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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第82話 メイドコボルトと長老

 長老が取り出したのは、ブローチだった。

 聖女であったプリムが常日頃から身につけていたもので、とある一件でコボルトを助けた際に渡したものだった。


「……懐かしいな、これ」


 ククルは思わずつぶやいてしまう。


「おや、ククル。これのことを知っているのかな?」


 長老に言われて、ククルはハッとしてしまう。

 いけない、こんなところで前世の記憶に引っ張られてしまっては。そう思って、ククルは首を左右に激しく振っていた。

 どころが、その様子を見ていた長老は、何かに勘付いたようだった。


「……ククルや」


「なんでしょうか、長老様」


「これを、お前に渡そう」


 長老は、ブローチを差し出して、ククルに渡そうとしてきた。

 基本的にはあんまり頭のよろしくないコボルト族ではあるものの、さすが長老と言われる存在だけあって、他の普通のコボルトとは何かが違っているようだ。

 ブローチを差し出されたククルは、なんともいえない表情を浮かべている。


「よ、よろしいのですか、長老様」


「うむ。お前の様子を見ている限り、その方がよいような気がしてな」


「分かりました。受け取ります」


 ククルは、おとなしくブローチを受け取ることにした。

 かつて自分のものだったゆえに、ちょっと不思議な感覚である。

 ところが、ブローチを受け取った瞬間だった。


「わっ!?」


「なんと?!」


 ブローチから光があふれ出す。

 そうかと思うとあっという間にククルの体を取り巻き、じわじわとククルの体へと吸い込まれていった。


「な、なんじゃ、今のは……」


 さすがの長老も、目を丸くしてしまっている。

 光を取り込んだククルだが、見た目には変化はないようだ。一体何が起きたのだろうか。


「むむむむ……」


 ブローチからあふれた光を取り込んだククルは、どういうわけか眉間にしわを寄せている。


「どうしたんじゃ、ククル」


「この力は……。長老様、何か傷ついたものはおりませんか?」


「き、傷ついたもの?」


 ククルからの質問に、まったく理解が追いつかなかった。

 傷ついたものと言われてもまったく思い浮かばない長老は、実に困っていた。


『主、こういう時こそ、我を利用して下され』


「ちょっと、聖剣。何を言っているのよ。まさか、あんたで長老様を斬れとか言わないわよね?」


 ぼそぼそと聖剣と話をするククルの声が、長老の耳に届く。


「おお、その手がありましたか」


 長老は何を思ったか、立ち上がると自分の左腕を差し出していた。


「さぁ、ククルや。その聖剣でワシの左腕を傷つけてくれ」


「長老様もおやめください!」


 勢いよく言うものだから、ククルは体中をピンと伸ばし、長老に対して怒鳴りつけている。まったく、いきなり何を言うんだという心の叫びが聞こえてくるようだ。


「わしらコボルトは、ケガをしても思ったよりも早く治ってしまうからのう。じゃが、聖剣の傷であればそう簡単に治るものではあるまい。ククルがいうケガ人としては、実に適当だと思うがな」


 なぜかにっこりと笑う長老である。その姿に、ククルはドン引きである。


「も、もう、どうなっても知りませんからね……」


 長老の勢いに負けたククルは、やむなく背中から聖剣を下ろし、鞘につけた留め具を外して、聖剣を抜いた。


「おお、これが魔王様ですら恐れるという聖剣ですか……。とてもきれいな剣ですな」


 聖剣をその目で実際に初めて見た長老は、聖剣のあまりの美しさに見とれてしまっている。

 かと思えば、すぐに聖剣を鞘に納め、少しだけ剣の刃が見えるようにするようにとククルに注文を付けていた。

 しょうがないと、ククルは長老の要求通りの状態に聖剣を調整する。


「ぐぬ……」


 そのわずかに見えている聖剣に、長老はその指を触れさせる。焼けるような痛みを感じ、表情を歪めてしまっている。


「長老様!」


「さ、さあ。これでケガ人が出ましたぞ。ククル、試したいという力を、このわしに試すのじゃ」


「ぐぬぬぬぬ……」


 聖剣に指を焼かれ、苦悶の表情を浮かべる長老は、ククルに強く迫っている。

 さすがに最初は躊躇したククルではあったが、ここまで覚悟を見せてくれた長老を無視するわけにもいかない。聖剣をしっかりとしまった状態にすると、ククルは長老の手にそっと触れる。


「”キュア”……」


 目を閉じて、祈るようにククルは言葉をつぶやく。

 それは、傷を癒す回復の魔法だった。


 その瞬間、ククルの手が光り、あふれた光が長老の負ったケガへと吸い込まれていく。

 なんということだろうか。光が吸い込まれていくたびに、長老の焼かれてできた傷が少しずつ良くなっていくではないか。


「おお……。これは、癒しの魔法。素晴らしいではないか、ククルよ……」


 信じられない光景を目にして、長老は素直に感動している。

 その光が完全に体に取り込まれた時、先程長老が負った傷は、完全に跡が分からないほどに消えてしまっていた。


「聖剣の力を借りずに、癒しの魔法が使えたわ。私、プリムの時の力を取り戻せたのかしら……」


 信じられない光景に、ククルは呆然とした表情で、長老の手を眺め続けていた。

 ところが、長老の傷は無事に癒せたものの、懐かしいと同時に、どこか複雑な心境になるククルなのであった。

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