第73話 メイドコボルトは混乱している
「はっ!」
ククルは目を覚ます。
青ざめた表情をして、自分の胸のあたりを確認している。
「……なんともない」
呼吸を荒くしながらも、自分の無事を確認してほっとしているようだった。
「起きたか、ククル」
「魔王様……」
声がして顔を動かすと、そこには魔王の姿があった。
自分の状態を少しずつ理解して、ククルは体をゆっくりと起こしている。
「うう、聖剣、邪魔」
うまく起き上がれずに、背中に背負われていた聖剣に、外しながら文句を言ってる。
こうなるのも無理はない。なにせ聖剣の丈をククルの身長はほぼ同じだ。多少上にずらしたところで、聖剣が邪魔になってうまく起き上がれないのである。
なんともいえない気持ちになって、ククルは大きなため息をついていた。
「ずいぶんと、うなされていたようだな」
体を起こしたククルに声をかけている。
「はい。この部屋で過去に起きたことを夢に見ました」
「ほう、詳しく聞いてもよいかな?」
「夢の中では、私は聖女プリムの意識に重なっていたみたいです。その中で起きたことが、まるで自分のことのようで……。最後なんて、胸を剣で一突きされ……うっ」
最後の状況を思い出して、ククルは思わず口に手を当ててしまう。
その時の衝撃が強すぎて、話すだけでその時の感覚が思い出されてしまっているようなのだ。ゆえに、何かが口から飛び出しそうになってしまうのである。
「そうか……」
ククルの話を聞いていた魔王は、なんともいえない表情をしてククルのことをじっと見つめていた。
「思い出してくれたと思ったのだが、やはりそう簡単にはいかぬか……」
「魔王様?」
ぽつりと呟いた魔王の言葉が耳に入り、つい顔を向けて声をかけてしまう。
だが、魔王はなんとも言わず、ククルに立つようにと手を差し伸べるだけにとどまっていた。
ククルがその手を取ると、魔王は元いた執務室へとククルを連れて戻っていった。
先程のことから、今日も暇を出されてしまったククルは、自分の部屋の中でベッドの上に転がっていた。
夢の中とはいえ、自分の胸を剣で貫かれるという衝撃体験をしてしまったので、今日は仕事にならないと思われたのだろう。急なお休みを言い渡されたために、ククルはどうしたものかと考えながら転がっている。
『主、先程はどのような夢を見ていたのですかな』
暇そうに寝転がっているククルに対し、聖剣が声をかけてくる。
「聖剣を持ったアブジールっていう人と、同行していた聖女のプリムっていう人が、恐ろしい見た目の魔王っていう人物と戦っている状況だったわ」
『ほう……。それはとても懐かしい話ですな。我としては、ちょっとした汚点ではありますがな。……スルランとやらめ』
ククルから内容を聞かされて、聖剣は最後にはなかなか見せない反応を見せていた。聖剣からしてみても、あの時ばかりは悔しかったのだろうということのようだ。
だが、聖剣はククルの話し方の方がまだ気になっていたようだ。
それというのも、聖女プリムの視点で夢を見ていたというのに、その話し方がまるで他人事のようだったからだ。どうやらククルとプリムはまだつながっていないらしい。
最愛の人物が目の前で魔王と相打ちになり、さらには自分は裏切り者によって殺されたのだ。記憶を封印したくなるというのも、分からなくはないからだ。
なんともいえない複雑な心境を思えば、聖剣も思い出すようにと強くは言えないのである。
「……あの夢が事実であるなら、魔王様と聖剣が嫌悪感を示すのはとても理解ができるわよ。私が当事者なら、間違いなく恨んでいるわ」
ククルは天井を見上げたまま、聖剣に向けて話しかけている。
かと思えば、ため息をひとつつくと、ごろんと寝返りを打って横を向いてしまった。
「ごめんなさい。記憶が混乱しているみたい。今日はもう、眠らせてもらうから」
横になったまま、ククルは聖剣に話しかけている。さすがにあんな夢を見てしまったがために、気持ちが落ち着かないのだ。
『うむ、分かった。最近の主はいろいろとあったからな。ゆっくり休める時に休んでおくとよいぞ』
「うん、おやすみ、聖剣」
ククルはそのまま、すーすーと寝息を立てて眠ってしまっていた。さっきまで起きていたし、一時的に気絶までして夢も見たというのに、なんとも早い寝入りである。
『やれやれ。シーツもかぶらずに眠ってしまうとはな……。我のこの体では、シーツをかけてやることもままならぬ。ならば、少しでも安らげるようにしてやるのがせめてか』
魔王城の中という特殊な状況ゆえに、聖剣はずいぶんと慎重になりながら、ククルのために安らぎの魔法を使っていた。
ククルがプリムの生まれ変わりであるのならば、せめてこれからくらいは安心させてやりたいと思ったからだ。
自分の主として選んでしまったことや、二人に分裂させて面倒な状況にしてしまったことなど、様々な反省点があるのでなおさらというところである。
サイドテーブルに置かれた聖剣は、ベッドで眠るククルの平穏を、ただただ願うのであった。




