最終話:美味しい笑顔が繋ぐ、終わらない旅の始まり
王宮の庭に、かつてない光景が広がっていました。
漆黒の鎧を纏い、復活の咆哮を上げようとした魔王ザルギス。しかし、その口には今、ジャンヌさんが差し出した「とろとろの焼きマシュマロ」が放り込まれています。
「…………ッ!? な、なんだこの、魂を骨抜きにするような甘美な毒は……!」
魔王様は震え、膝をつきました。数百年間の封印による怨念が、砂糖の甘みによって一瞬で浄化されていく……。
さらにその時、空がガラスのように割れ、異世界から迷い込んだ勇者一行までもが、吸い寄せられるように降り立ってきました。
「おい、こっちの世界……めちゃくちゃ美味そうな匂いがするぞ! 聖剣よりフォークを握りたくなるぜ!」
伝説の竜、神獣、氷の女王、地底の王、女神、魔王、そして異世界の勇者。
本来ならば世界を滅ぼし合うはずの力たちが、今、一つの焚き火を囲み、同じ肉を頬張り、同じお菓子に目を細めています。
「ふふっ、皆さん。お口に合いましたか?」
私は大剣を杖代わりに突き、夕焼けに染まる広場を見渡しました。
ロンさんが私の肩を抱き、アオ君が自慢の翼で風を送ってくれています。
「私、思うんです。大剣は、誰かを傷つけるためじゃなく、大きなイカさんやタコさんを切り分けるためにあるんじゃないかしら。……私は、全ての世界を美味しい笑顔で繋げたい。争いなんてない、皆がお腹いっぱいで幸せな世界を……。それが、私の【みたすもの】の本当の使い方だと思うんです」
ジャンヌさんのおっとりとした、けれど芯の通った言葉に、その場にいた全員が静かに頷きました。
「……ジャンヌ。貴様がそう望むなら、俺はこの命が尽きるまで、貴様のコンロの火を守り続けよう」
「俺もだ! 世界中の美味いもん、ジャンヌのために全部見つけてきてやるぜ!」
ロンさんとアオ君が、決意を込めて微笑みました。
「あらあら、心強いですねぇ。……さて、王宮の食材もあらかた(アイテムBOXに)頂いちゃいましたし、次はどこの美味しいものを探しに行きましょうか?」
ジャンヌさんは二人の竜を引き連れ、夕日に向かって歩き出します。
最強の女戦士にして、最高の料理人。
彼女の行く先には、きっとまた新しい「美味しい波乱」が待ち受けていることでしょう。
けれど、彼女が包丁(大剣)を握る限り、どんな困難も「サイコロ状」に切り分けられ、美味しく調理されてしまうに違いありません。
――聖女ジャンヌの「満腹」の旅は、まだまだ始まったばかりです。
また、お会いしましょう。皆さんも、お腹を空かせて待っていてくださいね。
あとがき
ジャンヌさんの物語、これにて第一部完結です!
カレーから始まり、たこ焼き、マンモス肉、そして魔王様までおもてなししてしまう、とっても賑やかで美味しいお話でしたね。
ジャンヌさんと二人の竜は、今頃どこかの国で「新しい特産品」を見つけて、ニコニコと屋台を広げているかもしれません。
またいつか、彼女たちの新しい冒険が読みたくなった時は、いつでもお声がけくださいね!




