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第一章『勿忘草』 二十七節『冒険課程』

こんにちは、こんばんは。しらすおろしぽんずです。


まず最初に遅れてすみません…。最近追いつかなくなってきてしまったので更新頻度を週一に戻そうと思います。その分文字数は増えると思いますので…


ともかく、一週間かかったからには楽しんでいただかないと割に合いません。今節はかなり大きなイベントもあります。ですのでお楽しみください!!


では、また。


二十七節『冒険課程』



 思わぬ盛り上がりを見せた説明会は少し時間をおいて、その熱を残したまま本題に入っていった。


「——まず、冒険課程に放り込まれた後の君たちの流れを説明する。と、行ってもやることは簡単だ。このサンスベリア訓練生学校がある第二大陸、この面積:八百万平方キロメートルに及ぶ大陸の探索だ。」


 一息置いてから黒板に地図を書き始める怖そうな先生。


「ここ第二大陸は、人類の多くが暮らす第一大陸とは違い危険な生物が比較的多い。さらには……」


 説明が続く。


 そして分針が二週周り夜のベールに星が輝きだしたころ、ほとんどすべての説明が終わった。


「最後に残すはこの説明だな」


 そう言って、黒板に描かれた地図の周りに手書きとは思えないほど正確な五つの絵を描き始める。


「知ってるとは思うが、この第二大陸は五つの巨大脅威に囲まれている。それも帝色を持った脅威にだ」


「……〈五虚色〉……」


 ライラック先輩の、信じられないほどかすれた声が耳に入る。


「そうだ。〈(くれない)の飛竜〉、〈(こうじ)の巨人〉、〈(みどり)の古樹〉、〈(あお)の海獣〉、〈(ふじ)の渦姫〉。これらが五虚色と呼ばれる五つの脅威。これらから、この大陸を守っているのは何だと思う?」


 最初はわからなかった。近衛兵はこの第二大陸にはいない。教員は元近衛兵であることも多いが普段の業務で忙しいずだ。とてもそんな大仕事をしているとは思えない。


 そう考えをめぐらせていると、一つの現実にたどり着いた。



「冒険課程を修了中の四年生……」



 思わずつぶやいてしまった一言。その言葉は現実(こたえ)にしては、あまりにも残酷だった。

「——その通りだ。冒険課程の目的の探索、その主な内容は五虚色の活動範囲やその影響を調査、及びその影響を抑えることだ。」


「……」


「『ひどい』、『なぜそんなことを』と思うか?」


 何も答えられなかった。


 それに構わず先生は続ける。


「すぐに答えは出る。それが“お前たちが世界に求められていること“だからだ。冒険課程は第五種近衛兵を訓練するための特別課題だ。三年生で進級適性試験を通過し四年生になりその課題をもこなしたものだけがなることができる」


そう言った後少し言葉を切って、


「まあ今回は例外もあるが……」と。


「ともかく精鋭の中の精鋭、それが第五種近衛兵でその堅牢な砦に中途半端な素材はいらない。邪魔だ。そして、その素材の質を確保するためのこの厳しい冒険課程と言うわけだ。その一部になる覚悟がないのなら大人しく退学するか三年で卒業することだな」


 不格好ながらも合理的な仕組み。唐突に大きな現実を前にして、恐怖の感情がじわじわとしみ込んでくる。


 いや、でも、この恐怖は多分、今までのそれとは違う。


 自然と口角が上がる。


 ふと周りに目をやると、僕の周りの人たちも同じような表情になっている。多分僕たちが感じているこ とは同じだろう。


 これは……立ち向かう覚悟ができた後の恐怖で、根源的恐怖ではなく、一種の緊張や高揚感に近いもの。


 自分の夢が、どれほど遠いのか。どれほど厳しいのか。でもその目標にたどり着くための道がつま先まで近づいていて今すぐにでもそこに飛び込めるという、胸の高鳴り。


 そんな複雑な色の感情を僕たちは今抱えている。

なんでだろうな。あんなにも厳しい現実を突きつけられてもまだ、僕は僕の目標を諦めていない。


 少し目を閉じて考える。


 そもそも僕の目標はなぜ第五種近衛兵になることなんだ?


 流れでここまで来てしまった。そういう言い方がしっくりくる。最初は確か、友達を作らない退学だとアンセントワート先生に半ば脅されて冒険課程に参加することを選んだ。


 じゃあなぜ、そこまで頑なに友達と呼べるものをさらに作りたくなかったのか?

そんなバカみたいな理由で白亜は冒険課程に一緒に参加してくれると言った。白亜がそこまでしてくれる理由は何だ?


