第95話 メイドコボルト、脅す
アンカサードの城でやることを終えた魔王とククルは、今度はククルの故郷である教会に向かうことになった。
しかし、その教会はアンカサードの王都からは少し距離があるようだった。
「どうなさるおつもりですか、魔王様」
「なぁに、心配は要らぬ。今の余は魔王なのだ。不可能などほとんどない」
「きゃあっ?!」
ククルの疑問に答えた魔王は、ククルをまた抱っこしている。唐突なお姫様抱っこに、ククルは白黒させてしまっている。
驚いている間に、魔王は宙に浮き始める。
そう、魔王は翼を持っており、それによって空を飛んでいこうというわけである。
「しっかりつかまっているのだぞ、プリム」
「はいぃっ!」
空を飛んでいるということもあって、ククルは怖くてしっかりと魔王の首に手を回している。
ある程度の高さまで浮かんだかと思うと、魔王はククルの出身である教会がある方向を見定めている。
「うむ、あっちだったな」
そう呟いたかと思うと、一気に空中を進み始めた。
「ひやあぁぁぁぁっ?!」
あまりのスピードに、ククルは思いっきり悲鳴を上げてしまっていた。
なんとも愛らしい姿に、魔王はしっかりとククルを抱きかかえたのだった。
「目が、目が回るぅ……」
目的地の近くまでやってきた魔王が着陸すると、ククルはずいぶんと参っているようだった。
「やれやれ。やはり最弱と言われる魔族であるコボルトでは、少々耐えられなかったか」
完全に参っている感じのククルを見て、魔王は微笑ましくて笑っている。
ちょっと立てそうにないなと思った魔王は、ククルを抱きかかえたまま、辺りの様子を見回している。なんとも懐かしい感じに、魔王は微笑みを浮かべている。
「あまり変わった感じがしないな。城での話を聞いて、いかほど時間が経過したのかを知ったが、それでもこの辺りはまったく変わらんようだ」
ぽつりと呟いた魔王は、ククルを抱きかかえたままゆっくりと歩き出す。
ククルが生まれた場所は定かではないが、親に捨てられて以降過ごしたという教会はすぐそこにある。
だが、さすがに魔王のようなとんでもない魔力がだだ漏れとあっては、手荒い歓迎が待っていないわけがなかった。
行く手を阻むように、神官戦士たちが現れる。
「魔族が、何用だ!」
「教会に近付くとは愚かなり。我々の手で成敗してくれる!」
魔王を目の前にしても、神官戦士たちはまったく退きはしない。というよりは、目の前の魔族が魔王だと分かっていない風である。
やれやれと思った魔王は、その挑戦をおとなしく受けることにする。
「余が何者か分かっていないようだが、面白そうだ、その挑戦を受けてやろう」
「ほざけ!」
魔王が挑発すると、神官戦士たちが襲い掛かってくる。
その瞬間だった。
ガキーンッ!
金属がぶつかり合う音が響き渡る。
何かと思えば、ククルが聖剣を抜いて、神官戦士たちの持つ剣を弾いてしまったのだ。
「う、うう……」
「こ、コボルトのくせに……」
剣を弾かれた神官戦士たちは、その衝撃の強さに手を押さえている。
「魔王様への攻撃は、この私が許しません。今世の聖剣の主である私ククルがね!」
「ま、魔王だと?!」
「それに聖剣だと?!」
ククルの言い放った言葉に、神官戦士たちは戸惑いを隠せなかった。
魔王もそうだが、魔族であるコボルトが聖剣を持っているということもだ。
「魔王も聖剣もはったりだ! 魔族どもを斬り捨てろ!」
信じられるわけがないので、再び剣や魔法でもって二人へと襲い掛かってくる。
やっぱりそうなるかと、今度はククルは聖女としての力を使うことにする。
「聖域結界!」
自分と魔王を囲むように、神聖魔法の結界を展開する。
「うわぁっ!」
「ま、魔法が弾かれる?」
「バカなっ! あれは上位神官の使う広域防御魔法だぞ。なぜそれを、魔族が使えるのだ!」
ククルの使った魔法を見て、神官戦士たちは更なる混乱に陥っている。
だが、この状況でククルが攻撃の手を休めるわけがなかった。手荒い歓迎をしてくれたのだ。しっかりとお返しをしてあげないと気が済まないのであった。
「さぁ、その剣を収めるのです。この魔法を食らいたくなければね」
ククルは目の前の神官戦士たちに脅しをかけている。
そのククルの頭上には、じわじわと神聖な魔力の光が集まり出し、何かの形を作り始めていた。
「ま、待ってくれ、その魔法は……!」
何かに気が付いた神官戦士の一人が、思わず叫んでしまっている。
「分かった。おとなしく降参するからその魔法はやめてくれ。この辺りの地形が変わってしまう!」
集まった魔力の大きさからして、周囲への被害が甚大と判断した神官戦士が、おとなしく降参を申し出てきたのだ。
その反応を見たククルは、にっこりと笑顔を見せて魔法の発動を中断する。
「では、教会までご案内いただけますでしょうか。私たちは穏便にお話をしに来ただけですのでね」
右手には聖剣を持ち、左手は空に向けたまま、ククルは神官戦士たちに笑顔で話し掛けている。それは、いつでも攻撃できるぞというポーズである。
メイド服を着たコボルトであるにもかかわらず、ただならぬ気配を感じた神官戦士たちは、ククルたちの要求をやむなくのむことにしたのだった。




