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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第97話 メイドコボルト、魔王と帰る

 意外にも故郷巡りはあっさりと終わってしまった。多少のトラブルはあったものの、トップが二人揃って魔王とククルを受け入れたのだから驚きだった。二人を不憫に思ったこの世界の神が、手回しをしてくれたのだろう。


「それにしても、お二人はこれからどうするおつもりですかな」


 司教が魔王とククルに問いかけている。


「余は魔王ゆえに、魔族を統率するしかない。人間との間でトラブルが起きれば、全力で対処させてもらうぞ」


 魔王は当然のことを言っていた。


「私は魔王様の専属メイドですから、そのお仕事をさせていただくだけです。前世が聖女とはいえど、今はしがないメイドコボルトですからね」


「普通のコボルトやメイドは、聖剣を背負っていたりはせぬぞ」


「もう、魔王様ってば!」


 司教に答えていると、魔王からすかさずツッコミが飛んでくる。あまりにも的確だったがゆえに、ククルは怒ってしまっているようだ。

 魔王の体をぽこぽこと叩くククルの姿は、実に可愛らしいものだった。

 司教はにこやかにその姿を見ているし、部下である神官や神官戦士たちも、なぜかにこにこと笑顔を向けていた。特に神官戦士は一度交戦しかけただけに、なぜそのような表情をするのか、ククルには理解できないようだった。


「スルランの功績については、残念ですけれど、今さら修正することは叶いません。なにぶん、魔族となられたお二人の証言では、私ども以外は信じようとしませんからね」


「まぁ、それは仕方あるまい。だが、クリアテスとかいうスルランの子孫の処分は、どうにかしてもらわんと困る。アンカサードの軍勢まで動かしたのだからな」


「それはお任せ下さい。魔王が健在の中において、人間同士の戦いはご法度ですからね」


 魔王の要望に対し、司教はできることとできないことをはっきりと告げていた。

 スルランの件に関しては、魔王とククルの証言だけでは覆すことは無理だったようだ。なにせ、すべてを知る聖剣の声が聞けない以上は、限界があるのだから。

 とはいえ、魔王とアンカサード国王や司教との間で約束事が交わされた。不用意に互いに攻撃を仕掛けないこと。これが決まっただけでもちょっとした進展といえるのではないだろうか。


「魔物や悪者など、人間で手が負えないと思ったことも気兼ねなく相談してくれるといい。魔族どもの中には暴れたくてしょうがないやつもいるからな。鎮圧にはそういう連中を向かわせよう」


「できる限りは、人間の手で解決しようとは思いますが、もしもの時は頼むこととしましょう」


「うむ」


 魔王と司教との間で話がまとまったようだ。

 こうなれば、あとは城へと戻るだけだった。


「聖女プリム様、ご実家には戻られないのですかね」


「ええ、あまりいい思い出もありませんし、それはいいかなと思います。アブジール殿下とお会いしたこの教会を、私は故郷と思っていますのでね」


 司教から問われて、ククルはこう答えていた。

 実際、ただ邪魔者扱いだけをされていただけの家に、プリムは何の思い入れも感じていなかった。ククルとなった今でも、それは変わらない。悲しい気持ちになるだけなら、訪れないという選択肢しか取れなかったのだ。

 この時のククルの表情から、司教はしっかりとその気持ちを汲み取ったようで、それ以降はそのことについて何も言わなかった。


 話を終え、ククルは翼を出した魔王に抱えられて、魔王城へと戻っていく。

 行きと同じお姫様抱っこではあるが、帰り道のククルはかなり落ち着いているようだった。


「思ったよりも平和でしたね」


「そうだな。どうやら余たちのことを、当時の魔王だけではなく、神の方も不憫に思ってくれたようだ。まったく、奇妙な話よな」


 魔王は思わず柔らかな笑みを浮かべてしまっていた。

 魔族となってしまったことで見放されていたと思っていたのに、帰郷をスムーズに行わせてもらえるとは思ってもみなかったからだ。


「そういえば、街に攻めてきた兵士たちはどうなるのでしょうかね」


 ククルはふと思い出していた。


「なぁに、処罰は言い出したクリアテスが全部その身に引き受けるだろう。戦いはおろか、神聖魔法の腕前でも魔族に負けたのだからな」


「まぁ、それでいいですかね。私たちが死ぬ原因となったスルランに、ちょっとやり返せたわけですものね」


「うむ」


 ククルの言葉に、魔王はこくりと頷いている。


「さて、城に戻ったら、早速準備を始めねばなるまいな」


「準備って、なんのですか」


 魔王が話し始めた言葉に、ククルは思わず眉をひそめてしまう。一体魔王が何を言い出したのか理解できなかったからだ。

 そんなククルの訝しむ表情を見て、魔王はにやりと笑っている。


「ふふっ、とぼけるでないぞ。よく分かっておろうに」


「全然」


 にやけながら話しかける魔王に対して、ククルは即答している。あまりにも早い答えに、魔王はつい噴き出してしまっていた。


「何がおかしいんですか」


「いや、本当に分かっていないのだなと思うと、ついおかしくてな」


 笑いまくる魔王に対して、ククルはむすっと頬を膨らませている。とはいえ、毛むくじゃらなコボルトの顔では、頬が膨らんでいるのかは分かりにくいものだった。

 そんなククルの顔を見ながら、魔王ははっきりと告げることにする。


「余とククルの結婚式だ。昔の約束、ようやく果たす時が来たというわけだよ」


「な、なななな……」


 魔王が笑顔で言い放った言葉に、ククルはまったく言葉にならない声を発するのだった。

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