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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第68話 メイドコボルト、帰還する

 決意を固めたククールは、聖剣を背負い、外套を羽織って聖剣を隠した姿で領主邸の前に立っている。


「本当に行くのか、ククール」


「危険だぞ。命の保証はないんだろう?」


 トールソンとジャックから、心配する声が聞こえてくる。だが、ククールの決意は固かった。


「大丈夫ですよ。それに、聖剣の力で私は本来の自分と分裂した形になっています。私が死んでも、ククルだけの状態に戻るだけですからね」


「いや、しかしだな……」


 自分が死んでも本来の自分だけに戻る。そう言い切るククールの姿に、トールソンもジャックもなんとも言えない気持ちになっていた。

 とはいえ、ククールの表情には一片の迷いもない。その表情を見せられてしまえば、さすがにこれ以上の引き留めは無理だろうと悟るしかなかった。

 ヒーラとラーラもやって来て、同じようにククールの見送りに加わる。


「本当に行ってしまうのですか、ククール様」


「ええ。私は決意を固めたわ。大丈夫、無事に戻ってくるから」


「お姉さん、気をつけてね」


「ええ、ラーラも元気でね」


 最後にラーラの頭をそっと撫でたククールは、いよいよ街を去って魔王城へと戻っていく。

 一応トールソンとジャックの二人以外には、旅に出るという形にしてもらっている。本当は嘘は嫌ではあるものの、こればかりは仕方がないと、トールソンが考えてくれた理由である。

 ククールは四人に見送られながら街の入口までやって来ると、門番と話をして、いよいよ街の外へと踏み出した。


「それでは、お元気で。またいつか会いましょう」


 元気よく手を振りながら、ククールはゆっくりと歩き出す。

 短い間ではあったものの、ずいぶんと世話になった街だ。別れがつらくないわけはない。

 しかし、自分は魔族であり、聖剣の持ち主である。それに、魔王に対して確かめたいこともある。いろいろな思いから、ついに魔王城へと戻る決意を固めたのだった。


 魔王城までの道のりは、しっかりと頭の中に入っている。

 ククールは迷うことなく、着実に魔王城へと近付いていく。


「そういえば、この魔王城と街との間の道には、魔物が出現しないって話だけど……。もしかして、魔王様がその以前の勇者だったからということも関係しているのかしらね」


『さあ、どうだろうな。そればかりは我には分からぬ。魔王にじかに聞いてみぬことには、たぶん誰にも分からんことだ』


「はあ、やっぱりかぁ……」


 確認をしてみたククールではあったが、聖剣からは答えを得ることはできなかった。やはり、この辺りも魔王に聞くしかないようだ。

 完全に目的地が魔王に絞られてしまったので、ククールの歩みは段々と速くなっていく。通常であれば八日もかかる魔王城との間の道のりも、なんと一日短縮して到着することができてしまった。

 だが、いざ魔王城を目の前にすると、ククールは思いっきりしり込みしてしまっていた。耳もしっぽも垂れ下がり、足は完全に内またである。街を出発した時の凛々しさはどこに行ったのだろうか。


『主、ここまで来てそれは困りますぞ』


「で、でも……。やっぱりこの姿じゃ、魔王城に入るのは難しいって……。ああ、門番がじろじろと警戒しているわ」


 今日の魔王城の入口には、ミノタウロスとサイクロプスが立っている。いかんせん筋肉隆々の巨体ゆえに、最弱魔族のコボルトであるククールは完全にビビり散らしてしまっていた。

 とはいえ、ここまで来てこれでは困ったというものだ。聖剣もさすがに頭の痛い話だ。


「まったく、さっさと城に入らんか」


「ひゃうっ!」


 背中から声が聞こえてきて、ククールは勢いよく飛び跳ねてしまう。

 おそるおそる振り返ると、そこにいたのはなんと魔王だった。


「ままま、魔王様?! ど、どうしてこちらに」


「婚約者が来たというのに、迎えにいかぬ男がどこにいる。怖くて入れぬというのなら、我がエスコートしてやろう」


 歯をがたがたとさせているククールに対して、魔王は実に余裕たっぷりの態度である。弱点であるはずの聖剣を持ったククールに、まったく怯む様子もない。これが魔王というものである。


「やれやれ、見てられぬな」


「ひょわっ?!」


 全身を震わせて動く気配のないククールを見かねた魔王は、なんということだろうか、聖剣を背負ったままのククールを抱きかかえてしまった。

 あまりにも予想外の行動に、ククールの目は白黒してしまっている。


「さあ、余の部屋でもう一人のそなたが待っておる。さっさと戻るぞ」


「ひゃ、ひゃい……」


 魔王に抱っこされるという予想もしていなかった格好のまま、ククールは魔王城へと向かっていく。

 門番には一度止められはしたものの、魔王が客人だといって睨みつければ、門番はそそくさと退いて道を開けていた。これが魔王の特権というものだ。

 ククールとして分裂してから、初めて入ることになった魔王城の中。メイドのククルとしては見慣れた光景のはずが、獣人という姿と魔王に抱っこされた状態が合わさって、なんとも新鮮に見えていた。

 なんとも恥ずかしい姿のまま、ククールはついに魔王の部屋までやってきた。


「戻ったぞ」


「お帰りなさいませ、魔王様」


 魔王が声をかけると、部屋の中から自分の声が聞こえてくる。

 なんともいえない不思議な状態に改めて驚くククール。

 そんな中、ゆっくりと扉が開いていく。

 そこに立っていたのは、なんとも久しぶりな、ククールの本来の姿であるメイドコボルトだった。

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