 思いを巡らせているとだんだんと頭が痛くなってきた。

瞼の外側ではすでに人の流れができている気配がした。


 少し目を開く。


 先生はすでにそこはにいなかった。今日出会った四年生三人組も席を立ったところだった。そして軽く会釈した後、すぐにその姿を消した。


 教室から誰もいなくなってから、また目を閉じる。


 僕はなんでそこまでして友達を増やしたくなかったのか。僕は冒険課程に、第五種近衛兵に何を望むのか。


 その疑問に意味のない自問自答を繰り返す。


 答えが出ないとわかっていても、なんとなくそうしていると落ち着いた。




「やっぱり思い出せないか」




 思わず口を付いたその言葉が答えだ。


 いつからだろうか。訓練課程一年生以前のことを思い出せなくなったのは。


 机にうつぶせになってまた考える。


 なぜだろうか、幼いころの記憶が辿れなくなったのは。寮室だけが僕の帰る場所になったのは。


 そう、多分思ったのだろう。第五種近衛兵、彩色近衛兵ならば、その色を、記憶の形を自在に使いこなし、戦う者たちならば記憶の戻し方や、それについての何かを知っているんじゃないかと。


 知っていた。仮進級適性試験の時、アンセントワート先生が説明していたことも。色の説明など何度も読んだ。

 どうしても怖くて。たまに自分が誰なのかわからなくなって。名前だけがあって、それ以外の何も存在しなくなった僕の存在が怖くて。その怖さを克服するために探した。記憶の戻し方を。いろいろな本も読んだ。


 でも何も見つからなかった。


 ただの記憶喪失なんじゃないかとも考えた。そうであって欲しかった。でもそれにしてはあまりにも矛盾が多かった。


 一番の矛盾が白亜とララだった。白亜は僕の過去を知っていたそうだ。しかしいつからか断片的になってしまったそうだ。ララも同じだ。


 だからララは僕からすれば少し距離が近いし、白亜は一年生の時からの親友だ。


 こんなに嬉しくて悲しいことはない。慕って、信頼してくれている人がいるのに、それに応えられない。


 こんなぐちゃぐちゃな感情に整理をつけるために、すべてを思い出すために僕は冒険課程に往く。


 それが僕の目的だ。









 ずいぶん長い間、目を閉じていた気がする。


「おーい、おーい、おい、起きろっての、起きろレナグ!」


 白亜の声が狭い相部屋に響く。朝から迫力のある低い声が二段ベッドを揺らす。


「おい、まじで起きろ。遅れるぞ」


「うっせ、もうとっくに起きてる」


 苦し紛れに誤魔化しながら僕は重い頭を上げ真っ白の地に金色のボタンがついた制服に着替え、これまた真っ白の襟付きマントを羽織る。


「何やってんだ、お前。寝ぼけてんのか?」


「へ?」


「あほか、今日はそっちじゃねえ。今日はあっちだろうが」


 そう言って壁にかかったもう一式の制服……と言うには少しごつい代物を指さす。


「ああそうか。そうだったな」


「さっさとしろって」


 神がかったコンビネーションで狭い部屋をフルで使って支度する。


「やっべ、まじ時間ねえ」


 時計はすでに五時を回っていた。


 集合は確か五時半、ここから徒歩で十分かかることを考えると、もうそろそろ出なければならない。


「終わったか?」


 しばらくして白亜に聞く。


「お前の方が後から起きたのに……」


「要領が悪いんだよ脳筋君」


「なんだと一夜漬け」


 軽口を交わしながら白亜も準備が終わったことを確認すると扉の前に立つ。


 ちなみに僕たちの寮室は寮本館の離れにあるのでドアの向こう側はそのまま外だ。


「よし、行くか」


「おう」


 今日は冒険課程初日。気分は待ちに待った遠足気分、とはいかない。


 なぜなら、これから始まるのは冒険課程。それだけで説明は十分だ。


 いろいろな思いを抱え、ドアノブを回す。


 まだ日は上っておらず夏の雪が降っている。比喩ではなく本物の雪だ。


「ここお得意の異常気象か。俺たちの門出には上出来だな」


「んなこと言ってないでほら、準備はできたか?」


 白亜が答える。


「おう、当たり前だ」


「それじゃあ」


 薄く積もった雪の中、近衛兵として花を咲かせるために、いつかの褪せた記憶また、彩るそのために、地面から新芽のぞかせる。



 旅立つ。



 冷えて、澄み渡った空気で肺を目覚めさせ、


「「行ってきます!」」

とりあえずきりが良いとこまで言ったので完結にしときます。2/5

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