第一章『勿忘草』 二十五節『四年生』
二十五節『四年生』
それからの一週間は時の流れ方が加速度的に増えているのではないかと思うぐらいには早く過ぎていった。
毎日毎日、説明会や事前学習、冒険課程に関する諸注意など学校が終わってから二時間以上も居残りで受けることになっていたし、そのあとは、アンセントワート先生やモネ先生、そして三年生の選択科目の中で一番の人気を誇る武器術科の先生である、べリア先生に特別授業と称したしごきを、これまた二時間以上は受けていた。そのおかげで、いつもなら五時には寮室に着くところが、九時を回ることも稀ではなくなってきていた。
また僕たち二年生の冒険課程飛び入り参加と言うこともあって、例年通りにとは中々いかないらしい。事前に受ける説明会などにも影響が出てしまい調整が必要とのこと
そんなこんなでまた一週間、二週間と過ぎ、意識がもうろうとし始めた三週間目の入口、完全に魂の抜けたような顔をしながら移動教室のために歩いていると僕の後ろから誰かの肩が当たる。
このシチュエーション、どっかで見たことあるな。この前は乱暴な奴が隣にいたから問題になったけど今回は違うぞ。ここは穏便に……
「おっと、すまなかったね。怪我はないかい?」
「え、あ、まあ」
何か、思ってたのと違うぞ。なんだこの紳士は。
「君は……二年生だね。なぜ四年生の校舎にいるんだい?」
そう、声をかけてきたのは僕らと同じく白の制服に身を包んだ長身の男子生徒だった。袖の紋章によると四年生らしい。相手も僕の制服の袖に付いた紋章をちらっと見てそう言ってくる。
「えと、冒険課程の隊長説明会に……」
知らない人にとぎまぎしながら、やっとの思いでそう答えた。
「おお、では君が〈千花〉と言う名の二年生小隊長なのか」
「は、はい。いちおう」
「すごいではないか。君、誕生日はいつだい?」
「へ、た、誕生日ですか? えっと、ご、五月です」
「そうか! では十七歳だな。その年で冒険課程とは……。誰かに恨まれるようなことでもしたか?」
「はあ」
この人の雰囲気苦手だなとか思っていると、後ろから他の四年生たちが現れた。
「おうおう、どぉーこの有名人かと思ったらよぉ、進級適性試験を通ったってえ話のガキじゃあねえか」
この辺キャラ濃いな。それにみんな制服が汚い……と言うか歴戦の猛者感があるな。
「こいつぁほんとに噂のやつなのかよ、ザク? 何か固まってやがりゃあしねえか」
その通り、急に四年生に囲まれて緊張してます。でも何か考えてないと本当に意識がとんでいきそうだから適当に観察してました、すみません。
一気に心の中で謝罪を済ませた頃、ザクと呼ばれた男子生徒が待ったをかける。
凍り付くような冷たい白と少し温かみのある淡いピンクに色づいた髪がさらっと揺れる。
あれでお花見ができるな……
「まあ、待てよ。彼も緊張しているんだろう」
「むう」
大柄でごついもう一人の四年生と軽く言葉を交わした後僕に向きなおって自己紹介を始める。
「私はザク・ラフユ。こっちのコワモテなのはレード・アーコ」
「おう、よろしくなぁ」
「レナグ・アリフィス・エルブルーといいます」
「エルブルー……」
「おうおう、おめえも来たか」
「……こんにちは……」
「は、はい、こんにちは」
なんかまた変な人来たぞ。
「君は……」
「こちら、二年生のレナグ・アリフィス……」
「——エル…ブルー」
「ああなんだ、知ってたのか。そう、この若者が、と言っても二つしか変わらないが……噂の二年生で冒険課程に参加する小隊の長だ」
「……よろしく……小生は……ライラック……ただの……ライラック」
「よ、よろしくお願いします」
何でこの人死にそうな声してるんだという疑問もよぎったが、今はそれは置いておいてもうすぐ時間になるし早く説明会の会場に行きたいんだけどな。話してくれるだろうか。
そんな僕の気持ちを察してなのかただの偶然だったのかライラック先輩が歩き始めた。
「おう、ライラック。どこに行こうってぇんだ?」
「む、もうこんな時間ではないか。私たちも行かなければな」
「そ、そうですね」
不安だ。これがみんな隊長だっていうのか? 僕も言えたことではないが、本当にこの人たち試験を通っているのだろうか。
「ほら、行こうじゃないか、レナグ少年!」
まあ、いいか。こんな人たちの方が、案外強いのかもな。
こんにちは、こんばんは。しらすおろしぽんずです。
ご一読ありがとうございます。
そして、水曜日は申し訳ありませんでした。すっかり更新を忘れていました。
さて今回は四年生の猛者たちが沢山出てくる回になりましたが少し人と話すのが苦手なレナグは、そのあとの説明会をどう乗り切るのでしょう。かなり独特な雰囲気漂う人たちですからレナグが取って食われないか心配です。とにかく次回も楽しみにしていてください。
それでは、また。




