈍る決意。

 ゴルドーは盛大に喀血した。

 まさか化け物が我が最愛の一人娘、エリザベートを人質に取っているとは思いもしなかったためだ。


 なぜだ。なぜ、エリザベートがあの化け物と一緒にいる!


 目の前の衝撃をゴルドーは歯を食いしばって耐え凌ぐ。


 おのれ……こうなったら最後の手段だ!

 ゴルドーは部屋に飛び込むと、先程量産された魔石に喰らい付いた。


 ゴルドーはアンデット系の魔物、リッチ。

 アンデット系の魔物は魔石を取り込めば取り込むほど強くなる。

 限界まで魔石を取り込んだゴルドーは雄叫びを上げる。


「ふぁははははっ! 今の私の魔力は魔王様にも匹敵する。例え、意味もわからぬ化け物が相手だろうと今の私に敵う者は……ぁ?」


 いつの間にか目の前にいる司を見て、ゴルドーは目を点にする。


 い、いつの間に……!


 ズゴォオオオオッ!


「……っ!!」


 か、勝てない。私ではこんな化け物に勝てるはずがない。


 圧倒的な魔力量を前に萎縮するゴルドー。

 魔力量が魔王と同格になって改めて感じる目の前の存在の理不尽さ。


 気付けば、ゴルドーは平伏していた。


 駄目だ。このままでは殺される。

 しかし、こんなにも近くに化け物がいては……!!


「あ、あなた様の忠実な配下になります。なのでどうか……! どうか我が最愛の娘、エリザベートの命だけは……!」


 すまない。エリーゼ。

 どうやら私はここまでのようだ。

 私が死ぬ前に、エリーゼ。お前の魂を解放しよう。


 死期は近い。

 魔王から受け取り、魔物化して得た力により留めていたお前の魂を今、解放して……


 すると、化け物が話掛けてくる。


「それでいいの?」

「……それでいいの、ですと?」


 良い訳がないだろう。

 私がこれまでどんな思いで生きてきたと思っているんだ!

 妻の死を嘆き、領民と神を呪い、魔王に魂を売ってまで妻の蘇生を願ったのだ。

 本当ならこんな所で諦めたくない。

 だが、仕方がないじゃないか!

 このままでは、妻の蘇生が叶わない所か、妻の魂を現世に置いたまま、あの世に行くことになる。

 そんなの……そんなこと、この私が望むはずがない!


 最後の抵抗のつもりで弱音を吐かずにいると、化け物が信じられないことを言う。


「……最愛の妻が蘇生する条件が揃っているのに、それでいいのかと聞いているんだけど?」

「……っ!? い、今、なんと」

「えっと、蘇生に必要な遺骸と魂がここにあるなら復活させることは容易だと言っているんだけど……」


 ば、馬鹿な……魔王様以外にそんなことできるはずが……


 死者を蘇生させるためには、遺骸を『踊る肉人形』と呼ばれる人の形をした意思を持たない魔物にしなければならない。


 それができるのは、この世で唯一、反転の魔王、グリモア様ただ一人だけだ。

 ゴルドーは縋る思いで『エリーゼの遺骸』を化け物の目の前に差し出す。

 すると、化け物はただ一言「『反転』」と呟いた。

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