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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第63話 メイドコボルトは魔法に興味あり

 教会の人間からすっかり目をつけられたことに気が付くことなく、ククールは今日も部屋の中で筋肉トレーニングをしたり読書をしたりして過ごしている。

 閉じ込められていることも最初こそ嫌がっていたのだが、さすがに数日も続けていれば慣れてしまう。いい感じに気を紛らわせていられたのも大きいだろう。

 特に読書は、新しい知識をいろいろと頭に入れられたこともあって、ククールにとってはいい刺激となっているようだった。とはいえ、体を動かすのが好きなコボルトなので、やはり限度はあったのだが。


「ふーん、人間たちの方だと、魔族ってこんな伝わり方をしてるのか」


『まあ、そうではあるな。基本的に人類の歴史は魔族との戦いといったところでもあるからな。魔族の脅威がなかった頃に、人同士のいさかいが起きたことはあるが、だいたいは魔族のせいですぐに停戦になっておる』


「そうなのね。でも、今の魔王様を見ていると、そんなに積極的に人間たちに攻め入っているようには思えないんだけどなぁ」


 聖剣と話をしながら、ククールは自分の正直な感想を漏らしている。

 とはいえ、ククールが魔王城にメイドとして就職してからの期間はかなり短い。なので、ククールの認識は間違っている可能性は高いだろう。実際、ククールが魔王城にやってくるよりも前に、今の魔王は部下を使って聖剣を奪取しているのだから。

 しかし、この聖剣を奪った理由も、なかなかに不可解である。自分にとって弱点であるはずの聖剣を魔王城の中に置くのだから。奪われた直後の聖剣はかなり考え込んだものだ。

 今は自分の主としてククールが存在しているので、導かれたということだろうと勝手に解釈しているようだった。

 その一方、ククールの言い分を証明するような状況もある。

 ククールが今現在過ごしているこの街の存在だ。ここは魔王城からものすごく近い。なんといってもククルの足で八日間しかかからない場所だ。目と鼻の先といっていい。

 そのような場所にある街だというのに、魔王軍による被害が一切ない。なんとも不思議なことである。


『我が魔王城に安置されるようになってからは、確かにそういう話を聞くことはなかったな。城のメイドどもはかなりおしゃべりだからな。宝物庫の掃除は、いつもメイドどもの話が絶えなかったぞ』


「ああ、それはそうね……。あそこに入れるのは、仕事が真面目な使用人だけだからね。多少おしゃべりしていても外には漏れないし、基本的にみんな口が堅いから、ね」


 聖剣が宝物庫でのことを振り返りながら、メイドたちの悪口を言っている。ところが、実にその通りなのでククールはまったく擁護ができなかった。もう苦笑いをするだけである。


「ああ、そうだ」


『どうした、主』


 話をしていたククールは、思い出したかのように何か一冊の本を取り出していた。

 本のタイトルを見てみれば、『誰でもできる初級魔法』と書いてあった。


「この本の通りにやれば、私でも魔法が使えるのかしら。聖剣の力がなくてもさ」


『なんだ、この本は……。見るからに怪しい本ですぞ』


 本の表紙を見せていると、聖剣からは思いっきり文句しか出てこなかった。よっぽど怪しい本らしい。なぜこんな本が領主邸にあるのかが謎である。


「ヒーラに選んでもらった本だけど、本当に怪しい本なの?」


『表題がそもそも怪しすぎるというものですぞ。魔法を使うには二種類必要なのでな』


「何が必要なの?」


『魔力と才能ですな』


 ククールの質問に、聖剣ははっきりと答える。

 この答えを聞いて、ククールはあーっと思っていた。

 そう、ククールがコボルト族ということだ。

 フォレストシープの毛糸を作る際も、ククールは聖剣の力を借りて魔法を使っている。ところが、ククール自身には魔力が皆無である。

 しかし、才能はあるのだ。

 宝物庫の掃除も、使っている道具にこもった魔力でなんとか仕事をこなしているし、今だって、聖剣の力をうまく引き出している。つまり、魔力を扱う才能はあるというわけだ。

 つまり、コボルト族であるククールは、聖剣などの魔力を持った道具の助けをなしには、魔法が使えないということになる。


「つまり、魔力なしである私には、単独で魔法は無理というわけかぁ」


『そういうことですな。まあ、後天的に魔力を持つというのも不可能ではないですがね』


「本当?!」


 聖剣が口を滑らせて言い放った言葉に、ククールが思いっきり反応している。よっぽど自力で魔法が使いたいらしい。

 あまりにも大げさな反応に、聖剣はしまったなぁと思ったようである。ククールにつかまれてどんなに振り回されようと、まったく口を利こうとしていない。黙秘に入ったようだった。


「ふーん、聖剣ってばそんなに意地悪なのね。それだったら、ジャックさんやヒーラに聞いてみるわ」


『あの二人に聞いても無駄というものですぞ。普通の人は知るわけもありませんからな』


「あっそ。そっかぁ、聖剣は自分が用なしになるのが嫌なんだ。だから、私にそんな意地悪をするのね?」


『だ、誰がその様なことを!』


 ククールがいじけた態度を取ると、聖剣は思わずそんな言葉を口走ってしまう。それと同時に、ククールはにんまりとした笑みを浮かべている。完全に乗せられてしまったようだ。

 ククールの笑みを見た聖剣は、大きなため息をついている。


『方法はありますがね、今は無理ですぞ。教会の人間が帰らないことには、主はこの部屋から出られないのですからな』


「それじゃ、帰った後でお願いね」


 ククールは満面の笑みを浮かべていた。

 あまりにもしてやったりな顔をしているものだから、聖剣はなんともいえない気持ちになっていた。

 結果、聖剣は後で魔力の増やし方について、ククールに説明することになってしまったのだった。

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