第85話 メイドコボルト、魔王の伝言を伝えに行く
故郷から魔王城に戻ってきたというのに、ククルは翌日にはすぐに近くの街へと向けて出発していた。
それというのも、何か動きがないかを確認するためである。
メイド服に聖剣を背負い、ククルはよしと気合いを入れて魔王城を出発する。
さすがに何度も通った道だ。さすがにもう迷うことはないというものである。
それに魔王城の治安維持を行っている兵士たち手によって魔物はすっかり狩られてしまっているので、一切魔物とエンカウントすることのないという快適な移動である。
魔王城から出発した七日後のこと、夕方には街に到着するククルであった。
「やぁ、誰かと思えばククルじゃないか」
「お久しぶりです。えっと……」
門番から声をかけられて、ククルはちょっと戸惑っている。
それというのも、しばらく姿を見せていなかったということあるからだ。だが、門番は優しい表情でククルを迎えている。
「なあに、領主様からはククルが来たら、優しく丁重に迎え入れろと言われている。何も気にしなくていい」
「そうそう。あっ、そうだ」
「えっと、なんでしょうか」
話をしていた門番は何かを思い出したようだ。
「ククルが来たら、領主邸に来るように伝えてくれって言われてたんだ。伝えたから、すぐに領主邸に向かってくれ、いいかな?」
「……分かりました。では、トールソン様にお会いに参りますね」
とりあえずよく分からないものの、ククルは門番から伝えられたとおりに、領主邸へと向かうことにしたようである。
門番と手を振り合いながら、ククルはにこやかな表情で街の中へと入っていく。
プリムとしての記憶を取り戻したせいか、急激に街の中に懐かしさを感じてしまう。とはいえど、その時の記憶はかなり昔のことであり、その時、この街はただの前線基地でしかなかった。
そう、まるっきり様子が違うというのに懐かしく感じてしまうということは、その時から魔王と同じでこの場所に思い出があるということなのだろう。
魔王城へ攻め入る時のことを思い出して、ククルの瞳には思わず光るものがあふれ出してしまっていた。
「まったく、遠い昔のことなのに、もう……」
あふれ出るものに戸惑いつつ、きちんと拭いながら、ククルは領主邸へとやってきた。
到着したククルは、領主邸の衛兵と挨拶を交わす。そしたら、街の門番と同じようなことを言われて、すんなりと領主邸の中へと案内されてしまう。
領主邸の館の扉の前まで来ると、今度は中から執事が現れて、その執事の案内で館の中へと入っていく。
以前から丁重に扱われてはいたものの、改めてこれだけ丁寧に扱われれば、ククルもちょっと構えてしまうというものだ。ククールとして滞在していた時の記憶も混ざってきて、余計のこと混乱してしまうククルである。
「トールソン様、お客人がいらしております」
「うむ、中へと通せ」
「はっ!」
領主の部屋まで案内されたククルは、名前も名乗っていないというのにあっさりと中へと通されてしまう。あまりもあっさりし過ぎていて、ますます警戒が強くなっていってしまう。
ククルの耳はわずかながらに垂れてしまい、しっぽも不安たっぷりに垂れ下がってゆっくりと揺れている。
「よく戻ってきてくれたね、ククル。門番から報告が上がっていたから、確認もしないで通してしまったんだが、それがかえって君を不安にしてしまったようだな」
「あ、いえ……。そうだったんですね。なんだか安心しました」
名前も確認せずに通された理由が分かって、ククルはほっと胸を撫で下ろした。
トールソンの侍従も同席する中で、ククルはトールソンと同じテーブルに座る。
「今日は、一体どのような用件で来たのかな。おそらくは魔王が関わっているのは間違いないのだろうけどね」
「はい、その通りです」
トールソンの推理に、間髪入れずに頷くククルである。
そのあと、魔王からどのようなことを頼まれたのか、すべてトールソンへと話していた。
ククルのことを魔族と分かりながらも受け入れていたので、トールソンに対して魔王も信用を置いている。なので、話を振られようが振られまいが、用件はすべて話せと強く言われている。だからこそ、ククルは全部話したのである。
「ふむ、魔王殿はずいぶんとこの街のことを気にかけていらっしゃるようなのですな」
「ええ。ここはかつて自分が基礎を築いた街ですからね。魔王様にとっては思い出深い場所ですから、魔族にも人間にも、どうこうさせるつもりはないようなのです」
「まあ、確かにその通りだね。これだけ近いのであるのなら、いつでも魔族をけしかけて滅ぼせるだろうからね」
「ええ、その通りです」
トールソンが納得したように話すので、ククルもつい笑ってしまう。
しかし、すぐに表情を引き締める。
魔王との関係を疑われてしまった以上、教会からこの街に対して何か動きが出ているはずだからだ。
魔王の調査では、すでには兵の準備を進めていることが分かっている。となれば、なんらかの通達なりが行われている可能性がある。
「大丈夫ですよ。教会が攻めてくる可能性は、私たちは既に考えておりますからね。私の私兵やジャックたち冒険者たちと協力して、その時に備えております。そんなに心配しないで下さい」
「いえ。そういうわけにはいきませんよ。ここは私にとっても大事な場所ですからね」
決意を語るククルの顔を見て、トールソンも安心した表情を見せている。
魔王からの伝言を携え、ククルはトールソンと協力して、いずれやってくるその日に備えるための行動を起こすことにしたのである。




