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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第64話 メイドコボルトは迫られる

 魔力の増やし方を聞いたからとはいえ、ククールにはすぐには実行できなかった。それというのも、領主邸にはまだ教会の人間がいるからだ。

 聖剣がいうには、魔族の魔力には敏感だということなので、魔法を使うことができないというわけだ。せっかくかくまってもらっているわけだから、そう簡単に魔法は使えないというわけである。自分のことが知られれば、領主であるトールソンに迷惑が掛かるのだから。


「はああああ……」


 あまりの退屈さに、ククールのため息は日増しに増えていく。ストレッチと読書で気を紛らわせられるとはいえ、それが終わればなんとも言えない感覚に襲われるようになっていたのだ。

 ようやく七日ほどが経過したとはいえ、教会の人間の滞在は今日がようやく折り返し。この生活がまだ七日ほど続くとなれば、それは憂鬱にもなるというものである。


「ああ、外に出たいよぅ……」


『主、我慢ですぞ』


「無理ぃ……」


 聖剣に我慢するように言われるククールではあるものの、さすがにかなりストレスが溜まってきているようである。もはや爆発寸前となっているようだった。

 そのイライラとした感情は、当然ながら聖剣もしっかりと感じ取っていた。とはいえ、聖剣であるがために、どうしようもないというものだ。実に悩ましい状況である。

 ククールと聖剣が思い悩んでいると、部屋の外がにぎやかになってくる。一体どうしたというのだろうか。


 バーンッ!


 突然、ククールの部屋の扉が開く。開いた扉の前には、一人の男性が立っていた。


『あの衣装は、教会の人間。どうしてここがバレたのだ』


「えっ、あれが教会の人間?!」


 ククールは背中に視線を向けて小さくつぶやいている。さすがに反応していることを気付かれるわけにはいかないからだ。


「妙な感じがすると思いましたら、実に興味深い存在がいたようですね」


 扉を開けた男は、なにやらにやりと笑っているようだった。


「クリアテス殿。ここは立ち入り禁止と申したはずですよ。どうしてやってこられたのですか」


「おやおや、トールソン殿。この子を見ても、そのように仰られるのですか」


「そ、それは……」


 男性を追いかけてきたトールソンが注意をしている。だが、その男性からの反論を受けてしまうと、顔を逸らしながら黙り込んでしまった。


「目の前にいるのは、どう見ても魔族ですね。まさか、魔族をかくまっているとは思いませんでしたよ、トールソン殿」


「ククールは街の役に立つ人物だ。魔族というだけで退治しようとする教会の連中に、教えるわけがないでしょう」


「ほう……。では、かくまっていたことは認めるのですね」


「ぐ、ぬぅ……」


 トールソンは、男性の言葉にまったく言い返せないでいた。

 トールソンを黙らせた男性は、ククールへと迫ってくる。


「ほう……。その背中にあるのは聖剣ですか。魔王に奪われたとされる聖剣がここにあるとは……、あなた、魔王に関係した魔族というわけですか」


「ひっ!」


 なんということだろうか。男性はククールの背中の聖剣を一発で見抜き、魔王との関係性まで見破ってきたのだ。なんと頭の切れる男性なのか。ククールは震え上がってしまっていた。


「なるほど、これは興味深い。魔族、聖剣を置いてちょっと距離を取ってくれないかな?」


 男性に視線を向けられたククールは、怯えた様子でこくこくと頷いて言われた通りにしている。

 背中から聖剣を外し、床に置いたククールは、少しずつ聖剣と距離を取っていく。

 聖剣一本分以上離れたその時だった。


「いだっ!」


 ククールの背中に、勢いよく聖剣が装着された。その衝撃のせいで、ククールはものすごく痛そうな声を上げてしまう。

 床に両手両足をついて倒れ、あまりに痛さに、すぐさま右手で背中をさすり出していた。


「ふむ、魔族のくせに聖剣の所有者ですか……。これは実に興味深いですね」


 男性はじっとククールのことを見つめている。


「よ、よく私のことがすぐに魔族だと分かりましたね」


 背中の痛みに耐えながら、ククールは男性に問いかけている。その問いかけに、男性はにこりとこの上ない笑顔を見せている。


「これでも、上級神官ですからね。魔族に関してはかなり敏感ですよ?」


 なんともいい笑顔なのだが、ククールはその笑顔に恐怖しか感じなかった。


『よせっ! この我がいる限り、主には手を出させぬぞ』


「せ、聖剣……」


 聖剣が強がって発言するも、男性はまったく反応する様子を見せなかった。どうやらさすがの上級神官であっても、聖剣の声は聞こえないらしい。

 そういうこともあってか、目の前の男性はじわじわとククールへと歩み寄っていく。

 目の前の男性が怖いこともあってか、ククールはじわじわと後ろへと下がっていく。

 一歩進めば一歩下がる。その状態が繰り返されるが、やがてククールは完全に壁際に追い詰められてしまった。


「さあ、観念しなさい、魔族。その剣はお前には身に余る代物です。いいから、おとなしく渡しなさい」


「いや……、いやよ!」


 ククールは聖剣の鞘のベルトを思いっきりつかみ、男性の言葉に必死に抵抗している。


「仕方ありませんね。少々強引にでも奪い取りましょうか」


 男性がさらにククールに迫ったその時だった。


「ぐはっ!」


 ククールに迫ってきた男性が弾き飛ばされてしまう。


「まったく、汚らしい手で、余のメイドに触れてくれるなよ」


 部屋の中に重苦しい声が響き渡るのだった。

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