第84話 メイドコボルト、魔王と話をする
「ただいま戻りました、魔王様」
魔王城へと戻ってきたククルは、スカートの裾をつまんで魔王に頭を下げて報告をしている。
「うむ、よく戻ったな」
魔法は椅子に座ったままにこやかにククルを出迎えている。
ところが、そうかと思えば椅子から立ち上がり、ククルへと近付いていく。
「ま、魔王様?」
「ふむ……。なにやら懐かしいものを身に着けておると思ったら、途中で無くしたとか言っていたブローチではないか」
「あ……」
さすがは魔王。ものすごくめざとかった。
ククル自身はあんまり目立たないように身に着けたつもりだったのだが、魔王の目をごまかすことは叶わなかった。一発で見つけられてしまったのである。
「これをどうしたのかな、ククル。いや、プリムよ」
「えと、あの、その……」
魔王に迫られてしまい、ククルはたじたじとしている。
じっと見つめられてしまい、逃げるに逃げられなくなったククルは、正直に話すことにしてしまった。
ククルの話を聞いた魔王は、なぜかとても楽しそうに笑っていた。
「くくくっ、やはりそんな気はしていたぞ。お前は昔っからそうだったからな。犬が好きで、コボルトもこっそり逃がしていたのは知っていたからな」
「わわっ、気付かれてましたか?!」
「当たり前だ。しかし、その時にブローチを渡していたとはな。本当に、お前がコボルトに転生したのは、運命過ぎたようだな、プリム」
「ううう……」
ズバリと魔王に言われてしまえば、まったくもって何も言い返せないククルなのである。
ぐぬぬと悔しそうにしていると、魔王が近付いてきておもむろに抱きかかえる。
「きゃっ! ま、魔王様?!」
「戻ってきたばかりのところ悪いが、ちょっと相談に乗ってくれ」
恥ずかしがるククルだったが、お姫様抱っこをしてきた魔王に真剣な表情を向けられると、顔を真っ赤にしながらもおとなしくしていた。
あまりにも真っすぐな瞳に、完全にククルはひきつけられてしまっていたのだ。
応接用のテーブルのところまで運ばれると、魔王の隣の席にひょいと座らされる。
何が始まるのだろうかと、ククルは膝の上に両手を握った状態で乗せて、緊張した様子を見せている。
隣に座った魔王は、なにやら書類を数枚ばかり持ってきたようで、それをククルの前に広げている。
「えっと、これは……?」
見せられたものが何なのか理解できないククルは、魔王の顔を見ながら問いかけてしまう。
その問いかけに、魔王は真剣な面持ちを崩さないまま、内容について話を始める。
それによれば、部下に調べさせた教会の動きのようだった。
「もしかして、クリアテスが動き出したっていうことなんですか、これは」
話を聞いたククルは、コボルトの直感のこともあってすぐに事態を理解したようだ。
このククルの問い掛けに対し、魔王はこくりと頷いている。実にその通りだったのだ。
「余が関わっていると分かるや否や、あの街を異端として攻め滅ぼすつもりで動いているようだ。現在は十分な兵力を集めて攻め込む準備をしているようだよ」
「そんな。あの街の人たちは、私たちとはほとんどかかわりがないですのに。そ、そりゃ、私が何度か買い物に行きましたけれど」
魔王が話した内容を聞いて、ククルはかなり腹を立てているようである。
ところが、魔王はなんとも冷静な表情をしている。
「いや、すべては余の責任だ。いくらお前が危ない目に遭いかけたからとはいえ、あの場に安易に姿を見せるべきではなかっただろう」
「で、でも……」
「しかし、汚らしい手がククルに触れておるのかと思うと、余はいても立ってもいられなくてな。自分が抑えきれなかったというわけだ。余は、為政者として失格なのやもしれんな」
「そんなことはないですよ!」
自分をかなり責めている魔王に対して、ククルは立ち上がって反論をしている。
「魔王様はみなさんに慕われておりますよ。魔王様がこの地を治めて下さっているから、私たちはこうやって平和に暮らしていられるんです。そんな風に仰らないで下さい!」
ククルは必死に魔王に対して訴えている。
その表情をよく見ると、うっすらと涙が浮かんでいるようだった。
そのことに気が付いた魔王は、驚いた表情を引っ込めて、小さく笑っていた。
「何がおかしいんですか、魔王様」
「いや、そういうところは、昔と変わっていないと思ってな。余が落ち込んでいると、そうやって叱ってくれたではないか。ふふっ、実に懐かしいものだ」
魔王は小さく笑いながら話をしている。
話を聞かされたククルは、同じように昔を思い出して、恥ずかしそうな表情を浮かべている。
「というわけで、ククル。ちょっと危険かもしれんが、あの街に行って、余の伝言を伝えてくれぬか」
そうかと思えば、今度はまた真剣な声で話し掛けてきている。
「いいですよ。私だってあの街にはお世話になった身です。あの街を守るためだったら、なんだってやってやろうじゃないですか。これでも、元聖女なんですからね」
「ふっ、頼もしいな」
鼻息荒く宣誓するククルに対し、魔王はククルを見ながら笑顔を向けている。
やがてやって来る教会の脅威に対し、魔王とククルは作戦を立て実行に移すことにしたのだった。




