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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第56話 メイドコボルトは気が滅入る

 翌日からというもの、ククールはいよいよ外出禁止令で部屋に閉じ込められてしまうことになった。食事すらも部屋の中で取らなければならず、実に退屈そうである。

 コボルトというのは、二足歩行する犬の魔族である。なので、結構アクティブに動き回る性質を持っている。だからこそ、部屋の中で閉じこもるというのは、精神的な負担もかなり大きいのである。

 だが、教会の人間がやって来るとなれば、魔族であり、聖剣を持つククールとしては接触が許されたものではない。どちらかでもバレてしまえば、遠くに存在している教会へと連れていかれてしまうことになる。

 いくら分体であるククルが魔王城にいるとはいっても、ククール自身が家族と二度と会えなくなる可能性が高い。それどころか、聖剣の主であることを利用されれば、魔王や家族を殺さなければいけなくなる可能性がある。

 頭がよくて聞き分けのいいククールは、仕方なく部屋の中に閉じこもることを聞き入れたのだった。


「はぁ……、退屈ぅ……」


 聖剣を背中から外し、ベッドの脇にある台の上に置いたククールは、実に退屈そうにベッドの上で転がっている。ロングスカートのドレスを着ているとはいっても、だらしなく両足を広げて転がる姿は、なんともはしたないものである。


『やれやれ、本当につまらなそうですな』


 あまりのだらけっぷりに、聖剣も少し笑いながら心配をしている。


「しょうがないでしょ。コボルト族は、動き回ってこその種族なんだから。それこそ、一日中の山を駆けまわっているような子だっているんだから」


 あまりにも失礼な聖剣に対し、不満を込めながらコボルトというものを説明している。


「はっきりいって、聖剣を一日中背中から外してあちこち走り回りたいものだわ。でも、剣一本分以上の距離を取ると、問答無用で背中に飛んでくるんですものね。本当に、なんて迷惑な代物なのかしらね」


『いやはや、我にいわれましてもなぁ……。なにせ、我を作ったものが、そのようになるように魔法をかけたのですからな』


 ククールの文句を聞きながら、聖剣は言い訳をしている。

 なんでも、大昔に聖剣を鍛えた人物が、聖剣を手放せないように細工をしたらしいのだ。なんともはた迷惑な話である。

 なにせ、現在進行形で、ククールは困っているのだから。


「はぁ、ククルが羨ましいわ。魔王様の直属メイドになったとはいっても、聖剣から解放されているんですものね」


『我としては、魔王の監視下にある方が精神的に厳しいとは思いますがね』


「それはそう」


 聖剣が冷静な分析をしているので、ククールは思わずうなずいてしまう。

 実際、魔王の直属となると下手な失敗が許されない。常に緊張の中に身を置くことになってしまう。

 それだけではない。魔王の直属というのは、魔族の中でもエリート中のエリートだ。そこに、最下級ともいえる種族であるコボルトの自分が配属されているのだ。となれば、周囲から羨望のまなざしが常に向けられることになる。

 そのように考えると、ククールはもう一人の自分であるククルのことが心配になってきてしまう。

 だが、今は外に出ることはできない。どんなに気になろうとも、向かうことができないのである。


「はぁ……、面倒くさい」


 寝返りを打って、ククールは特大のため息をついていた。


 部屋の扉がノックされる。


「はい」


「ヒーラです。お食事をお持ちしました」


「あ、どうぞ」


 専属メイドであるヒーラがやってきた。

 教会の人間がやって来るとなってからは、ヒーラとの接触もかなり減らされた。朝の着替えと夜の着替え、一日三食の食事の時、それとお風呂の時だけという接触だ。それ以外は、教会の人間に怪しまれてはならないと接触を禁じられてしまったのだ。

 そのために、ククールはさらに気が滅入ってしまっているのである。

 話し相手には聖剣がいることが唯一の救いといえよう。これがなければ、もっと滅入っていた可能性は否定できないのである。


「ククール様」


「何かしら、ヒーラ」


 食事の準備をしながら、ヒーラが話し掛けてきたので、ククールは反応している。


「何かご所望のことがございましたら、いつでもお申し付けくださいね。会えるタイミングは少ないとはいいましても、食事の時であれば、ワゴンに隠して運ぶことができますからね」


「あ、ありがとう。今のところは、特に何もないわ。何かあったら、その時に話すわね」


「承知致しました」


 ヒーラの気遣いに、ククールはにこやかな笑顔を浮かべていた。その笑顔は、ヒーラの気持ちも楽にしたようである。


 やがて、食事が終わるとヒーラが食器とともに部屋を出て行ってしまう。

 部屋の中には、またククール一人となってしまったのだ。


「ああ、退屈」


 背中に剣をつけたまま、再びベッドに横になるククールである。

 天井を見上げたまま、その目は少し生気を失っているようにすら見えてしまう。

 残念だが、これでまだ引きこもり初日である。そのくらい、部屋の中でじっとしているというのは、コボルトには耐え切れないことなのだ。


『主』


「なによ」


 聖剣が話し掛けてくる。


『ヒーラ殿に頼んで、屋敷の書物を持ってきてもらってはいかがでしょう。幸い、主は字を読むことができますから、動けないなら勉強をしてみるというのはどうですかな?』


「……それもいいわね。だったら、就寝前にヒーラに伝えておこうかしらね」


 聖剣が話した内容に、ククールは乗っかることにした。

 とにかく暇で仕方がないのだ。どうにかして時間を潰さなければならない。

 その手段として読書を選んだククールは、就寝の前の着替えの時に、ヒーラにそのことを伝えたのだった。

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