第72話 メイドコボルト、夢を見る
意識を失ったククルは、夢を見ている。
それは、意識を失ったその場所の中で、凶悪そうな人物と対峙している場面だった。
「魔王、お前の支配は今日終わる!」
「ほざけっ! 矮小なる人間ごときが、この魔王に敵うと思っておるのか!」
目の前にいるのは人間と魔王と名乗る魔族だった。その人間が手に持っているのは、間違いなくククルが持っているものと同じ聖剣だった。
ここは一体いつの魔王城の中なのだろうか。ククルは頭の理解が追いつかないでいた。
「プリム、俺を援護してくれ」
「はい、もちろんです。アブジール殿下、ご武運を!」
自分の方を見て声をかけてくる人間。自分であるはずなのに、勝手に喋り出す自分。一体何なのだろうか。
ククルの意識は、ずいぶんと混乱しているようである。
自分の体だと思うものは、勝手に動き出し、その手が光り始める。
「身体強化!」
魔法を使うと、目の前のアブジールと呼ばれた人物の体が光っている。
体が光り出した人物は、魔王とか名乗る魔族に対して聖剣を持って走っていく。
魔王は近付けさせまいとして、アブジールという人物に対して、様々な攻撃を放っている。
だが、アブジールと呼ばれた人物は、その攻撃を動きや聖剣で華麗にさばいていく。
ガキンッ!
アブジールという人物は魔王のところまでたどり着き、聖剣で斬りかかる。
だが、魔王もそう簡単にやられるわけはなく、聖剣をしっかりと受け止めていた。
「ふっ、人間ごときがこうたやすく俺のところにたどり着けるとはな。褒めてやろう」
実に魔王は余裕そうな表情である。
「そいつは嬉しいものだが、その余裕、いつまでもつかな?」
「ほざけっ!」
聖剣を押し込もうとするアブジールだが、魔王はいらついたのか、思い切り腕を振って聖剣を払いのけている。
その勢いは強く、アブジールは強く吹き飛ばされてしまう。
「アブジール殿下! 防護魔法!」
ククルと意識が同調している人物は魔法を使い、アブジールを衝撃から守っている。
「ありがとう、プリム。もう一度行くから、しっかりと援護を頼むぞ」
「はい、アブジール殿下!」
傷だらけになりながらもプリムへと笑顔を向けるアブジール。心の中ではもう傷つかないでと思いながらも、プリムはアブジールを送り出すしかなかった。
ここで魔王を討たなければ、人間たちは再び魔王の恐怖に苦しめられることになるのだから。
アブジールとプリムは、全力で魔王へと立ち向かっていく。攻撃のほとんどはアブジールが担っているものの、プリムも後方からしっかりとアブジールを援護している。
時折魔王の攻撃が飛んではくるものの、プリムもしっかりと対処していた。
死力を尽くした戦いも、やがて終わりの時が来る。
「かはっ!」
アブジールの持った聖剣が、魔王を貫いたのだ。
だが、それは単純に喜べないことだった。
「アブジール殿下……!?」
プリムはその口を両手で塞いでしまっていた。
それというのも、聖剣で魔王を貫いたのはいいものの、アブジールもまた、魔法の手刀で胸を貫かれていた。そう、相打ちなのである。
「ク、ククク……。俺と刺し違えるとは、やるな、人間……」
「ぐっ、かはっ……。こ、これで限界か……」
「殿下、しゃべらないで下さい。今すぐ、癒しますから!」
どちらも息も絶え絶えになっている中、唯一無事であったプリムは、アブジールの傷を治そうとしている。
ところが、アブジールはにこりと微笑んで、治療を拒んでいた。
「もう、助からない……。すまないな……。戻って、魔王を、倒したこと、を、伝え、て、くれ……」
「いやぁ、殿下! どうしてですか。無事に戻って、私と一緒になる約束ではなかったですか! 殿下、殿下っ!」
プリムが駆け寄るも、アブジールの息は既に絶えてしまっていた。
「く、くくっ。人間とは、面白い、ものだ、な……」
ところが、魔王はまだ生きていた。
その現実を見た時、プリムは魔王を睨みつける。
「心配する、な。俺もじき、この男の後を、追いかける……。おお、そうだ」
魔王は最後に、何かを思いついたようである。
「この男と結ばれたかったようなことを言っていたな……。その願い、この俺が叶えて、やろう……。生まれ変わり、また巡り合い、結ばれるよう、にな……」
「なぜ、そのようなことをいうのですか、魔王のくせに」
「ふっ、俺を倒し、た、褒美という、やつ……だ、な……。さぁ、受け取れ……」
魔王は最後の力を振り絞り、アブジールとプリムに魔法をかけていた。
「ごふっ!」
だが、魔法をかけ終わると同時に、魔法は血を吐き、アブジール同様に息絶えてしまっていた。
一人残されたプリムだったが、その後、部屋の中が騒がしくなることにも気づかず、その場で完全に放心してしまっていた。
「ふん、魔王を倒していたか。死んでしまってくれたのなら好都合だ。お前もここで死ね、プリム」
強い衝撃が胸を貫き、プリムの意識もそのままぷつりときれてしまう。
あまりの衝撃的な最後に、ククルの意識もそこで途切れてしまうのだった。




