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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第87話 メイドコボルト、戦場に立つ

 魔王城から最も近い街の近く。

 クリアテスが率いる教会と王国の連合軍が迫ってきていた。


「クリアテス殿」


「なんでしょうかな、ファーレン中将」


 軍の後方で構えるクリアテスに、がっちりと鎧を着込んだ人物が声をかけている。


「本当に、街を攻め滅ぼすつもりですかな?」


 どうやら、クリアテスが仕掛ける戦いについて、ちょっとばかり疑問を感じているようだ。

 ならばなぜ、この人物はクリアテスと一緒になって攻め入ろうとしているのだろうか。


「当然ですよ。魔族と通じていると分かった相手なのですからね。魔族は悪、これは昔から変わらないことですよ、ファーレン中将。それに、国王陛下の決定に逆らうおつもりですかな?」


「うぐ……」


 そう、教会からの働きかけに国王が賛同してしまったのだ。だから、軍部の上層にいるファーレンが駆り出されてしまったというわけである。

 ちなみにだが、今回の作戦はジェノサイドである。つまり、街を滅ぼす気満々というところだ。だからこそ、王国の兵士がかなり投入されているというわけである。街ひとつに対する戦力にしては多すぎるのだ。


「して、街を攻撃するにも、作戦はあるのですかな、クリアテス殿」


「ええ、逃げられては困りますからね。もちろん、挟撃という形を取りたいと思っております」


 クリアテスはにやりと笑っている。


「だが、どうするのだ。あの街の両脇には魔物が多く住む森があるのだろう? 挟撃するには、分けた軍勢をその森の中へと進ませねばならない。挟撃をする前に、戦力を削られかねんぞ」


 それに対して、ファーレン中尉は現実的な問題を挙げて反対をしている。

 だが、クリアテスには考えがあるようで、それを押し通すつもりのようである。

 あまりにも自信たっぷりなクリアテスの態度に、ファーレン中尉は押し切られる形となってしまった。


 進軍していく教会と王国の連合軍は、目的地までもう少しと近付いてきたところで、軍勢を二つに分ける。当初の予定の通り、街を挟撃するつもりなのだ。

 半分よりも多い軍勢となった挟撃用の部隊は、クリアテス率いる本体と別れて、魔物の多く生息する森の中へと突き進んでいく。挟撃用の部隊にはファーレン中尉とクリアテスの側近が加わり、彼らが指揮を執っていく。

 ファーレン中尉だけではなくクリアテスの息がかかった人間が入っているのは、ずっとファーレン中尉が反発するような態度を取っているためだ。万一彼に離反されるようなことになれば、この作戦は失敗する。それをさせないための見張りを送り込んだのである。

 挟撃用の部隊が突き進んでいったのを確認すると、クリアテスもいよいよ動き出す。


「ふふふっ、この私をコケにしてくれたお返し、たっぷりとさせていただきましょう。覚悟なさい。ふははははっ!」


 クリアテスの笑いがこだまする。それを合図として、本体は街へと向けて進軍を再開する。


 いよいよ目的地となる街が見えてきた。

 よく目を凝らしてみると、街の外には兵士や冒険者たちが既に待ち構えていた。


(おやおや、お出迎えとはおかしなことですね。外部に漏らさないように進んできたといいますのに、誰か裏切り者がいましたか……。こうなっては、終わった後……、いや、戦いのさなかに見極めて始末しておきましょう)


 待ち伏せされているとは思っていなかったクリアテスは、裏切り者がいると踏んで、そのように考えたのだった。

 そして、街を目の前にしてある程度距離を保ったところで軍を停止させる。待ち伏せをされていた以上、あまりに近付いて刺激するわけにはいかなかったのだ。

 すぐに突撃すると思っていたのか、一部の兵士たちは舌打ちをするような素振りも見えた。

 だが、これはクリアテスによるパフォーマンスである。

 クリアテスは、軍の戦闘へと歩み出てくる。


「これはこれは、ずいぶんと豪勢なお出迎えですね」


 かなり皮肉を含んだ言い方で、クリアテスは街の前に陣取っている集団に話しかけている。


「まるで、私たちとけんかをしたいといっているような態度ですね。その物騒なものをしまってもらえませんか?」


 クリアテスはにやけた表情を浮かべながら語りかけている。

 だが、この状況でその言葉に従う者などいるだろうか。いるわけがない。

 なぜなら、それ以上の軍勢でもって街にやってきたやつがいるのだ。従えるわけもないだろう。


「それ以上、汚らしい口を開かないで下さいませんかね」


 互いに緊張が走る中、一人の女性の声がその場に響き渡る。


「誰ですか、無礼な口を利くのは!」


 響き渡った声に対し、クリアテスは驚いた様子で反応を見せている。少なくとも、クリアテスはその声に聞き覚えがあったからである。

 辺りを見回したクリアテスが、改めて目の前の集団へと目を向ける。するとそこには、見たことのない姿をした者が姿を見せていた。


「コボルト……? やはり、お前たちは魔族と精通しておりましたか!」


「黙りなさい!」


 集団の一番前に出てきたメイド服を着たコボルトは、肩幅に足を開き、腕をしっかりと組んでクリアテスたちを睨みつけている。


「メイド服を着たコボルトの分際で、生意気な口を利くとは万死に値します。まずはあやつを魔法で始末してやりなさい!」


「はっ!」


 クリアテスの命令で、舞台にいた魔法使いがメイドコボルトに対して魔法を放つ。

 見事命中したため、クリアテスは高らかに笑い始める。

 ところが、その笑いもすぐに引きつらせてしまう。


「数百年前、私を裏切ったその借り、ここで返させていただきます!」


 メイド服のコボルトは、背中に背負った剣を抜き、クリアテスを睨みつけながら構えるのであった。

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