第96話 メイドコボルト、教会に帰る
魔王たちに降参した神官戦士たちは、魔王とククルを教会へと案内する。
教会へと到着したところで、ククルは思わず声をこぼしてしまう。
「うわぁ……、懐かしい」
魔王に抱えられて少しの間参っていたために、魔族となったククルが教会の姿を見たのはこの瞬間が初めてだった。
そこには間違いなく、自分が育った教会が建っていた。さすがに何百年と経っているために見た目こそ少しボロボロになっているものの、そのたたずまいはククルがいた頃そのままだった。
「魔王様、ここが私たちが前世で初めて出会った場所ですよ」
「ああ、そうだな。余もしっかりと覚えているよ。ただ、その時その聖剣を背負っておったのは、余の方だったのだがな」
両手を広げてくるくると回りながら話すククルの姿に、魔王はつい微笑ましく笑ってしまう。同時に、ククルの前世である聖女プリムとの出会いを懐かしんでいるようだった。
「い、一体お前たちは何者なのだ」
案内してきた神官戦士たちは、改めて魔王たちに問いかけている。
「余か? 余はアブジール。アブジール・ディエ・アンカサード、それが余の前世の名だ」
「私はプリム。アブジール様に迎えられ、ともに魔王を討伐氏に旅立った聖女プリムです」
その問いかけに、ククルたちは正直に答えている。同時に、ククルはコボルトの長老から返してもらったブローチを目の前に突き出している。
神官戦士たちは、その名前に驚いている。
「な、なんと、アブジール王子と聖女プリムですか。こ、これは大変申し訳ございませんでした。どうぞ、中にお入りになって司教様にお会いいただけませんでしょうか」
「うむ、構わぬ。この姿で信じろという方が無理であろう。互いに積もる話もあるであろうから、ゆっくりとさせてもらうぞ」
魔王とククルは教会の中へと入っていく。だが、当然ながら中にいた人間たちはみんな右往左往である。神聖な教会に魔族が入ってくればこうなるのも当然だ。
そして、司教の部屋までやって来る。
神官戦士が司教に報告をすると、意外にも司教はあっさりと部屋の中へ通すように伝えてきた。
「おお、これはまたずいぶん変わり果てた姿になりましたな」
「えっと……」
司教の言葉に思わず戸惑ってしまうククルである。
「聖女様がお戻りなられることは、分かっておりました。しばらく前に、私の元に神託が下りて参りましたからな」
「なんと、そのようなことがあったのですね」
ククルは驚いていた。
神託というのは、神から伝えられる予言のことだ。それが司教の元にあったというのだ。
「それにしても、魔王を討たれたお二人が、魔族となられているとは、思いもよりませんでしたよ。さすがの私も、その神託には耳を疑ったものです」
「そ、それはそうでしょうね。ねえ、魔王様」
「それはそうだな。誰が魔王を討ったものが魔王になるとか信じられよう。だが、余が討ち果たした魔王は、余たちを憐れんで余たちに転生の秘術をかけおったのだ」
「ほう、詳しくお聞かせ願いましても?」
「よかろう」
司教が強く興味を示したので、魔王とククルは当時のことを話すことにした。
二人の話を聞いた司教は、それはつらそうな表情をしている。
「なんと……。スルランが裏切りましたか」
「ああ。奴は余と当時の魔王が相打ちになったところに、のうのうと現れよってな。余が死んだことを悲しむプリムを背後から貫いて殺したのだ。自分が最終決戦に出向かなかったことを知られぬようにするためにな」
「なんという……」
「当時他にいた部下のことは分からんが、おそらくは余とプリムが二人で魔王を倒すため、後方支援を頼まれたとでも言ってごまかしたのだろう」
魔王は腕を組みながら、苦虫をかみ潰したような表情で話している。そのくらい、魔王にとっては嫌な思い出というわけである。
「しかし、聖剣が魔族を主に選ぶとは、驚きですな」
「ああ、記憶を取り戻したのは最近だが、中身がプリムゆえに扱えたのだろうな。だが、聖剣の使い手となったことで、余に知られれば殺されると怯えておったようだがな。実にその姿は可愛かったぞ」
「ちょ、ちょっと魔王様?!」
ある程度話をしたところで、司教が話を切り替えると、魔王はとても楽しそうに反応している。実は最初から知っていて反応を楽しんでいたと聞かされて、ククルは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「しかし、本当に聖剣の使い手なのですかね」
「証拠を見せてやろう。ククル、聖剣を置いて、少し歩くのだ」
「わ、分かりましたよ……」
いまいち信じがたいということで、ククルはその証拠を見せるために聖剣をテーブルに置いて立ち上がる。
少しずつ歩いて距離を取っていくと、突然、聖剣がククルの背中へと飛んでいく。
「あいだっ!」
背中に思いっきり聖剣のタックルを食らってしまったククルは、その衝撃のせいでその場にへたり込んでしまう。それだけとんでもない衝撃だったのだ。
だが、これ以上ない聖剣の持ち主という証拠に、司教もやっと納得がいったようである。
「これは間違いありませんね」
「であろう?」
「あたたたた……。この突撃を食らう私の身にもなって下さいよ……」
納得し合う魔王と司教に対し、ククルの愚痴が飛ぶのであった。
ククルの教会への帰還は、文字通り衝撃的なものとなったのだった。




