第一章『勿忘草』 二十六節「小隊長とは」
こんにちは、こんばんは。しらすおろしぽんずです。
今回は前回であった、癖強めの先輩たちとの話です。少し抜けている人たちですが、そこにはどんな別の一面があるのか。書いててかなり楽しかったので、楽しみにしていただけると嬉しいです。
それでは、また。
二十六節「小隊長とは」
全然そんなことなかった。なぜ僕は一瞬でもこんな人たちのことを強いとか思ってしまったのか。
自分たちの方がこの棟は詳しいからと言って強引に連れられた先は説明会の会場ではなく中庭。なぜそんなことが起こるのだろう。疑問に思っているうちにライラック先輩はいつの間にか消えてしまった。
なんでこんなことに。
時計塔の針は百八十度になろうとしている。もうすぐ六時。説明会が始まる時間だ。
「むう、困ったな。迷ってしまったようだ」
「そうみてぇだなぁ」
じゃねえよ。強いとか以前の問題だなこれは。
「すまないな、レナグ少年。いつもはうちの隊員に頼ってばかりなにのに、後輩に格好を付けようとした結果こんな事になってしまって……」
「え、あ、いえ、そんな」
そうか。この人の隊では隊員が苦労しているのか。どこも大変だな……。
※
「おう、見つけたぞ。会場の第三実験室だ」
やっとたどり着いた。ここまで来るのに役十分。時間的に言えば七分前後の遅刻だ。ただこの学校であればこの程度の遅刻はよくあることのはずだ。何せ校舎がとてつもなく広い——
「申し訳ありません! ザク・ラフユ、レード・アーコ、レナグ・アリフィス・エルブルー、遅れました」
いきなり横から、叫び声にも近い声が聞こえて驚いている僕やすでに教室にいた生徒たちを置いて二人は言葉をつなぐ。
「案内をしていたつもりが、道を誤り定刻を過ぎた到着になってしまいました」
先ほどまでとは打って変わったトーンのザク先輩の声。あっけにとられているとザク先輩の奥でレード先輩が目配せをしてきていることに気が付いた。状況を理解した僕はすぐさま頭を下げる。
「申し訳ありません!」
そうだ。僕は今、ただの生徒ではなく、一小隊の長としてここにいるのだ。その行動は隊全体やその隊員の評価にもつながる。そのことを自覚しているからこその、先輩たちのこの態度。さっきまでの自分を恥ずかしく思う。
まあ、少しくらい、アドバイスがあってもよかったけど……。
「わかった。レナグ小隊長は今回が初の遅刻であるので口頭での忠告だけとする。しかしザク小隊長にレード小隊長、お前たちは今月すでに十回目の遅刻だ。よって、厳重処罰として追加訓練を受けてもらう」
「なっ!?」
「なあ!?」
驚く二人。僕も二つの意味で驚いた。このくらいのことは覚悟しているのかと思っていたが以外にも驚いた反応をしたことと、そもそも、今月だけでもう十回も遅刻していることだ。
やっぱりこの人たち、ぽんこつなんだな。
「わかったら着席しろ」
どんよりしながら椅子に座る二人の後ろに僕も座る。この部屋には九つの机と、いかにもね実験室の椅子がそれぞれの机に四つから五つずつある。そのうちの半分ぐらいが埋まっちるだろうか。
「小隊長も全員揃ったことだ、説明会を始める。が、その前に」
そう、見たこともない先生が口にしたとたん部屋のざわめきがピタッと止まった。
ほどなくして、部屋が暗くなった。黒板に映し出される映像たち。思っていた方法とは違っていて、かなり雰囲気があるな。
そこに映っていたのは様々な種類の脅威たち。自然現象もあればモンスターや毒性の植物、そして生き物とも自然現象とも言い難いものたちの姿がそこにはあった。
そして一通り映像が終わった後、怖そうな先生がおもむろに口を開いた。
「今見た映像の脅威たち。いずれも冒険課程の旅路で、歴代の修了生たちが実際に出会った脅威たちだ」
隊長たちの間に緊張が走る。静かに、しかし力強く言葉を続ける。
「説明会を始める前に聞く。お前たちは、小隊の長、責任者だ。これらの脅威たちと対峙した時、お前たちにはその責任を果たしとおす覚悟はあるのか?」
すぐには答えられなかった。意識が足りていないことはわかっていたが、なんとなく先延ばしにしていた。まさか、こんなにも早くに現実を突きつけられるとは思ってもいなかった。
そんなとき、僕の前から声が上がる。
「あたりまえでしょう!」
「あたりめぇだなぁ」
「それが……できなきゃ……なんの……ため……隊長になったのか……」
僕の前をたくましい背中で覆うレード先輩やザク先輩の声。そして、いつの間にか僕の左前の席に座っていたライラック先輩の声が教室の緊張を叩き斬った。
そこからどんどんと続く声が上がり始める。
「覚悟なんて飽きるほどしたさ!」
「言わずもがな、かな」
そうか、当たり前だよな。空気に飲まれるな。もし僕がしっかりしなかったら、あのポンコツ三人組はどうなることか。
でも個々の力はある。ならば僕は何をすべきか。
隊長としての責任を果たすべきだ。
そう、ここにいる人たちは……、僕も含めてみんな……
「隊長なんだ」
思わず口からこぼれた一言に、レード先輩が気づく。
しかし、先輩は何も言わずに、ニヤッとごつくも柔らかな先輩の笑いを浮かべた。
その顔は、僕とは比べものにならないほどに”隊長”の顔をしていた。




