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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第58話 メイドコボルトは懸念する

 ククールが領主邸の中に閉じ込められてから三日目のことだった。


「なんだか外が騒がしいわね」


 さすがに部屋の中で閉じこもっていても、耳のいいコボルトだから外の音を拾ってしまう。ちょっとした騒ぎでも、ククールの耳には意外と届いてしまうのだ。

 しかし、いくら外が騒がしくなろうとも、ククールは部屋から出してもらえない。しょうがないので、部屋の中で適当に体を動かしたり、読書をしたりしてどうにか退屈しのぎをしている。

 夕方になると、ヒーラが食事を部屋へと運んでくる。


「ククール様、お食事をお持ちしました」


「うん、ありがとう、ヒーラ」


 ヒーラの声にククールは素早く反応をする。読書に集中していても、しっかり音と気配は拾ってしまうようだ。


「ヒーラ、外が騒がしいけれど、もしかして教会の人がやってきたのかしら」


「はい、その通りでございます」


 ククールが確認すると、ヒーラはものすごく正直に答えていた。隠したところでククールには無駄だということは分かっているし、ヒーラの方も隠すつもりがそもそもない。だから、正直に話したのである。

 ククールの方も分かっていたので、反応は実に冷めたものだった。

 とはいえ、自分がこうやって部屋の中に閉じ込められる原因になっているので、少しばかりイラッとしたのも事実である。

 しかしだ。教会というのは世界中にある都市を定期的に巡回しているらしいので、たまたまかぶってしまったのも事実である。タイミングが悪かったなと、ククールは意外とすんなり割り切った。

 とりあえずは、あと十日ほどの我慢だ。

 そう思ったククールは、ため息をつきながらも食事を食べ始める。あんまり待たせてしまっては、ヒーラに悪いと思ったからだ。


「ごちそうさま」


 ククールは食事を終えると、ヒーラに問いかける。


「ねえ、ヒーラ」


「なんでしょうか」


「もし、私が教会の人に見つかってしまったら、どうなってしまうかしらね」


 ククールとしては、念のための確認である。教会の人たちが来てしまった以上、あえて聞いているのだ。

 ヒーラは少し考え込んでしまう。


「ただの獣人だと思ってもらえれば、見逃される可能性は大きいです。ですが、本質の方に気付かれてしまいますと、やはり連れていかれるでしょうね」


「そっかぁ……」


 ヒーラから返ってきた答えを聞いて、ククールは背中を丸めてしまっていた。


「ひとまず、私がこうやってお世話をしているところさえ目撃されなければ、十分ごまかせると思います。私が通るところには、人が来ないようにしてありますし」


「そうなのね。トールソン様も結構気を遣っていらっしゃるのね」


「はい。ククール様は、私たちの街にとって有益なお方ですからね」


 ふうっと安心したように息を吐くククールに対し、ヒーラは正直なことを言っていた。

 街にとって利益になるから。本音が漏れてしまった瞬間である。

 だけど、ククールはそれを聞いてもただ笑うだけである。なにせ、自分は本来ほとんど役に立たないコボルトという種族なのだから。他人の役に立てるというだけで、どんな風に思われていようとも嬉しいのである。

 話を終えたククールは、あまり長居をさせてはいけないと、ヒーラをすぐに部屋から出ていかせる。いくら人払いをしているとはいえ、知られない保証はないのだから。

 再び一人になったククールは、天井を見上げながら、だらりと椅子に座っている。


「あたっ!」


 体をずらしすぎたせいで、しっぽがお尻と椅子の間に挟まれてしまい、ククールは思わず声を上げてしまう。


『主、意外とドジですな』


「う、うるさいわよ、聖剣」


 姿勢を戻しながら、涙目になりながら聖剣に文句を言っている。まったく、情けないところを見られたものである。

 姿勢を正したククールは、今度はテーブルに肘をつきながら物思いにふけり始める。

 考えごとの中心は、やはり教会のことである。


「ねえ、聖剣」


『なんですかな、主』


 ククールは近くの椅子に置いた聖剣に声をかける。


「やっぱり、教会は避け続けなきゃダメかしらね」


 憂うような表情で、ククールは聖剣へと視線を向ける。


『そうですな。コボルトであること、我を持っていること、治癒魔法を使えること。どれを知られても、主にとっては不幸にしかならないでしょうからな。特に、魔族であるコボルトであると知られれば、どのような悲惨な目に遭わされるか、さすがの我も想像できぬというものですぞ』


「うげぇ……。それは絶対嫌ね。でも、そうなるともう一人の私であるククルのことも気がかりになるわ」


 聖剣の話を聞いたククールは、露骨に嫌な顔をしている。同時に、時々街へと買い物に来るククルのことも気になったようだ。

 だが、これには聖剣はちょっと楽観視したような言葉を返してくる。


『そちらは問題ないでしょうな』


「どうして?」


『我の持ち主であることなどを見抜く魔王ですぞ? 教会がやって来ていることくらい、簡単に分かるというものだ。この時ばかりは、おつかいに寄こすなど、到底考えられぬことですぞ』


「まあ、それもそっか……」


 聖剣の言い分に、ククールは思わず納得してしまう。しかし、どことなくもやもやとした気分になってくる。


「よし、ヒーラに頼んで、ジャックさんに伝言してもらっておこう。万一、ククルが来た時には、すぐに戻ってもらうように仕向けるためにもね」


『ですな。どちらかが無事ならば、主が消えることはありませんが、さすがに死ぬようなことがあるのは我としては避けたいですからな』


 念のために、ククールは対策を施すことにしたようである。

 魔王城から街までは日数がかかるとはいえ、教会の人間たちの滞在期間は、その日数とほぼ同じだ。鉢合わせをする可能性はなくはない。

 なので、夜の就寝のタイミングで、ヒーラに伝言をするククールなのであった。

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