第80話 メイドコボルト、魔王にもてあそばれる
食事を終えた魔王は、ククルに自分の仕事の手伝いをさせている。
さっきの食事の間の恥ずかしい経験があるとはいえど、仕事となればしっかりと気持ちを切り替えて取り掛かっている。
メイドとしての矜持もあるし、今の自分にはたくさんの家族がいる。家族の長女として、ククルは頑張らねばならないのだ。
前世は聖女とはいえど、いろいろと仕事はやらされたので、ある程度のことは大体こなせてしまう。頭の悪いと言われているコボルトだが、ククルの能力の高さはそのせいなのだ。
「ククル、この書類のチェックを頼む」
「はい、魔王様」
魔王から書類を渡されて、ククルは普通に返事をしてしまっている。
そのまま、黙々と仕事を続ける。
「んんーっ! さすがに体を動かさないのはつらいわ」
仕事に一段落がつくと、ククルは思いっきり背を伸ばしている。
ちなみに聖剣は、机に立てかけてある。なので椅子に座っていられたし、思いっきり背も伸ばせるのだ。
「ちょっと、魔王様。なに私をじっと見つめているんですか」
「いやなに。とても嬉しそうにしていると思ってな」
「えっ」
視線に気が付いたククルが魔王に問いかけると、実に満足そうな表情をしながら魔王は答えている。
その視線の先に気が付いたククルは、実にぎょっとした表情をしている。
そう、コボルトになったせいでまったく隠せていない感情がそこにはあったのだ。
「うわぁぁぁぁっ!」
思いっきり叫んでしまうククルである。
なぜなら、しっぽがパタパタと動いていたからだ。
なにせ、しっぽは背中の穴から外に出すようになっている。そうしないと、スカートを持ち上げてしまって大変なことになってしまうのだ。そういう服装ゆえに、感情がしっぽに出てしまうコボルトは、まったく感情が隠せなくなってしまっている。
そのことを散々魔王に指摘されて、ククルは顔を真っ赤にしてその場に頭を抱えてふさぎ込んでしまった。
「まったく、コボルトというのは不便な生き物だな」
「うう……、恥ずか死ぬ……」
ククルは完全に顔を伏せてしまっている。その様子を見ながら、魔王は実に楽しそうである。
『アブジール王子、さすがに主をからかいすぎではございませんかな?』
さすがの聖剣も、魔王に対して苦言を入れずにはいられなかった。これ以上、現在の主の辱めを見過ごすわけにはいかないのだ。
いくら以前の持ち主である魔王であっても、現在の持ち主に対するこれらの行為を看過はできないようだ。
「ふっ、悪いな聖剣。さすがに愛しの相手ともなると、愛でたくなってしまうではないか。だが、確かに少し戯れが過ぎたかもしれんな」
『まったく……。魔王になって少し恥じらいなるものをどこかに忘れてきたのではないですかな』
「やもしれんな。だが、ククルの姿でも十分可愛らしいというのに、それがプリムとなれば、さらに可愛がりたくもなるであろう?」
「ま、魔王様……。お戯れはおやめください……」
聖剣とのやり取りを聞いていたククルは、もはや限界を迎えてしまっているようである。恥ずかしさのあまり、机から顔を上げられなくなってしまっていた。どれだけ恥ずかしがっているのだろうか。
さすがにやりすぎたと思った魔王は、少しククルの気を紛らわせようと、ククルにある提案をすることにする。
「そうだ、ククルよ」
「なんでしょうか、魔王様」
声をかけられて、机に伏したまま顔だけを前に向ける。
「一度、故郷に戻ってみるつもりはないか?」
「えっ、よろしいんですか?」
コボルトの集落に戻る気はないかと聞かれ、ククルは体を起こしている。
ところが、すぐにククルは表情を曇らせてしまう。
原因はいわずもがな、聖剣である。
コボルト族の性質を考えれば、聖剣を背負った状態での帰郷は危険ではないかと考えたからだ。
「なに、きちんと鞘に納めて、抜けないように固めておけば問題ないだろう。柄に触れたくらいでは、そう問題はないはずだよな、聖剣よ」
『うむ。力を発揮するのは剣身の部分だ。我が力を調節すれば、柄部分を無害にすることは可能だ。心配をせずともよいですぞ、主よ』
魔王の質問に、聖剣は実に堂々と答えている。
「それにだ。近いうちに教会との決着はつけねばならぬだろうからな。その前に気持ちの整理をつけた方がいいと思うのだ」
「な、なるほど……。そういえば、あのクリアテスとかいう男、あのスルランの子孫ならさすがに許せないですからね」
領主邸でのことを思い出したのか、ククルは露骨に不機嫌そうな表情を浮かべている。というのも、クリアテスのあれこれが、自分たちを裏切り、自分を殺したスルランとダブっているからだ。
魔王との決戦からは逃げ、プリムを殺して、なおかつおいしいところだけを持っていったのだ。当事者の生まれ変わりであるククルが、嫌な気持ちにならないわけがないのである。
「そういうわけだ。もし帰るのであるならば、いくらでも都合はつけてやる。その時は、余に声をかけてくれ」
「承知致しました。では、お言葉に甘えさせて頂きます」
ククルは魔王からの申し出を快く受け入れていた。
その後は、ちょうどキリもよくなったことで、一緒にお昼を食べることになった。
朝は敬遠をしたというのに、どういう風の吹き回しなのだろうか。
とはいえ、周りの目をよそにとても幸せそうに食事を取る二人は、不思議なくらいにお似合いに見えたとか。さすがは元恋人同士である。




