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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第93話 メイドコボルト、魔王と魔王の故郷にたどり着く

 アンカサード王国軍の案内で、ククルは魔王と一緒に移動をしている。だが、聖剣を背負った状態で魔王に抱っこされているという状況に、ククルは恥ずかしくてたまらなかった。


「魔王様、私は歩けます。歩けますから下ろして下さい!」


 騒ぐものの、魔王はまったくククルを地面に下ろすつもりはないようである。ずっと抱きかかえられているククルの顔はもう真っ赤である。顔に生えている毛を完全に貫通するほどなので、相当恥ずかしいようである。

 これだけ騒がれているというのに、魔王はまったく涼しい顔である。この温度差には周囲の神官や兵士たちは、どう反応していいのか分からずにいた。途中で目を覚ましたクリアテスやファーレン中将も同じである。

 魔王なので怖いのは当然だが、その状況の中でこんな甘々な空間を展開されては、さらに気まずいというものである。結局、この状況は王都の近くにやってくるまでまったく変わらなかったのだった。


「おお、懐かしいな。この外壁は当時のままか。さすが、建国より築かれた堅固な外壁だな。余としても鼻が高いというものだ」


 王都を外から眺める魔王は、変わらぬ故郷の姿に感動しているようである。

 その城壁の上部からは、かつては魔王の前世であるアブジール王子が過ごしていたアンカサード王城も顔をのぞかせている。もはやすべてが懐かしい魔王である。


「こ、ここが魔王様が前世で過ごされていた場所なのですね」


「ああ、そうだ。大陸随一とも言われた堅固な守りを持つアンカサードだ。当時の魔王軍も何度か攻め込んできたが、一度たりとも落とすことはできなかった自慢の外壁だぞ」


 当時のことを思い出しながら、魔王は自慢げに話をしている。

 その様子を見ていたファーレン中将は、実に信じられないという表情を浮かべていた。目の前にいる魔王は、アンカサード王国のあれこれを話しているからだ。この内容は国にいないことには知らないことばかりなので、さすがにファーレン中将も魔王の話を信じざるを得ないといったところである。


「ほ、本当に魔王と相打ちになられたアブジール殿下なのですか?」


「そう話したであろう」


 ファーレン中将が確認すると、魔王は呆れた表情で反応している。信じぬとは困ったやつだと言わんばかりである。

 だが、相当な昔だということを思えば、仕方あるまいと思う魔王なのであった。


「さて、ここまで案内ご苦労だったな。余たちは王に会ってくるとしよう。つかまっておれ、プリム」


「へ?」


 魔王はそういうと、ククルを再び抱っこして空高く舞い上がった。


「ええええええっ!?」


 急に空を飛ぶものだから、ククルは目をぐるぐるとさせてしまっている。

 ファーレン中将たちは、その姿を呆然と眺めていた。


 魔王はあっという間に、城の中枢へと侵入してしまっていた。


「プリム、大丈夫か?」


「だ、大丈夫じゃ、ないですよぉ……」


 ククルを床に下ろす魔王だったが、当のククルは目をくるくると回しながらくらくらとしていた。急に空を飛んだものだから、腰が抜けてしまったようである。


「曲者! 城に侵入して無事でいられると思うな!」


 次の瞬間、城の中に兵士たちの声が響き渡っていた。

 どうやら、空飛ぶ魔王を確認したらしく、すぐさま対処すべく集まってきたようだった。


「ふむ、実に早いな。この警備はさすがと言えよう。あの頃からまったく変わっておらぬ」


 兵士が集まってきたことに、魔王はものすごく感動しているようだった。

 ところが、ククルは魔王にしがみついて文句ありげに顔を見ている。状況が状況ゆえに気を持ち直したようだった。


「何を落ち着いてられるんですか!」


 青ざめた顔でククルは魔王に訴えている。


「なに、何も心配は要らぬぞ」


 魔王が腕をひと薙ぎすると、兵士たちがその腕から発生した魔力で簡単に吹き飛んでいく。あまりにもとんでもない光景だけに、ククルは口をパクパクとさせている。


「さあ、王に会いに行こうではないか。余の親兄弟の子孫だ。丁寧に挨拶をせねばな」


 魔王はククルに向かって優しく微笑みかけている。その姿を見たククルは、もうどうにでもなってちょうだいと言わんばかりに頭を抱えてしまっていた。

 その後も、魔王は襲い来る兵士たちをいとも簡単に排除して回っている。もちろん、自分の出身国の兵士たちなので、傷つかないように気絶だけさせて回っている。


「うむ、ここが王の間だな」


 目的地へとやってきた魔王は、扉を開けて中へと入る。

 部屋の中には王冠をかぶった人物が座っていた。まさか逃げていないとは思わなかったので、魔王は驚いている。


「ほう……。あれだけの騒ぎを起こしたのだから、逃げていたと思ったのだがな」


「アンカサードの王は、いかなる時も退かぬものだ。そなたとて、そのくらいは分かっていよう」


「ふむ、なんともおかしなことを言うものだな。まるで余が誰か分かっているような言い分ではないか」


 国王は立ち上がると、なぜか魔王に向かって歩いてやってきた。


「当然でございますとも」


 国王はなぜか魔王に対して跪いている。


「ようこそお戻りくださいました、アブジール・ディエ・アンカサード様」


 顔を上げた国王は、はっきりと魔王の前世の名前を告げたのだった。

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