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メイドコボルトは聖剣の主  作者: 未羊


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第59話 メイドコボルトは魔王に遊ばれる

 ククールが閉じ込められている頃の魔王城。


「えっ、しばらく街には行かなくてもいい? どういうことなんですか、魔王様」


 今日も魔王の世話のために部屋にやってきたククルは、魔王からいきなり告げられた内容に目を丸くしてしまっている。

 ククルがいくら驚こうとも、魔王の方は実に冷静である。


「言葉の通りだ。街には行かなくていい」


 だが、魔王は先程告げた言葉を繰り返すばかりである。あんまり説明をしたくないように感じる態度である。

 魔王の説明に納得のいかないククルは、なんということだろうか、魔王相手に食い下がっている。恐れ知らずのコボルトである。

 さすがの魔王も、ここまで食い下がってくるククルの態度は予想外だったようだ。

 ため息を吐くと、ククルへと真剣な表情を向ける。その眼光の強さは、食い下がっていたククルも思わず動きを固まらせてしまうくらいだった。


「実はな。今あの街には教会の連中が来ているんだ」


「きょ、教会?」


 何度も目をぱちぱちとさせてしまうククルである。教会のことはよく知らないようなのだ。

 ククールが知っているとはいっても、ククルまで知っているとはいかないらしい。二人は記憶を共有しているわけではないようだ。


「教会というのは、余たち魔族を敵視している連中の集まりだ。そんな連中が来ているところに、おぬしを送り込んだらどうなると思う?」


「あ、ああ……」


 魔王から言われて、ククルは表情を一気に青ざめさせている。どうやら、すんなりと理解したらしい。

 そう、魔族のコボルトであるククルが教会の人間と鉢合わせをしようものなら、捕らえられてひどい目に遭わされるはずである。

 なので、自分の専属メイドとして重用している魔王にしてみれば、そんな危険な場所にククルを送り出せるわけがないというわけなのだ。そのことを、ククルはようやく理解したらしい。

 だが、同時に、ククルはあることが気になったようである。


「もう一人の私……、大丈夫かしら」


 そう、ククールのことである。

 聖剣の判断ミスによって二人に分かれてしまったククルのもう半身、それが獣人の姿をしたククールである。

 そのククールは、現在は領主の屋敷で暮らしている。教会の人間がやって来ているということは、領主邸で寝泊まりするのは確実だと思われるので、ククルは心配になってきたようなのだ。なにせ、もう一人の自分なのだから。


「心配になるのは分かるが、まあ心配あるまい。なんでも今は、部屋に閉じ込められているようだからな」


「そうですか……って、ええっ?!」


 魔王はなぜか、ククールの状況をすべて把握している。心配はないとは言われたククルも、さすがに閉じ込められていると聞いては大声を出さずにはいられなかった。


「だ、大丈夫なんですかね。私たちコボルトは元気に体を動かしまわるような種族ですよ? 部屋の中で閉じ込められているなんて、ああ、心配になってきてしまいます」


 さすがにククルは取り乱してしまっている。さすがは自分自身の大問題というところである。

 ところが、魔王はククルの肩をしっかりとつかんで、自分の方へと顔を向けさせる。


「お前が信じてやらねば、誰が信じられるというのだ。他ならぬ自分のことであろう」


「あ……」


 すっかり取り乱していたククルだが、魔王のひと言であっという間に冷静さを取り戻していた。この気の取り直しの早さは、他のコボルトにはなかなか見られないものである。なるほど、魔王の直属メイドにされるのも納得できるというものだ。


「とりあえず、領主邸の中にある本を読んで気を紛らわせているようだ。これならば部屋の外へと出ていくことはまずありえまい。安心するといいぞ、ククル」


「は、はい。でも、どうして魔王様は、ククールのことをそこまで詳細に分かるのですか?」


 魔王から安心するように言われたククルではあるものの、すぐさまそのような質問をしている。やはり、ククルというコボルトはただものではないようである。

 このように頭の回転がいいとは、さすがの魔王もちょっと困ってしまっているようだ。


「ふっ、何を言うかと思えば、そのことか」


 さすがは魔王。思いもよらぬ質問でもまったく取り乱さない。


「余は魔王ぞ? 配下の魔族のことなど、手に取るようにわかるというものだ」


 魔王は実に堂々と言い放つ。

 普通の魔族なら、これで納得してくれるところなのだが、ククルはそうはいかなかった。


「本当なんですかね……」


 なんと、魔王の言葉を疑ってかかっている。


「まったく、本当におぬしは面白い魔族よな。余の言葉を疑ってかかるとは。だからこそ、そばに置いておくのが楽しいというものだ」


 あまりにも露骨に疑ってくるククルに対し、魔王は大きな声で笑い飛ばしている。

 さすがにこの魔王のリアクションには、ククルも困惑するしかなかった。なにせ、自分たちのことを事細かく把握されているのだから。怖くなってきてしまうというものである。


「心配するな。言った通り、ククルたちは面白い存在だ。取って食うようなことはしないから安心しろ」


「しょ、承知致しました」


 魔王の言葉を信じて、ククルはぺこりと頭を下げる。

 そうかと思えば、今度は魔王が手招きをする。


「い、いかがなさいましたでしょうか」


 おそるおそるククルは近付いていく。


「うむ。余の仕事を手伝ってもらおう。おつかいができぬというのなら、他の仕事を割り振るまでだ」


「えっ、ちょっと、魔王様?!」


 自分の仕事を手伝えと言われたククルは、あたふたとしてしまう。

 だが、さすがに魔王の誘いを断りきれるわけもなく、ククルは魔王の仕事を手伝わされる羽目になってしまったのだった。

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