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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第57話 メイドコボルトは読書をする

 翌日、お昼の食事の時間を迎える。

 ククールはいつものように食事を終えたのだが、それを片付ける時にヒーラが声をかけてきた。


「ククール様。頼まれていたものをお持ちしました」


「ほえ?」


 食べ終わってナフキンで口を拭っていたククールは、思わずきょとんとしてしまう。なにせ、ここまでは淡々といつものように食事をしていたのだから、完全な不意打ちである。


「いえ。昨夜ご所望になっていた本の話ですよ。旦那様とご相談をした上で、ククール様に必要であろう本を選定してもって参ったのです」


 ヒーラはそういって、ワゴンに掛けられているシーツを払う。そこには、何冊もの本が積み込まれていた。

 積まれていた本は、食器が片付ききれいに拭かれたテーブルとは別のテーブルへと積まれていく。思ったより冊数があるようで、ククールは目を丸くしてその様子を見守っていた。


「ご希望を特に申されておりませんでしたので、旦那様と一緒になって本の種類を決めさせていただきました。また何かございましたら、私がやって来た際にお申し付けくださいませ」


「ええ、ありがとう、ヒーラ。これで少しは暇が潰せるわ」


「いえ、このくらいは当然のことでございます。では、次は夕食の時に」


 ヒーラはワゴンを押しながら部屋の外へと出ていく。

 ヒーラの姿を見送ったククールは、扉が閉まったところで、テーブルの上に積まれた本へと視線を向ける。

 視線の先には十数冊もの本が積まれているのだが、どんな本か分からない。ククールは立ち上がると、テーブルに積まれた本のチェックを始める。

 トールソンはククールの正体を知っているが、ヒーラは知らない。なので、本をチェックしていくと、どちらが選んだのかがよく分かるような感じになっていた。

 あまりにもはっきりした感じの選定に、ククールは思わず笑みをこぼしてしまう。


「トールソン様とヒーラが選んでくれた本だから、隅々まで目を通しますかね」


『主、これから読まれてはいかがですかな』


 やる気を見せていたククールに、聖剣が口を挟んでくる。さっきまで一切喋ってこなかったというのに、なんともお節介なことである。

 そんな聖剣が指定してきた本は、聖剣に関する本だった。


「そんなの、あなたに聞くのが一番早いじゃないの。大体、これって伝聞なんでしょ? 自分の記憶と違ってたら文句を言うのが目に見えるわ」


『ぐぬっ……』


 ククールからまともな指摘をされて、聖剣はぐうの音も出なかった。

 そんな聖剣をしり目に、ククールは別の本を手に取った。


『聖女伝』


『ほう、それを手に取るか』


 ククールが手にした本を見て、聖剣は唸るような感じで感心しているようだった。


「ほら、一応私も女でしょ。治癒魔法が使えるからって教会に連れていかれたら、これにされてしまう可能性は十分あるからね」


『聖女というものがどういうのかは、一応知識があるのだな』


「魔王城の中で、耳が痛いくらいに聞いたわよ。魔族は聖剣を持った勇者と聖女に苦しめられてきたって話をね」


『伝承しているのだな、意外と』


 ククールの話を聞いて、いちいち納得してしまう聖剣なのである。

 とはいえ、魔族たちの間にも自分たちのことがきっちりと伝わっていたというのは、正直意外過ぎる話だった。

 ならば、なぜ自分を懐に抱え込むようなことをしたのか。聖剣は今の魔王の行動に疑問を感じてしまう。


「とりあえず、聖女伝でも読んでみようっと。まずはきっちりとした人間側の知識は必要だものね。私はコボルトだから、知らないことが多すぎるんだもの」


 考え込む聖剣を放っておいて、ククールは本を読み始めた。


 体を動かすことが好きなコボルトだから、すぐに飽きてしまうだろうと思っていた聖剣だが、ククールは思ったよりも集中して本を読んでいた。

 そういえばそうだ。糸作りのような根気のいるような作業でも、途中で放り出すこともなく最後までやり遂げていたのだから。

 こうやって見てみると、やはり、ククールは普通のコボルトとは明らかに違うような感じだった。

 思い返せば、トールソンと初めて会った時の態度からしておかしかった。目上の人物に対しての挨拶をしっかりとこなしていたのだから。


(ふむ。やはりこのコボルト、普通のコボルトではないな……。我の主になったことといい、一体何者だというのだ)


 聖剣は、改めてククールのことが気になってしまう。主に選んだとはいえ、その人物のことをすべて知れるわけではない。だからこそ、聖剣はますますククールに興味を持ってしまう。


「なによ、聖剣」


『いや、なんでもない。読書を続けるとよいぞ』


 あまりにも考え過ぎてしまったせいか、ククールに視線を感じ取られてしまったようである。こういうところは、コボルトらしい反応といえよう。

 結果として、ククールはヒーラが夕食を持ってくるまで、ずっと読書を続けていた。なんともすごい集中力である。しかも流し読みではなく、一ページ一ページをしっかりと読んでいってである。並大抵の集中力ではできたものではない。

 夕食のために一度手を置いたククールだったが、夕食が終わると再び本を読み始めた。

 本当に変わったコボルトだと、聖剣は読書をするククールのことを見守り続けたのだった。

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