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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第79話 メイドコボルト、甘々にされる

 翌日、ククルは目を覚ますと、鼻歌を歌いながら支度をし始める。

 距離を取ってしまうと背中に聖剣が飛んでくるので、ちゃんと持ち歩きながら支度をしている。


『やれやれ。なにやら楽しそうだな、主よ』


 様子を見ていた聖剣がククルに声をかけている。

 声をかけられたククルはくるりと振り返って、楽しそうな笑顔を見せている。


「そりゃそうよ。アブジール殿下にお仕えできるんですからね。嬉しいと思わない方がおかしいんじゃないの?」


 聖剣に向かってこんなことを言っている。

 だが、これまでのククルの様子を知っているだけに、聖剣はなんとも声にならないようである。


『だが、今までは我がいることで粛清されると警戒していたではないか。記憶を取り戻しただけで、こうも反応が違ってくるのか?』


 声がかけづらい状態だったが、聖剣は正直に思っていることをククルにぶつける。

 聖剣から質問をされて、ククルは着替えの手が一度止まってしまう。


「まったく、聖剣ってば……。それはそれ、これはこれよ。あの時の私は、純粋にただの魔族だったわけなんだから……」


 聖剣にジト目を向けながら、ククルは不機嫌そうに言い放っていた。

 はっきり言われた聖剣は、なおさら押し黙るしかなかった。何も言い返せなかったのだ。

 ククルはピシッとメイド服に着替える。最後に聖剣を背負い、これで準備万端だ。


「よしっ、今日も頑張るぞ。弟や妹たちにいいもの一杯食べさせるのよ」


 ククルはえいっと気合いを入れて、魔王の部屋へと出向いていった。


「おはようございます、魔王様」


 魔王の部屋へとやってきたククルは、いつものように挨拶をしている。


「うむ、おはよう、ククル。さすがに、今日は雰囲気がいつもと違うな」


「ふふっ」


 魔王が挨拶をすると、ククルはにっこりと微笑んでいる。

 ククルの笑顔を見た魔王も、つられたように微笑んでいる。

 しばらくすると、朝食が運ばれてくる。


「どうだ、ククル。朝も一緒に食べていくか?」


「私はメイドです。さすがにご一緒するというのは、思い上がりというものです。ですので、お気持ちだけいただいておきます」


 魔王に誘われたククルだが、きっぱりと断っていた。さすがにこれだけはっきりと断られれば、魔王はなんとも複雑そうな表情をしている。

 しかし、専属とはいえど一介のメイドであるククルが、魔王と一緒に食事をとるわけにはいかないというものだ。魔王は渋々一人で食事をすることにする。

 なのだが、魔王は諦めなかった。

 食事を運んできた魔族が部屋から出ていくと、ククルを近くに呼び寄せる。


「なんでしょうか、魔王様」


「うむ。余に食べさせてくれぬか?」


「は?」


 すぐ横まで移動したククルは、魔王からかけられた言葉に目が点になってしまう。

 自分に食事を食べさせろというのだ。この命令を聞いた時には、さすがのククルも戸惑うしかなかった。


「し、知りません。メイドだからといっても、そのような真似は無理でございます」


 腕を組んで、ぷいっと顔を背けてしまう。

 ところが、魔王はなぜか笑っている。


「そうか。だが、そのしっぽはなんなのだ?」


「しっぽ……?」


 魔王に指摘されて、ククルは自分のしっぽを見る。

 見た瞬間、ククルは慌ててしっぽを手で押さえる。持ち上がった状態で左右にそれなりに振り回されていたからだ。

 そう、ものすごく喜んでいたのである。


「うう、見ましたね……?」


 顔を真っ赤にしながら、ククルは魔王を睨みつけている。毛色の割には真っ赤になっているのがよく分かる。どれだけ恥ずかしかったのか透けて見えるのだ。

 怒っているような表情を見せているククルを見ながら、魔王はおかしくて笑ってしまっている。


「ふっ、さすがにコボルトとなっては、感情を隠すことは難しいようだな、プリム」


「もう、アブジール様ってば!」


 魔王が笑いながら話すものだから、ククルはぽこぽこと魔王を叩いている。前世が恋人同士だからこそできる行動かもしれない。

 恥ずかしがるククルに叩かれながらも、魔王は改めて声をかける。


「それで、余に食べさせてくれるのかな?」


「も、もう……。仕方ありませんね」


 さすがにさっきのしっぽブンブンを見られては、断るに断れないククルである。仕方なく、魔王に食事を食べさせることにしたようである。


「魔王様、あーん」


「うむ、あーん」


 スープをひとすくいして、ククルは魔王の口に近付けさせる。


「うむ。やはりプリムに食べさせてもらうと、味がまた違うな。おいしくなる」


「もう、恥ずかしいから言わないで下さい」


 空になったスプーンを持ったまま、ククルは顔をそっと背けている。恥ずかしすぎて、魔王の顔を直視できないようである。


「まあ、そういうな。ほら、次を頼むぞ」


「はい、分かり……うぐっ!」


 魔王に言われて再び顔を向けると、ククルの口に何かが飛び込んできた。


「ひゃ、ひゃおうひゃま?!」


 そういいながらも、ククルは口の中に入ったものをもごもごと食べている。どうやら、テーブルの上に乗っていたステーキのようである。よく見ると一部が切り取られていた。


「ふっ、まったくプリムは可愛いものだな」


「も、もう……」


 お互いの正体がはっきりと分かったこともあり、二人の間の空気はすっかり甘々のようである。

 その様子を間近で見せられている聖剣は、甘ったるい空間に耐えきれなさそうな感じになっている。だが、ククルの背中から大きく離れられない聖剣は、必死に耐えきろうとしているのだった。


『は、早く、この空間から抜け出させてくれ……!』


 自分の聖剣としての性質を、この時ほど強く後悔したことのない聖剣なのである。

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