第62話 メイドコボルト、勘づかれる
トールソンの方はというと、やってきた教会の人間たちの相手で精一杯だった。
数年ごとにやってくる定期的な調査ではあるが、よりにもよって、街に魔族がやってきた時にやってくるとは思わなかった。
とにかく、トールソンはククールやククル、それと聖剣のことが知られないようにと、その対応には腐心していた。
「相変わらず、この辺りは魔物が少なくて安心して暮らせるようですね」
「ええ。強い冒険者の方々がいらっしゃいますからね。とにかく、街の住民たちの安心安全には努力は惜しみませんよ」
「ふむ、実に素晴らしいことですな」
トールソンは、教会の人間たちの話を当り障りのないようにと注意を払いながら話をしている。
到着してからの二日間は、教会の人間たちが屋敷から出ようとしない。ククールには部屋に閉じこもってもらっているものの、いつ悟られるかと心臓をバクバクといわせ続けている。
「どうかなさいましたかね、トールソン殿」
あからさまに様子のおかしいところがあったのだろう。教会の人間が、トールソンに声をかけている。
思わず反応が遅れてしまうトールソンは、返事をしようにも言葉に詰まってしまった。そう、出てこないのだ。
「トールソン殿、もしや何か隠していらっしゃいませんでしょうな」
「そんなことはございませんよ。ささっ、話を続けましょう」
教会の人間が怪しんでいる。これ以上怪しまれてはいけないと、トールソンは平静を保ちながら話を逸らそうと必死である。
しかし、この一瞬の同様に、かなり目をつけられてしまったようで、教会の人間たちは話をしながら更なるサインを見つけ出そうとトールソンを凝視していた。
話を終え、教会の人間たちは客間へと戻っていく。
部屋の中へと入った教会の人間たちは、テーブルを取り囲んで座ると、先程の状況について話を始めた。
「なんとも怪しいですな」
「ですな。知る限りでは、トールソン殿はあのような歯切れの悪い言動をしたことはございません。あれは間違いなく、何かを隠しているでしょうな」
少し年齢を重ねたおっさんたちが話をしている。やはり、相当おかしいように映ったようだ。
年齢を重ねているからこそ、その違和感に気が付いたのだろう。
「どうですかな、クリアテス殿」
おっさんの教会関係者は、今回の一団で最も若い男性に声をかけている。
それというのも、このクリアテスという男。今年で二十歳になるのだが、聖職者として数々の功績を上げてきたことにより、かなりの地位にいるのである。それこそ、今声をかけているおっさんたちと立場があまり変わらない。
そういったこともあって、おっさんたちはクリアテスに話しかけているのである。
「そうですね。あの慌てっぷりからするに、隠し事をしているのは間違いないでしょう」
「やはりそうか。ならば、問い詰めてやる必要がありそうですな」
クリアテスの言葉を聞いて、一人のおっさん団員がかなりご立腹のようである。
ところが、クリアテスはこの意見には反対のようである。
「あまり直接的に問い詰めるのはよくありません。領主を含め、この街の人たちに悪い印象を与えてはいけませんからね」
「ならば、どうしたらいいというのだ」
もう一人のおっさんがクリアテスに具体策を求めている。
意見を求められたクリアテスは、にこりと笑っている。何か案があるようなのだ。
「明日は街の中を見て回るんです。そこを利用して、街の人たちから情報を集めるのですよ」
「おお、その手があったか」
クリアテスの案に、おっさんたちが感動しているようだ。なぜそこに思い至らなかったのだろうか。
「街の人たちからの証言を集めれば、より問い詰めやすくなります。同じことをするにも、やり方はいろいろあるのですよ」
「うむ、さすがだな」
「若くして、私たちと同じ地位まで昇ってきただけのことはある。この頭の回転の良さ、本当に素晴らしい」
意外とおっさんたちは、クリアテスのことを素直に褒めている。ということは、このクリアテスという男は、教会の中では思ったよりも歓迎された存在ということのようだ。
普通は若くしてトントンと昇進すると、それなりに反感を買いそうなものである。それがないということは、クリアテスは重鎮たちに対しても何かしてきたということなのだろうか。なんとも不思議なものだ。
「とにかく、トールソン殿には何もしないで、世間話などで済ませておきましょう。実行は明日、街に出てからです」
「うむ。頑張るとしようではないか」
クリアテスは話を終えると、部屋の中で何もない方向へと視線を向けている。
その視線の方向といえば、なんとククールのいる部屋の方向だった。
(この気配……。人ならざるものが紛れ込んでいるようですね。トールソン殿の態度は、そこから注意を逸らすためのものでしょう。あの二人はごまかせても、この私はごまかせませんよ)
クリアテスは、にやりと不敵な笑みを浮かべている。
なんということだろうか。トールソンが必死に隠そうとしていたククールの存在に、クリアテスはなんとなく気が付いているのだ。
とはいえ、それをトールソンにあの場で詰め寄らなかったのである。今も話さないあたり、トールソンには一定の配慮をしているということだろう。
(何を隠しているかは分かりませんが、帰るまでにははっきりさせてもらいますよ)
クリアテスはふっと笑っていた。
ククールへと迫る教会の手。はたして、無事に振り払うことはできるのだろうか。




