第3話
「つ、遂に犯罪めいた称号まで……」
殺戮者の称号は、同一種族を一匹たりとも逃さず倒さなければ取れない称号だ。
つまり、司はこの辺り一帯に棲むゴブリンすべてを倒したことになる。
司は真っ新となった目の前の景色(環境破壊と大虐殺した結果)を見ると、そのまま宙を仰ぎ現実逃避した。
「……あれ? なんだか人の声が聞こえるような」
しばらく現実逃避を続けていると、レベルアップにより強化された耳が町の声を拾う。
声の様子からして悲鳴かな?
もしや、自分が引き起こした大惨事を受け、パニックに陥っているのだろうか。
そうであれば申し訳ないことをしてしまった。
そう自責の念に駆られていると、人が近寄ってくる気配を感じた。
背後を振り向くと、茂みをかき分け男が出てくるのが見える。
ガサガサッ(男が茂みをかき分ける音)
「……うん? その格好は旅人か? なぜ、こんな所に旅人が……」
司は男の格好を見て狼狽する。
ヤバい……目の前の人、どう考えても、ウッドフォレストの兵士だ……
ウッドフォレストの町は、エスタール国の一町村にして城塞都市。
当然、町には兵士が常駐している訳で……
「俺にも何がなんだか。気付いたらここに……」
そんな兵士を見て、口から出てきたのは、まるで言い訳じみたセリフ。
とはいえ、既に口から出てしまったのだから仕方がない。
司は全力でトボけることにした。
「その格好……兵士さんですよね? もし近くに町があるなら案内して頂けますか?」
司は演技がとんでもなく大根だ。
白々しくそう尋ねると、男はため息を吐いた。
「町は今、先に発生した未曾有の大災害(魔力消失)により混乱状態にある。とはいえ、連れて行かない訳には行かないか……わかった。着いてきなさい」
「は、はい! ありがとうございます!」
何とか乗り切ったことに安堵する司。
「所で入町税は支払えるのか? 随分と身軽のようだが……」
男にそう問われた司は問題ないと回答する。
「はい。未曾有の大災害(環境破壊と大虐殺)の最中、身分証こそ喪失(嘘)してしまいましたが、入町税を払うだけのお金はあります」
男は一瞬、話が噛み合っていないと感じたものの、特段気にすることなく司と話を続ける。
「……そうか。なら問題ないな。では、私の後ろを着いてきてくれ。ウッドフォレストに案内しよう」
「はい!」
そう元気に返事をすると、司は兵士と共にウッドフォレストの町に向かった。
◆
「……これで手続きは終わりだ。ようこそ、ウッドフォレストの町へ。我々は君のことを歓迎する……とはいえ、今は先に発生した未曾有の大災害(魔力消失)により混乱状態にあるからな。紹介した宿に泊まれなかった場合、冒険者ギルドに行くといい。登録すれば、素泊まり位できるはずだ」
「はい。ありがとうございます」
簡単な身体検査と入町税1万ゴールドの支払いを終えた司は、男にお礼を言い町に入る。
「ここが、ウッドフォレストの町……なんだかゴーストタウンみたいだな……」
人っ子一人、外を歩いていない。
先に発生した未曽有の大災害(環境破壊と大虐殺)が相当尾を引いているようだ。
「なんだか申し訳ないことをしちゃったなぁ……」
町がこれでは宿に泊まるのは絶望的かもしれない。
知らなかったとはいえ、雷撃とブリザガを放ったのは間違いだったな……
ウッドフォレストの町に住む町民には悪い事をしてしまった。
「まあ、しばらくすれば、収まるだろう。それまでの辛抱だ」
そう呟くと、司は冒険者ギルドへ向かうことにした。
冒険者ギルドは、大通りの一番目立つ所にあったはずだ。
「確か、冒険者ギルドはこっちに……あ、あったあった」
冒険者ギルドの中に入ると、そこは避難所の様相を呈していた。
ギルドは避難者で溢れかえり、寝床や物資が散乱している。
冒険者ギルドに泊まるのは、諦めた方がいいかも知れない。
そんなことを思いながら受付に並ぶと、目の下を真っ黒に染めた受付嬢が「次の方」と声を掛けてくる。
声に元気がない。
寝不足だろうか?
