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第一章『勿忘草』 二十一節『迷い』

二十一節『迷い』



「————ほほう、これは面白い。この拘束といい、その前の落とし穴と言い……」


「意識を保つのも難しい。はず……」


「ほっほっほ。そこまで落ちぶれておりませんぞ。ただ力は全く出ませんがな」


「……」


「真相は教えてはいただけませぬか。まあ、いいでしょう。こちらも少しは把握していると愚考しますぞ。そう、例えば君の能力について」


「しゃべるつもり、ない」


 口車には、乗らない。


「いいではないですか。吾輩はもう動けませぬし、君もまた疲弊している」


「それに、他の隊員ももう少しはここには来ないと思いますがの?」


 ……


「なに、ワートもそこまではやりすぎないでしょう。そこはわきまえておりますれば」


「それでも心配と言うのなら、行ってもいいですがの。他の隊員を信頼できないのは隊としてどうかと思いますぞ?」


「……」


 心配してなんか、ない。はず、なの、かな?


「沈黙が続きますか。回復に専念しているご様子。それもいいのではないか、とも思いますが、今はよろしくない」


 ! 何? 空気が、


「なぜか? なぜなら、口車に乗るまいとする抵抗、仲間を思うがための余裕のなさと、今にも寝てしまいたいと言う疲労感。また有利な状況における、慢心。それらの要因が私の変化に気づくことを遅らせたからですじゃ」


 気づいた。今。ようやく。


 もうそこには、か弱げで、小さな老人はいなかった。そこにいたのは……


「〈刀狂〉! なの?」


 そこには筋骨隆々、長身で白亜と同じ髪色を持つ壮年の男が大いなるオーラを放ちながら立っていた。


 こっちを見て、にっこりとほほ笑む。


「ほっほっほ。久しぶりでもございませぬが、やはりこの姿になってしまいましたか。それほどに君たちは素晴らしい」


「刀、どこ」


「確かに、〈刀狂〉、そう呼ばれております。得意な獲物も刀。しかし刀の本質とはその実体にあらず。人の心にこそあるのです」


「そんな、下から目線で言われても……」


「ほっほっほ。そうでしたのじゃ。夢中になって話していたもので。上に参りましょうか」


 一蹴り。それだけで、五メートル以上もある穴、超えた。


 近くに来られると威圧感で骨がきしむよう。


「この姿でこれ以上戦っても君の傷が増えるだけですな。ですが、本当の実戦ではそうはいきませんぞ。そしてこれは実戦に適しているか否かを確認する試験。捕まえることは目的とは言え、ある程度の痛みは伴うことを覚悟してしてもらいますのじゃ」


 こくりとうなずく。







 さっきから時々地面が割れたような轟音が聞こえてくる。これはいったいなんだ?


 だめだ。不安でうまく頭が回らない。


「て 言 う か! これおかしいだろ!」


 いくら走っても目的の場所につかないのだ。そんなに遠くまで来ていない。ミクリアの待機場所から五百メートルは離れていない。なのに———


「あっ! レナグー!!」


 横の林の中から泥だらけのララ。一体何があったんだろう……


「おおーい!」


 後ろから白亜の声。なんか嫌な予感がしてきた。


 そうして集合した三人による緊急会議。


「なあララ。なんでそんなに泥だらけなんだ?」


 神妙な顔つきで聞く。ララもまた神妙な顔つきで「こけた」とそれだけ。


「馬鹿なことやってないでちゃんとしろって」


「でもほんとにこけたんだもん。来た道にはぬかるみなんてなかったのに……」「て言うか、そっちも迷ってるじゃん!」


「俺だけじゃない。レナグもだ」


「ケンカしない、ケンカしない」


「じゃあ何すりゃいいんだ? ミクリアだって俺のじいちゃん相手にどん」


ぐらい持つかわからねえんだぞ」


「まずは、原因究明だな。みんな道は覚えてたよな? でも三人とも迷った。これはなんか、えーっと、なんかある気がする」


「究明……」


「ほら見ろお前もわかってねえじゃねえか!」


「仕方ないだろ。一夜漬けなんだから」


「まあ、あり得るのは幻覚系の———」


 二人のケンカに割って入ったララの言葉にさらに割って入ったその声は


「違うな。これは幻覚の類ではない」


 独特の粘り気のあるこの声は


「アンセントワート先生……」


「ごきげんよう二年生諸君。もっとも、一人ご機嫌ではなさそうな身なりをしたものがいるがね」

こんにちは、こんばんは。しらすおろしぽんずです。二十一節、ご一読ありがとうございます。戦闘描写が長くなってきてしまっていますが後二節、一週間ほどで試験は終わることができると思いますのでどうぞ楽しみにしていてください!

それでは、また。

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