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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第78話 メイドコボルトの心は複雑

「はっ!」


 ククルは意識を取り戻す。


「こ、ここは……」


 頭を押さえながらつぶやいており、まだ意識ははっきりとはしてないようである。


『おお、戻ったか主』


「……聖剣?」


 ぼやっとしたククルの耳に、聞き慣れた声が響いてきた。

 膝の上から聞こえてきたその声は、間違いなく聖剣の声だったのだ。


「私……今まで何を?」


「うむ、まだ意識が混乱しているようだな」


 目をこすりながら辺りを見回すククルの耳に、さらに別の声が聞こえていた。

 さらに、コツコツという石畳を歩く音が聞こえてくる。まだ意識が混濁しているククルは、思い切り身構えてしまう。

 目の前まで来ると、ぴたりと足音が止まる。


「まったく、そのように構えられると傷つくというものだぞ、ククル。いや、我が伴侶、プリムよ」


「ま、魔王様……?」


 変な言葉をかけられたので、ククルはハッとして顔を上げる。

 顔を上げた先にあったのは、今自分が仕えている相手、今代の魔王の顔だった。


「待っていたぞ、プリム。お前と再び会える日というものをな」


「あの、えと……」


 声をかけられて混乱している真っ最中のクルルだが、聖剣を再び背負うと、メイド服の裾をつまみながら軽く頭を下げている。


「あの、私もお会いしとうございました、アブジール殿下」


 混乱する記憶をどうにかまとめ、ククルは魔王に対して挨拶をしている。

 ただ、その呼び方が魔王様ではなくアブジール殿下である。つまり、ククルはククルでありながら、プリムとして挨拶をしているということなのである。

 ククルの挨拶を聞いた魔王は、ククルのことをプリムと認識しながらも、少し驚いていたようである。


『いや、実にめでたいな』


 聖剣が雰囲気を読まずに発言し始める。


『我もアブジールとプリムのことはずっと案じておったからな。このような形とはいえ、ようやく叶うのかと思うと嬉しくてかなわんというものだ』


「言ってくれるな、聖剣よ」


「まったくだわ、聖剣」


 嬉しそうに話している聖剣に対して、魔王もククルも、冷静にツッコミを入れていた。

 改めて、ククルと魔王は向かい合う。


「これが、あの時の魔王がかけた魔法の結果なのですね、アブジール殿下」


「ああ。しかし、まさか余が魔族の頂点である魔王となり、プリムが最弱魔族であるコボルトになるとはな。まったく、ここはどうにかしてもらいたかったものだ」


「そうですね」


 魔王とククルは、おかしく笑っている。


『だが、お互いの呼び名はどうするというのだ?』


 そこへ、再び空気を読まない聖剣が声をかけてくる。


「どう呼ぶかなど決まっておろう」


「そうよ。普段の私たちは魔王と専属のメイドなんだからね。私はククルで、魔王様は魔王様よ。それ以外の呼び方があると思っているの?」


 聖剣の疑問に対して、そろって即答していた。

 そう、今の二人の関係は、あくまでも魔王とその配下の魔族である。ならば、それに準ずるのが当然だと言い返しているのである。

 あまりにも潔い二人の答えに、聖剣はなんともいえないようだった。


「しかし、コボルトでありながら頭のいい理由はよく分かったな。転生の際に記憶が封じられただけで、能力などは持ち越していたのだな」


「いえ、私自身は魔法が一切使えませんから、最初から発揮できていたのは、頭の良さだけですよ。でも、そのおかげでここまで生きてこれましたけれどね」


「まあ、そうだな。魔族が神聖魔法を使いまくっていたら、それはそれで目立って殺されかねんかったからな」


「ですよ」


 言い合ったククルと魔王は、急に笑い始めていた。

 普段からもちょくちょく言い合うことのあった二人ではあるものの、前世の記憶を取り戻したことで、さらに気兼ねなく言い合えるようになったからだ。


「さて、そろそろ部屋に戻ろうではないか」


「そうですね。あんまり部屋から姿を消していますと、側近たちが騒がしくしていそうですものね」


 魔王が手を差し出すと、ククルはおかしそうに笑いながら話をしている。こういうところは、ククルではなく前世のプリムといった感じの反応だ。

 そして、魔王の手を取ると、二人は部屋に向かって歩き出していた。


 かつては聖剣を握りしめ、魔王討伐の旅に出た一国の王子。

 かたや、聖女としての力を目覚めさせ、聖剣を持った王子とともに戦った一人の少女。

 その二人が、長い時を経て、因縁の地である魔王城の中で再会を果たす。

 二人によって討たれた魔王が結び付けた縁ではあるものの、なんとも数奇すぎる運命というものである。


「さて、ここらあたりからは他の魔族も姿を見せる。さすがに手は離しおこう」


「そうで、ございますね……」


 魔王の言葉に、ククルはとても残念そうにしている。プリムとしての意識が戻ってきたせいか、以前からはちょっと考えられない態度というものだ。

 だが、自分は下っ端魔族のコボルトである。魔王と手をつないでいたとなれば、他の魔族たちからどう思われたものかよく分からないものだ。最悪、自分だけではなく、家族にまで危害が及びかねない。

 転生してから得たたくさんの愛すべき家族なのだ。ククルは、ぐっと我慢して魔王の数歩後ろへと下がっていった。

 耳としっぽが分かりやすいくらいに垂れ下がっているククルの姿を見て、魔王も正直なところ、とても心が痛い。

 だが、今の自分は魔王なのである。自分を押し殺して、魔王らしく振舞う。それが今の自分の役目なのである。


 前世は将来を誓い合った仲ではあるが、今世は上司と部下だ。

 その複雑な関係は、まだまだ二人の関係に大きな影を落としそうである。

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