第89話 メイドコボルト、因縁の相手と戦う
ククルは片手で聖剣をクリアテスに向ける。正直なところ、いくらコボルトとはいえど、自分の身長よりも大きな剣を片手で持てるわけもない。よく見るとプルプルと震えている。
「大丈夫か、ククル」
「平気ですよ。私の魔法は自分にもかけられますから」
後ろで控えていたジャックに心配されている。しかし、ククルはにっこりと微笑んでいる。
「それよりも、ここでクリアテスたちを抑えて、街を守ります」
「あ、ああ」
「私が一人でクリアテスと戦いますので、みなさんは他の兵士たちが攻めてきたところを迎え撃って下さい」
「分かった」
過去にククールとして接していた時の記憶があるが、この時のククルの姿に、ジャックは違和感があった。しかし、そのあまりに堂々とした姿に、ジャックはもちろん、後ろに控えるみんなも同じように頷いていた。
再び、ククルはクリアテスを見る。相手はコボルトだというのに、クリアテスは怯んだような表情を見せる。
すぐに左右に顔を振ると、クリアテスはククルを見る。
「ええい、コボルトの戯言ごとき、一体なんだというのですか。この街は見ての通り、魔族の手に落ちました。神の名において成敗し、その呪縛から解き放とうではありませんか」
クリアテスが兵士たちに呼び掛けるも、兵士たちの反応はあまりよろしくない。やはり、ククルの持つ聖剣がかなり牽制になっているようなのだ。
「ええい、この腰抜け者たちが! これらは、彼らへの救済なのです。さぁ、やっておしまいなさい!」
クリアテスが怒鳴るように言い聞かせると、ようやく兵士たちは動き始める。
この渋々とした動きを見る限り、ククルの先程の言葉がかなり効いている。兵士たちはかなり渋々といったところだった。
あまりの兵士たちの動きの鈍さに、クリアテスは苛立ちを隠せない。ギリギリと歯を食いしばっている。
「さぁ、クリアテス。あなたの相手は私ですよ」
兵士たちが動き始めたところに、ククルが平然と歩み出てくる。
「ははっ。実に愚かなり。コボルトが一匹で出てくるなど、命知らずもいいところですね。やってしまいなさい!」
コボルトという魔物だけに、さすがに今回は兵士たちの反応がいい。剣を抜き、ククルに対して襲い掛かってくる。
ところが、ククルはまったく動じていない。それどころか、聖剣を体の前に出し、すぐさま魔法を発動させる。
「聖域結界!」
「ぐはっ!」
「うわぁっ!」
ククルの周りを円形の結界が囲み、近付いてきた兵士たちを弾き飛ばしていた。
自分の持っていたブローチによって聖女プリムの力を取り戻したククルは、その時の魔法の大部分を平然と扱えるようになっていた。
犬好きが高じて託しておいたブローチが、まさかこのような形で自分を助けてくれることになるとは、なんとも不思議な話なのである。
「私の邪魔はさせません! あなた方にできることは、あの者たちと戦うことか、さっさと降伏すること。どちらを選んだとしても、私はあなた方を責めません。……私の敵は、クリアテス一人なのですからね」
吹き飛ばされた兵士たちへと視線を向けながら。ククルははっきりと言い放っていた。
目の前にいるのは最弱の魔物であるはずのコボルトだというのに、兵士たちはとても近寄れないでいた。
「お前たち、何をぼさっとしているのですか。神の名において、やつらを成敗するのです! 神官たち、彼らを援護なさい!」
「はっ!」
コボルトの相手は無理だと思ったクリアテスは、兵士たちに冒険者たちを攻撃するように指示を出していた。たじろいでいた兵士たちも、やむを得ず冒険者たちへと攻撃を仕掛けていく。
しかし、ククルはそちらの心配はまったくしていない。先程、範囲強化をかけておいたからだ。
「お前の相手は私です。聖女を騙る魔物ごとき、この私一人で十分なのです!」
「なら、試してみましょうか!」
クリアテスが構えたのを確認すると、ククルは聖剣を構えて斬りかかっていく。
「えいっ!」
振りかぶるとしっかりと地面を踏み込んで剣を下ろしていく。自分の体よりも長い聖剣だが、ククルはきちんと振り回せている。
聖剣の主ということもあるが、ククールの時に培った剣の鍛錬が地味に活きているのだ。
「ちっ!」
クリアテスは攻撃を躱す。ただ、その表情は予想外という表情だった。
メイド服を着たコボルトごときが、剣で鋭い攻撃を仕掛けてきたのだから。見下していたクリアテスからすれば、想像できるわけもなかったのだ。
「くそっ、コボルトごときが!」
クリアテスの表情が段々と強張っていく。
「この私を、よくもコケにしてくれましたね。我が剣の錆にしてくれましょう!」
クリアテスも、どこからともなく剣を出して構えている。
『主。あの構え、意外とやり手のようですぞ。お気を付け下され』
「分かっているわ。聖女の生まれ変わりとはいえ、私は魔族。下手に攻撃を受けてしまえば、堕ちた神官の力とはいえ、ただでは済まないでしょうからね」
聖剣が注意を呼び掛けてくるので、ククルは頷きながら警戒している。
「さあ、神の名の下にひれ伏すのです!」
クリアテスは身構えるとともに、ククルへ向かってすぐに攻撃を仕掛けてきた。
迎え撃つべく、ククルもまた、しっかりと聖剣を構えるのだった。