「すいません。冒険者登録をしたいのですが、身分証を落としてしまって……」
この世界に召喚された司は正規の身分証を持たない。
司が冒険者登録したい旨を伝えると、受付嬢は「うへへ」と笑い出す。
「大丈夫ですよ〜。冒険者登録に身分証の提示は不要です。この書類に必要事項を書き込んでください。ああ、でも似顔絵だけは描かせて頂きますね」
そう言うと、受付嬢は目をがん開きにして司の似顔絵を描き始める。
ああ、なるほど……目の下が真っ黒な理由はこれか。
モンクエ4の世界には、現代日本でいう所の写真が存在しない。
しかし、冒険者登録では、顔の登録が必要となる。だからこそ、冒険者ギルドでは、職員に絵描きを雇っている。
そして、冒険者ギルドには、その絵描きが描いた肖像画が飾られており、大体がそこで倒すべきボスの姿が描かれている。
そして、ボスを倒すと、肖像画が変化するのだ。
「……あそこに描かれた男性はどなたですか?」
そう尋ねると、受付嬢の手が止まる。
そして、笑顔を浮かべると、まるで言うことが最初から決まっていたかのように話し始める。
「ああ、あれはこの町の領主、ウッド家のゴルドー様です。そういえば、ゴルドー様、最近元気がなかったような……屋敷に行けば、何かわかると思うんだけど……」
普通に考えれば、領主の屋敷なんて軽々しく行ける訳がない。
聞き間違いでないことを確認するため、司はもう一度質問する。
「……もう一度聞きますね? あそこに描かれた男性はどなたですか?」
「ああ、あれはこの町の領主、ウッド家のゴルドー様です。そういえば、ゴルドー様、最近元気がなかったような……屋敷に行けば、何かわかると思うんだけど……」
やっぱりか……
まったく同じ発言をまったく同じ仕草で言う受付嬢に若干の恐怖を覚えながらも、そういえば、そんなストーリーだったなと思い返す。
ウッドフォレストのストーリーはこうだ。
ゴルドーの妻、エリーゼ・ウッドは、『魔力変換機』を開発した希代の発明家である。
ある日、王の要請を受けたエリーゼが冒険者2人を護衛に王都に向かうと、道中、盗賊に襲われ帰らぬ人となった。
訃報を知ったゴルドーは嘆き悲しみ、エリーゼを置き去りに帰ってきた冒険者を問い詰める。
すると、冒険者は言った。
襲ってきた盗賊の多さに撃退は不可能と悟ったエリーゼは、冒険者に手紙を託し、「領主である私なら手荒な真似をされることはない。しかし、私の護衛であるあなたは違う。この手紙を持って逃げてほしい。そして、ウッドフォレストに帰ることができたら、この手紙を愛する夫と娘に渡して欲しい」と……
ゴルドーは愛する妻からの最後の手紙を読み進める。そこには、王がエリーゼの開発した魔力変換機の技術を欲していることが書かれていた。
王は魔力変換機を管理下に置くことで、他国への優位性を保とうとし、メンテナンス方法を知ったことで邪魔となったエリーゼを盗賊を装った兵士に排除させた。
すべてを知ったゴルドーは嘆き悲しむ。
そんな時、『妻の遺骨』そして、『束縛されたエリーゼの魂』と共に、どこからともなく現れた魔王グリモアが囁いた。
『我が願いを聞き届けるなら、最愛の妻を蘇らせてやろう』
ゴルドーは魔王に縋り付く。
どうしたら妻を甦らせてくれるのかと。
魔王は言った。
魔物となり我が軍門に降れ。魔物を殺す者を殺す手伝いをしろ。
領主は即答した。
『妻を甦らせることができるならば構わない』と……
しかし、その目論見は勇者が来たことにより阻止される。
最後は魔王の軍門に降り魔物化したゴルドーを倒し、娘が新たな領主となる。
しかし、その新たな領主の部屋には、『両親の遺骨』と『束縛された両親の魂』があり、第13章で魔物化した新たな領主とあいまみえることになる。
これがウッドフォレストの大まかなストーリーだ。
となると、冒険者がギルドに屯っているのは、未曽有の大災害(環境破壊と大虐殺)に原因があるのではなく冒険者が魔物を殺さぬよう領主が横槍を入れた結果ではなかろうか?
「はい。その通りです。先日、領主様から魔物を倒さぬよう罰則付きのお布令がでました。でも安心して下さい。その分の補償は領主様が負担して下さいますので」
それとなく尋ねてみれば、やはり、その通りだった。
しかし……ゲームをやっていた時は気にも留めなかったが、まさか、領主に冒険者ギルドの活動を制限する力があるとは……
この町の権力構造は一体どうなっているのだろうか?
「なるほどですねーありがとうございました」
司は手続きを終え、ギルドカードを受け取ると冒険者ギルドを後にする。
「よし。それじゃあ、行くか……」
この世界に勇者がいない今、この状況を放置すれば、まず間違いなくウッドフォレストは崩壊する。
元の世界に戻るためには、自ら動かなければならない。
そう考えた司は、一度、領主の屋敷へ向かうことにした。




