第77話 メイドコボルトは思い出す
ククルが次に目を覚ますと、どこともわからない場所にいた。
周りに森があるので、自分の生まれ故郷のコボルトの集落かと思ったのだが、どうも様子がおかしい。
その違和感は、しばらくすると解消される。
「プリム、さっさと水を汲んでおいで」
「はい、お母さん」
大人の女性と小さな子どもの声が聞こえてきたからだ。次の瞬間に姿を見せた少女。ククルはその姿にどこか見覚えがあった。
(あの子、あそこで死んでいた聖女の顔にそっくり……)
そう、過去の魔王城の玉座の間で見た、聖女プリム。まさにそんな感じの顔だった。
だが、その容姿からするに、プリムの幼い頃の姿なのだろう。
そのせいで、ククルはなんとも変な感じがしてしまっている。
同時に、ククルは不思議な感覚に襲われていた。なぜかこの光景を知っているような、もやもやとした気持ちである。
とにかくよく分からないものの、ククルは目の前で繰り広げられる光景をじっと見守り続けている。
突然、ざぁっと風が吹いたかと思うと、場面が切り替わる。
次に見えた光景は、プリムが犬を拾ってきて世話をしている光景だった。
「まったく、家が苦しいっていうのに、何を連れてきてんだい?」
「このガキが! さっさと捨ててこい!」
ところが、犬は家族には不評で、プリムは泣く泣く捨てざるを得なかった。
しかし、その後も犬をこっそりと世話しており、それがバレた時には、プリムはとうとう捨てられることになってしまった。
無駄な食い扶持を増やされたことで、両親の我慢が限界に達したのである。
その結果、プリムは教会へと預けられ、そこで暮らすことになってしまった。
教会にやって来てしばらくのこと、教会で暮らす上で神の祝福を受けることになっているということで、プリムはその祝福を受けることになった。
そこで判明したのが、聖女という称号だった。同時に、プリムは癒しや守りの力を開花させていた。
あれよあれよという間に、教会の中でのプリムの扱いは変化していった。
ただ、聖女となれば、そのための教養を身につける必要があるので、周りにはたくさんの大人が付き、プリムは勉強漬けの毎日を送っていた。
そのプリムの癒しとなっていたのが、いつの間にか教会で飼われるようになっていた犬だった。
元々はどこからやってきたかもわからない野良犬だったのだが、プリムの聖女の力を受けて、そのままプリムの飼い犬として住み着いてしまったのだ。
(うわぁ……。聖剣のいっていた通り、プリムさんってば、犬が大好きだったんだ……)
そう思った次の瞬間だった。
(痛っ!)
ククルの頭に激痛が走る。まるで、頭の中から何かが出てきそうな、そんな強い痛みだった。
しかし、その痛みはすぐに引いてしまう。
何だったのだろうかと思うククルではあったが、目の前では聖女プリムの過去が展開され続けている。
痛みのことは気にかかるものの、目の前の光景も気になる。ククルは目の前の聖女プリムの過去に再び釘づけとなっていた。
そんな中、ククルはついにあの日を目撃することになる。
その日は、教会の中がとても慌ただしくなっていた。いつもはとても落ち着き払っている司祭たちですら大慌てだった。
プリムも普段の聖女服ではなく、特別な聖女服に身を包み、その時を静かに待っている。一体何が始まるというのだろうか。
しばらくすると、プリムは教会に伝わる杖を持って、どこかへと歩いていく。
一歩、また一歩と、その場所へと近付いていく。
立ち止まり、扉の向こう側へと声がかけられる。
「アブジール殿下、聖女プリムをお連れしました」
「そうか、入ってくれ」
返事があり、扉が開かれる。
暗い廊下から、窓のある部屋へと移動したためか、部屋の中がやたらとまぶしくてよく見えない。
しばらくは、ククルでさえまともに目を開けていられなかった。
段々と光に目が慣れて、部屋の中の様子がよく分かってくる。
そこには、キラキラとした容姿の若い男性が一人立っていた。
「初めまして、聖女プリム。私はアブジール・ディエ・アンカサード。アンカサード王国の第一王子だ」
「は、初めまして、王太子殿下。わた、私はプリムと申します。よろしくお願い致します」
アブジール王子。この方が、あの時プリムと一緒に魔王と戦った王子……。
ククルがその様に思っている目の前で、アブジールとプリムが手を握ろうとしている。
その時だった。
(はっ! お、思い出した。わ、私は……)
アブジール王子の背中にあった聖剣が目に入った瞬間、ククルの頭の中に、突如として大量の記憶が流れ込んできた。
(私は聖女プリム。魔王を打ち倒すという旅の中で、アブジール殿下と将来を誓い合ったんだわ!)
ククルは、ついにその記憶を取り戻した。
そう、聖剣を持つ王子とともに旅をし、魔王を討伐するという目的を達成した後は結婚をしようと、将来の約束までしあった、神の祝福を受けた聖女だったということを。
あまりにも突然だったので、ククルは頭を抱えながらどうしたらいいのか分からなくなっている。
そんな中、回想の中のアブジール王子とプリムは、ククルに対して優しく微笑みかけている。
「ちょっと、まっ……!」
ククルが叫ぼうとした瞬間、ざあっと光の波がククルを包み込んだのだった。




