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第一章『勿忘草』 二十四節「結果通知」

二十四節「結果通知」



「……開けるぞ……」


「……おう」


「うん」


「……」


 一週間後の朝、僕たち四人はまだ残る疲労に筋肉痛、打撲に肉離れ、切り傷、刺し傷、加えて貧血の体を引きずりながら、職員室の前にたむろしていた。


 ちなみに、あれから三日ミクリアは起き上がれなかった。


 学校に病院並みの保健室があるのでそこの一室を使っていたのだ。その三日間、病室ではミクリアのところに行けなかったことと、そのせいで無理をさせてしまったことを平謝りする僕の声が響き渡っていたがそれはまた別の話だ。ミクリアが小さく、『王子様、期待してたのに、な』と言っていたことも、また別の話だ。


 ただ、いまはそんなことどうだっていい。

僕は封筒に入った紙を思い切って取り出す。思わず目を閉じてしまうほどには緊張している。


 ゆっくり、慎重に瞼を開けていく。


「……」


「どう、なんだ?」


「……読むぞ。——適性試験の結果から」


 さらにゆっくりと書類に目を落としていく。


「小隊〈千花〉、及び隊員各位は、冒険課程に適性……」


「「「——適性……」」」


「あ、り?と判断されました。」


「あ、ありって、どういう意味、だっけ」


「ええと、確かあれだよ。東の真ん中くらいの国の名前? みたいな?」


「なに、言ってんだよ。合格よだ馬鹿野郎ども!」


「やっ」


「やったぁぁぁ」


 キャラ的に、そんなに感情を出して喜ぶことはあまりない。だから抑えようと思ったが、口の隙間からもれだした喜びは、想像よりも大きくみんなを振り向かせるには十分だった。


「おっ、珍しいな。お前なら、『当たり前だし』とか『こっからが本番だぞ』とか言いそうなもんなのにな」


「うるさいな。いいだろ落ちたら隊長の責任だし、てか落ちたらこの小隊解散だったし」


「そうだね、レナグ、他に居場所、ない」


「それはお前も同じだ。マッドサイエンティスト」


「え、えへへ」


「これでほめてると思えるなら、多分その頭の葉っぱに養分吸われてるぞ」


 ミクリアが怒った様に頬を膨らませているところを見て、自然と笑いがこぼれた。ふと横眼で白亜たちを見るとこれまた笑顔の二人。


 最初は僕と同じ理由で笑っているのかと思ったが、どうやら違うようだった。二人して隠し事とは、隊長として見過ごせないな。


「方向性の違いから解散しないように隠し事はなしだぞ?」


「「いえいえ、そんなあ」」


 どうぞお構いなくと言った雰囲気で二人して手のひらを僕に向ける。


 何だ? 少し気持ち悪く思い少し距離を取った。が、これが仲睦まじい夫婦であることの証拠か、とか思い直しそのままスルーした。


 再び紙に目を落とすとそこには試験の結果や小隊、そして個人としての評価、それと冒険課程についての詳細が詳しく書かれていた。


「まるで模試の結果表みたいだな」


「見てて楽しい模試の結果は初めてだけどな」


「勉強しろ」


「はい……。」


 そんな風にいつも通りの会話をしていると始業の合図である鐘が鳴り響く。


「あれ?! もうこんな時間? やばいじゃん」


「僕、出席日数、足りなくなる」


「あれ、それって留年とかなんとかになるんじゃ……」


「うん」


「「「いそげええええ!!」」」









 その日最後の生物学の授業。先生がこの学期と来学期をまたいで一つの生物についての研究とそのレポートを課題として僕たちのクラスに出した。


「このレポートを提出する日は来ないのか」


 そう一人ごちる。冒険課程は通常四年生の二学期から始まるので来学期からは授業がないのだ。


「レーナグ。帰るぞー」


「今行く」


 白亜に呼ばれて、慌てて教科書を鞄に詰め込みこんだ。普通の学校生活(いや普通ではない気がするが今は気にしないでおこう)も、もうそろそろ終わりなのか。感傷に浸りながら帰路につく。


 帰り道、塩湖にできた通学路を他愛もないというには激し目な論争を白亜と交わしながら、ふと大昔ののような過去のことを思い出していた。


 遠く澄んだ水海。誰かの手の温かみを頬に感じながら聞いた言葉が頭に木霊す。



「——『カワナを見て』——」



 どこか聞き覚えがあって、けど少し可笑しくて笑ってしまうような言葉。いつの事かも、誰が言ったのかも、聞いていたのが自分なのかすら怪しい。けれどその言葉に、気を取られずにはいられない。


 何かが鏡のような水面に変化をくわえた。そこに映る姿が揺れる。


「おっ、おい。涙が……」


「っ! あれ」


「お前、やっぱ強がりだったんじゃねえか。ほんとは給食のおかわり、ほしかったんだろ?」


「ちげえよ、馬鹿」


 僕は慌てて頬を伝う青の雫を拭う。


「そんなに見てもなんも出ねえぞ」


微かに哀しみを含んだような笑いが白亜の口からこぼれる。




その日の暮相の空の色は肌寒く、溺れそうなほど、ただ深い、青だった。



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