第76話 メイドコボルト、再び過去を見る
玉座に座るとあふれ出した光に包まれ、意識を失ったククル。
しばらくして、意識を取り戻すと、以前見ていた夢の中へとやって来ていた。
ただ、今回は玉座から見下ろすような形で、魔王と勇者たちの決戦を見下ろしている。
ククルの耳にはアブジールとプリムという名前が聞こえてくるので、以前見た夢と同じ場面だということが認識できた。
やがて、死闘の末に魔王とアブジール王子が相打ちとなり、一足先にアブジールは息絶えてしまう。
魔王が魔法を使って息絶えると、残っていたプリムへとスルランという裏切り者が近付いてきて、プリムを刺し殺してしまった。
前回の夢では、そこまでしかなかった。なにせ、プリムの意識に乗っていたのだから。
だが、今回は違う。さらに続きがあった。
プリムを刺し殺したスルランは、アブジールの死体から聖剣を回収し、ほくそ笑むようにしながら玉座の間から立ち去っていったのだ。
「なんてことなの。アブジール王子と聖女プリムが苦戦の末に魔王を倒したのに、ひょっこりやって来てその手柄を全部奪っていったというの?」
玉座からその光景を見下ろしていたククルは、体を震わせながら文句を言っている。
「その通りだ」
「だ、誰?!」
突然聞こえてきた声に、ククルは驚きを隠せない。
辺りを必死に見回すものの、その姿を確認することはできない。一体、誰がこの場にいるというのだろうか。
「ふっ、分からなくて当然か。俺は、この時あの二人によって倒された魔王の残留思念だ。とある理由があって、このように玉座に留まり続けているのだよ」
「ざ、残留思念?」
「左様。あの時、俺が転生させた二人を見守るためにな」
「て、転生……?」
どこからともなく聞こえてくる声に、ククルの表情が歪む。まったくもって理解ができない話だからだ。
「ふっ、ここは二度目だというのに理解できぬか。なかなか聡明な女性だと思っていたが、そこはコボルトに引っ張られてしまったかな」
「どういうことよ!」
あまりのいいっぷりに、ククルは怒りを隠せなかった。
玉座から立ち上がると、聖剣を構えようとする。
「あ、あれ? せ、聖剣は?」
ところが、聖剣はどこにもなかった。
おかしい。
聖剣一本分以上離れることがあれば、強制的に装備されるはずなのに、聖剣がどこにもないのだ。
「落ち着け。ここはお前が本来いる場所とは位相のずれた場所だ。ゆえに、現実世界にいる聖剣はここにはやってこれぬ」
「ずれた場所?」
「うむ。お前は今、現実にいながらにして過去の空間へとやって来ている。それゆえに、現実世界に残る聖剣が干渉できぬというわけだ」
「な、なるほど……」
分かったような、分からないような……。ククルは混乱しながらも、とりあえず頷いている。
「お前がここにやってこれたということは、あそこの二人のいずれかと俺の魔力の両方を持った存在ということになる。つまり、お前はあの二人のいずれかの生まれ変わりというわけだ」
「な、なんですって?」
魔王を名乗る謎の声の言葉に、ククルは表情を険しくしている。立ち上がった際に垂れた尻尾は、左右へとゆっくりと動いている。明らかな警戒のサインだ。
だが、そんなククルの状態に構うことなく、謎の声は再び話し始める。
「さあ、玉座から降り、あの二人に触れるといい。転生者であるならば、触れた時に何らかの反応があるはずだからな」
謎の声の告げた内容を聞いて、ククルは思わず息をのんでしまう。
玉座へと向けられていた視線は、壇の下で転がっている王子と聖女の死体へと向けられる。
まさか……。
それがククルの正直な気持ちである。
しかし、ここまでの話を聞いていて、そんなわけがあるかという気持ちはすっかりと揺らいでしまっていた。
もしかしたら。
それが今のククルの抱いている気持ちそのものである。
覚悟を決めて、ククルは玉座を離れ、一歩、また一歩と横たわる王子と聖女の遺体へと近付いていく。
二人に近付く前に、魔王の遺体が転がっていたのだが、そこではまったく何も反応を示すことはなかった。つまり、ククルは魔王の生まれ変わりではないということだ。
ほっとしたような、残念のような、そんな複雑な思いを抱きながら、ククルはいよいよ二人のところまでやってきた。
その時だった。
(えっ、この光は?)
よく見てみると、何かに反応するかのように、ククルの体の一部から光が漏れ出ていたのだ。
光る部分の近くにあるのは、聖女プリムの遺体。その姿を確認したククルは、まさかと思いながらさらに近付いていく。
だが、プリムに近付くにつれて光が強くなっていく。
「間違いないな。お前は聖女プリムの生まれ変わりだ」
魔王の残留思念が声をかけてくる。
「さあ、そのまま聖女プリムに手を触れるのだ。そうすれば、お前はすべての記憶と力を取り戻す。これまでのコボルトとしての記憶も残るから、安心するといい」
残留思念の声に押されるようにして、ククルはプリムの体へと手を近付ける。
はっきり言って怖い。
だが、ある程度まで近付いたククルの手は、プリムへと吸い付けられるかのようにどんどんと伸びていってしまう。
プリムの体にククルの指が触れると、触れた場所から光があふれ出す。
「ま、まぶしい!」
これで何度目だろうか。
またしてもククルはまばゆいばかりの光に包まれてしまう。
あまりにも激しい光に、ククルの意識は再びのみ込まれてしまったのだった。




