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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第61話 メイドコボルト、熟睡する

「はぁ~……、限界だわ……」


 ククールは、部屋の中で床に突っ伏してしまっている。

 それというのも、ジャックの指導によって室内でもできる運動をしていたからだ。

 ただ、体は激しく動かさない。それであってもかなり体力を使う運動をしていた。


「なんだ、ククール。剣の素振りの時もだが、あんまり体力がないな」


「私はメイドなんだから、そもそも使うところが違うでしょうに……」


 床に転がりながら、ククールはジャックに文句を言っている。

 ちなみにククールは何をするように指導されていたかというと、筋トレである。

 もも上げに腕立て伏せなど、室内でできてそこそこ音も立てずに済むものを中心にやらせたのである。

 ところが、ククールはそういったことに慣れていなかったのか、終わったらこの様なのだ。だからこそ、ジャックは立ったままでククールを見下ろしている。


「コボルトって体力自慢かと思ったんだがな」


「体力はあるとはいっても、使ってないところを動かせばそうなるでしょうに……。まったく、コボルトのことを何だと思っているのよ」


 床に転がるくらいに疲れているはずなのに、ククールはしっかりと文句を言っている。こういう元気はあるということなのだろうか。ますますコボルトという種族が分からなくなってくる。


「ただの雑魚な魔物だと思ってたんだがな。ククールを見ていると、認識を改めざるを得ない気がするぜ」


「それはどうも」


 ジャックが感心しているが、ククールは思いっきり怒りを込めながら言葉を発している。

 やることをやったジャックは、ククールが元気があると見ると、そのまま帰っていこうとする。


「ちょっと、女の子をこの状態で放っておくつもりなの?」


 さすがのククールもキレた。なにせ今のククールは床に転がったままなのだから。

 これだけきつく文句を言われてしまえば、ジャックは床に倒れ込んだままのククールの手をつかんで起こしている。そのまま部屋の椅子に座らせると、改めて声をかけている。


「これでいいのか?」


「不十分だけど、とりあえずいいわよ」


「そっか。それじゃ、俺は帰るぜ。一応ヒーラに声をかけておくよ」


「ええ、どうも」


 ジャックのなんともいえない素っ気ない態度に、ククールはかなり怒り心頭な様子である。

 さっさと部屋を出ていったジャックのことを睨んでいたククールだったが、一人になると力が抜けたかのようにテーブルへと突っ伏してしまっていた。


「はぁ……。ジャックさんってばまったく手加減がないんだから……」


 さっきまで気を張っていたのだろうか。ククールはテーブルに突っ伏して、そのまま動けなくなってしまっていた。


 しばらくすると、扉が叩かれる。


「失礼します」


 しばらく叩いても返答がなかったので、部屋に誰かが入ってきた。

 ククールの世話をしているヒーラだ。ワゴンを持っているので、夕食を持ってきたようだ。

 ところが、部屋の中に入ったヒーラは、中を見て驚いていた。


「ククール様?」


 部屋に明かりをともしたヒーラは、テーブルで突っ伏して動かないククールを発見したのである。

 外に知られてはいけないので、声を出さずに駆け寄ったヒーラは、すぐさまククールの状態を確認する。


「よかったぁ……。眠ってらっしゃるだけなのね」


 ヒーラはククールがただ眠っているだけなことを確認すると、ほっとした様子を見せていた。

 本当ならば、ジャックが帰りに会いに来た時点で様子を見に行くべきだったのだ。ところが、運が悪いことに用事が立て込んでいたので、夕食の時間を使って様子を見に来たわけである。遅れてきた結果が、この慌てっぷりなのだ。

 とりあえず、眠っているだけという状態を確認したヒーラは大事になってなくて安心していた。だが、このままではいくら獣人とはいえど風邪をひいてしまいかねない。

 しかし、この時のヒーラには問題があった。

 教会の人間がまだ滞在している状況では、他人を呼びに行けないのである。ククールの存在を隠している現状では、助けを求められなかった。

 となると、ヒーラ一人でどうにかするしかないというわけだ。

 横にできそうなソファーまでは距離がある上に、ククールは重たそうな剣を背中に抱えている。いくらメイドとして鍛えているとはいえ、ヒーラ一人でどうにかできるようには思えなかった。


「どうしましょうかねぇ……」


 動かしようのない状態に、ヒーラは困ってしまった。

 結局、思い悩んだ末に、冷えないように背中に毛布を掛けておくのが精一杯だった。食事用のワゴンも、部屋の中の分かりやすい位置に置いておくことにした。

 あとは、外に光が漏れないようにカーテンを閉めておくことくらいである。


「お風邪を召しませんように」


 すべてをやり終えたヒーラは、最後の小さく祈るようにつぶやくと、何も持たずにククールの部屋から出ていった。


 結局、ククールはそのまましばらく眠り続けていた。

 起きたのは真夜中になってからで、かけられていた毛布に驚いていた。

 目の前にあったヒーラからの置手紙を呼んだククールは、書かれていた通りの位置に食事の置かれたワゴンを発見する。

 ククールはヒーラに感謝しながら、すっかり冷めきってしまった食事を食べると、服を着替えてベッドへと潜り込んだのだった。

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